甘く見てませんか? [妊娠]
先日、外来に一人の妊婦さんが初診で来られました。
紹介状もありません。
持ってきているのは母子手帳だけです。
聞くところによると、東京に住んでおられるのですが、
震災の影響で計画停電などがあるため「安心してお産ができない」、という理由で京都でのお産を希望されているというのです。
「ご実家が京都なんですか?」
「いいえ。」
「じゃあ、今はどこに住んでいるんですか?」
「友達の家に泊まっています。」
そのお友達の名前を聞くと、去年うちでお産をされた方でした。
きっと、うちでお産をしたんで、「よかったわよ。」なんて宣伝してくれたのかもしれません。
「大変ですね。」
「主人の仕事が、東京と大阪が半々くらいなんで、ちょうどその間でお産する場所を考えたんです。」
「ほう。」
「で、京都くらいがちょうどいいかなぁ~って。」
「ふーん。」
「もともと、助産院でお産をするつもりでいて、こちらでも助産院でのお産を希望しています。」
「はあ。」
「それで、来週になんとかある助産院の予約が取れたんですが、それまで少し間が空くので診てもらいに来ました。」
「なるほど。」
「今、住む家も探しているところなんです。」
事情はよくわかりました。
妊娠26週の初産婦。 年齢は、40歳をすこし過ぎておられます。
子宮筋腫もあるそうですが、前の病院(助産院の嘱託の病院)からは、
助産院で分娩しても、大丈夫だろうって言われているそうです。
たしかに、ボクがみても、筋腫が邪魔になることはなさそうでした。
初期のうち病院にちゃんと通っておられました。
その病院はけっこう大きな病院で、
母子手帳に記載されている数人のドクターの名前は、毎回全部違っていました。
この方を2回連続で診察した産婦人科医はいないということです。
産婦人科医がこれまでの経過として、助産院での分娩に問題はないと判断しているようです。
でも、ボクが嘱託をしている助産院なら分娩は受け入れないだろうと思いました。
やはり、年齢が高過ぎるからです。
普通にうちで出産しても、ハイリスク分娩加算が保険請求できます。
つまり、助産院では危険だと言うことなのです。
(もちろん、これは一般論です。)
「ところで、その助産院はどこなんですか?」
「奈良のほうです。」
(やっぱり)
「いろいろ探したんですが、そこしか空いてなくて…」
「京都の〇〇助産院はどうでした?」
「あそこは断られました。」
「でしょうね。」
ボクが嘱託している助産院は断ったようです。
理由は、やはり年齢だったそうです。
そして、奈良の助産院とは、2年ほど前にボクがここに書いたことがある、
助産院でした。
(「甘く見すぎたお産」で書いた助産院です。)
つい「やっぱり・・。」と思ったわけです。
確かに、年齢というファクターだけでその妊婦を評価するのはどうかと思います。
それだけで否定されるのは、本人にとってもつらいことなのでしょう。
しかしながら、妊娠経過は順調でも、分娩室で急変することはたくさんあるのです。
たとえば妊娠高血圧症は年齢が大きく左右する病態です。
この妊婦さんの分娩を取り扱う施設は、それなりに急変に対応できる準備や設備を整えておく必要があるでしょう。
こういった、「急変」に対して、この助産院は、どういった対応を準備しているのでしょうか?
嘱託医の意見も聞きたいところです。
また、妊婦自身があくまでも「ハイリスク妊婦」であるということを自覚していく必要もあります。
この妊婦さんも、自分は年齢的にハイリスクであることは認識しているものの、いままでかかった産婦人科医からとくに助産院での分娩が危険であるとは説明されていないということでした。
「年齢以外は、全くの正常の妊婦である」という理由で、
「多分、大丈夫」とされているのでしょう。
そして、そもそも、「助産院でお産する」ということの意味は何なんでしょう。
ボクが思うに、
一つは、
医療介入のない、自然なお産ができる、ということでしょう。
もう一つは、
産む前から始まって、お産の時、そして、産後の母乳育児まで、同じ助産師が継続的に関わっていける、という安心感と信頼関係でしょう。
お産の時に、家族で一緒に泊まり込むという、病院では普通考えられないオプションのために選ばれる方もいるでしょう。
お産の時に上のお子さんを見てくれる人がいない、という社会的資源の乏しさからくる理由です。
ある意味、これは仕方がない、とボクは思います。
いろいろ、考えてみたのですが、ボクが最終的にこの妊婦さんで感じた違和感は、
まず、京都でお産をする、という「根拠のなさ」です。
震災があったので、今これをどういうべきかわかりませんが、
確かに京都府は太平洋に面していないので津波は来ないでしょう。
ただ、「京都か奈良くらいがちょうどいいんじゃない?」っていう、
週末の小旅行気分が漂っています。
もう一つの違和感は、40歳を過ぎているにも関わらず、そして、
自分がハイリスク妊婦であることを十分わかっているにも関わらず、
今自分が身を寄せている友人宅から2時間以上かかる距離の助産院を選ぼうとしていることです。
ただ、距離感がないだけなのでしょうか?
なんか、お産そのものを甘く見ている気がしました。
「気を悪くしないで、ボクの言葉を聞いて欲しいのですが、」
ボクは慎重に言葉を選びながら、ゆっくりと話しました。
「まず、いくつかの助産院があなたのお産を担当できない、といった理由と、奈良の助産院だけが、受け入れてくれる、といった理由を自分なりに考えてください。」
「あなたが、もし、うちの病院でお産をしたい、とおっしゃるのならば、ボクらは責任をもって対応します。」
「ただ、突然、飛び込んでくるのは、びっくりするからやめてくださいね。 わはは。」
震災の影響で、東日本の「お産難民」が京都に移動してくることは仕方がないと思います。
ボクたちは、精一杯、受け入れていきたいです。
今、ボクたちにできる一番の「支援」はこれでしょう。
ただ、ところが変わっても、お産のリスクは変わりません。
あくまでも、安全なお産を大切にして頑張ります。
紹介状もありません。
持ってきているのは母子手帳だけです。
聞くところによると、東京に住んでおられるのですが、
震災の影響で計画停電などがあるため「安心してお産ができない」、という理由で京都でのお産を希望されているというのです。
「ご実家が京都なんですか?」
「いいえ。」
「じゃあ、今はどこに住んでいるんですか?」
「友達の家に泊まっています。」
そのお友達の名前を聞くと、去年うちでお産をされた方でした。
きっと、うちでお産をしたんで、「よかったわよ。」なんて宣伝してくれたのかもしれません。
「大変ですね。」
「主人の仕事が、東京と大阪が半々くらいなんで、ちょうどその間でお産する場所を考えたんです。」
「ほう。」
「で、京都くらいがちょうどいいかなぁ~って。」
「ふーん。」
「もともと、助産院でお産をするつもりでいて、こちらでも助産院でのお産を希望しています。」
「はあ。」
「それで、来週になんとかある助産院の予約が取れたんですが、それまで少し間が空くので診てもらいに来ました。」
「なるほど。」
「今、住む家も探しているところなんです。」
事情はよくわかりました。
妊娠26週の初産婦。 年齢は、40歳をすこし過ぎておられます。
子宮筋腫もあるそうですが、前の病院(助産院の嘱託の病院)からは、
助産院で分娩しても、大丈夫だろうって言われているそうです。
たしかに、ボクがみても、筋腫が邪魔になることはなさそうでした。
初期のうち病院にちゃんと通っておられました。
その病院はけっこう大きな病院で、
母子手帳に記載されている数人のドクターの名前は、毎回全部違っていました。
この方を2回連続で診察した産婦人科医はいないということです。
産婦人科医がこれまでの経過として、助産院での分娩に問題はないと判断しているようです。
でも、ボクが嘱託をしている助産院なら分娩は受け入れないだろうと思いました。
やはり、年齢が高過ぎるからです。
普通にうちで出産しても、ハイリスク分娩加算が保険請求できます。
つまり、助産院では危険だと言うことなのです。
(もちろん、これは一般論です。)
「ところで、その助産院はどこなんですか?」
「奈良のほうです。」
(やっぱり)
「いろいろ探したんですが、そこしか空いてなくて…」
「京都の〇〇助産院はどうでした?」
「あそこは断られました。」
「でしょうね。」
ボクが嘱託している助産院は断ったようです。
理由は、やはり年齢だったそうです。
そして、奈良の助産院とは、2年ほど前にボクがここに書いたことがある、
助産院でした。
(「甘く見すぎたお産」で書いた助産院です。)
つい「やっぱり・・。」と思ったわけです。
確かに、年齢というファクターだけでその妊婦を評価するのはどうかと思います。
それだけで否定されるのは、本人にとってもつらいことなのでしょう。
しかしながら、妊娠経過は順調でも、分娩室で急変することはたくさんあるのです。
たとえば妊娠高血圧症は年齢が大きく左右する病態です。
この妊婦さんの分娩を取り扱う施設は、それなりに急変に対応できる準備や設備を整えておく必要があるでしょう。
こういった、「急変」に対して、この助産院は、どういった対応を準備しているのでしょうか?
嘱託医の意見も聞きたいところです。
また、妊婦自身があくまでも「ハイリスク妊婦」であるということを自覚していく必要もあります。
この妊婦さんも、自分は年齢的にハイリスクであることは認識しているものの、いままでかかった産婦人科医からとくに助産院での分娩が危険であるとは説明されていないということでした。
「年齢以外は、全くの正常の妊婦である」という理由で、
「多分、大丈夫」とされているのでしょう。
そして、そもそも、「助産院でお産する」ということの意味は何なんでしょう。
ボクが思うに、
一つは、
医療介入のない、自然なお産ができる、ということでしょう。
もう一つは、
産む前から始まって、お産の時、そして、産後の母乳育児まで、同じ助産師が継続的に関わっていける、という安心感と信頼関係でしょう。
お産の時に、家族で一緒に泊まり込むという、病院では普通考えられないオプションのために選ばれる方もいるでしょう。
お産の時に上のお子さんを見てくれる人がいない、という社会的資源の乏しさからくる理由です。
ある意味、これは仕方がない、とボクは思います。
いろいろ、考えてみたのですが、ボクが最終的にこの妊婦さんで感じた違和感は、
まず、京都でお産をする、という「根拠のなさ」です。
震災があったので、今これをどういうべきかわかりませんが、
確かに京都府は太平洋に面していないので津波は来ないでしょう。
ただ、「京都か奈良くらいがちょうどいいんじゃない?」っていう、
週末の小旅行気分が漂っています。
もう一つの違和感は、40歳を過ぎているにも関わらず、そして、
自分がハイリスク妊婦であることを十分わかっているにも関わらず、
今自分が身を寄せている友人宅から2時間以上かかる距離の助産院を選ぼうとしていることです。
ただ、距離感がないだけなのでしょうか?
なんか、お産そのものを甘く見ている気がしました。
「気を悪くしないで、ボクの言葉を聞いて欲しいのですが、」
ボクは慎重に言葉を選びながら、ゆっくりと話しました。
「まず、いくつかの助産院があなたのお産を担当できない、といった理由と、奈良の助産院だけが、受け入れてくれる、といった理由を自分なりに考えてください。」
「あなたが、もし、うちの病院でお産をしたい、とおっしゃるのならば、ボクらは責任をもって対応します。」
「ただ、突然、飛び込んでくるのは、びっくりするからやめてくださいね。 わはは。」
震災の影響で、東日本の「お産難民」が京都に移動してくることは仕方がないと思います。
ボクたちは、精一杯、受け入れていきたいです。
今、ボクたちにできる一番の「支援」はこれでしょう。
ただ、ところが変わっても、お産のリスクは変わりません。
あくまでも、安全なお産を大切にして頑張ります。
こんなんでいいのか? [妊娠]
大地震・大津波で被災された方、お亡くなりになった方、いまだ行方不明の方、そして、その家族の方々に、
京都にいるボクがどういう言葉で、励ましたらいいのか、わかりません。
本当に、頑張ってください。心から祈っています。
大地震の影響は京都にもそれなりにあって、
日頃分娩の際に使用している薬の工場が壊滅したとか、倉庫が被災したとかで、
いくつかの薬の納入が出来なくなっています。
日々の診療だけでなく、そちらの対応をするのに大変です。
また、この1週間だけでも、東京方面から突然の里帰り出産を希望される方が3名ほどありました。
原子力発電所からの放射線の被ばくや計画停電の最中にお産になるのが怖いとかいう理由です。
中には、新幹線から電話をしてきて、京都駅からうちの病院に直行された方もありました。
うちの病院でも出来る限りの対応をしたいと思っています。
そんな中で、先日1人の妊婦さんが、外来の最後の枠に予約を取って受診されました。
つい、先週、妊婦健診を終えたばかりの方だったので、何か調子が悪かったのか?と心配しましたが、
予約外の患者さんが記入する小さな問診票に、
「診断書について、相談したいことがあります。」
書いてありました。
こういう文面を見た瞬間に、ボクは大体の話の内容を予想することができます。
ご主人と一緒に、申し訳なさそうに診察室に入ってこられました。
「どうされたんですか?」
「職場に出す診断書を書いてもらいたいんですが、3月末に産休が取れるように診断書を書いて欲しいんです。」
この方は、現在、27週なので、産休は普通、7週間先です。
「職場って、学校ですか?」
「はい・・・。 3月までに休まないと、4月以降に代用教員を探すのがほぼ不可能になるらしくて、それで、3月中に休めるように診断書をかいてもらってこい、と言われたんです。」
妊婦である本人さんも、ご主人も、つらそうにして、申し訳なさそうにして、困っています。
「ボクにウソの出産予定日を書いた証明書を書いてもらってこい、という意味でしょうか?」
「いえ・・そういう意味ではないんですが・・・。」
「残念ながら、ウソはかけません。 診断書は公文書なので、ウソはかけません。 それに、代用教員を探すのは、あなたの学校の上司がする仕事であって、あなたのせいでもありません。 もちろん、ボクの仕事でもありません。 その仕事のためにボクが公文書偽造させられるなんて、ありえないでしょう。 もし、診断書がどうしても必要なら、あなたではなくて、上司がボクのところに来るべきなんじゃないでしょうか? そもそも、診断書でどうこういう問題ではないと思います。 あくまでも学校の都合で、医療とは全く関係ありません。 校長先生が自分の責任で診断書を書いたらいいんです。」
「はい・・・。」
毎年、何人もの小学校の先生がうちの病院でお産をされますが、このテの診断書を希望される方が後を絶ちません。
・・・診断書、紙切れ一枚あったら、後は書類仕事で、代用教員を探せる。
そんないい加減な気持ちで、子どもたちの担任の先生が決められているとしたら、それこそ、実に悲しい問題です。
「子どもたちに迷惑かけたくないなら、診断書をもらってこい、っていうようなことをいわれました。」
「子どもたちは、そんなことで迷惑がりません。 むしろ、赤ちゃんが生まれた、って喜んでくれるはずです。」
「有給をとったらいいんじゃないですか?」
「有給では、代用教員を採用できないんです。」
教育の現場は、命の大切さを教える場でもあるんじゃないでしょうか?
そんな神聖であるはずの教育の現場で、妊娠したら、その主治医にウソの診断書を書かせて、適当に代用教員を探してやる、なんて、女性蔑視も甚だしいと思います。
うちの病院など、ナースが妊娠したら、産休・育児休暇で、ほかのスタッフに迷惑をかけたくない、という理由で一度退職される方もいます。退職したら、職場に人員が補充されるからです。
そして、退職しても、その後、また、非常勤なんかで復帰するのです。
これが正しい方法かどうかわかりません。
ナースは、その気になったらすぐに復職できる、珍しい職種かもしれません。
ただ、「子どもたちに迷惑をかけたくない」という理由で、早目に産休をを取らされるのなら、
妊娠した女性にとって、健康に働く、という権利を侵されているとしか考えられません。
なにもこのようなケースは、この方ばかりではないので、ボクはこの方を責める気持ちは全くありません。
むしろ、同情しているくらいです。
全国に、女性の校長先生なんていくらでもいると思います。
そんな人たちが、話し合って、こういった矛盾を改善していくことは簡単じゃないでしょうか?
安心して妊娠・出産ができない職場があること自体、
女性に対する人権侵害でしょう。
医師に対する冒涜でもあります。
教員の現場で、こんな人権侵害がごく当たり前にあるとしたら、
学級崩壊してしまうのもなんとなく理解できます。
ひとりの産婦人科医として許せない気持ちになります。
文部大臣、教育委員会、いつまでも、こんなんでいいんですか?
京都にいるボクがどういう言葉で、励ましたらいいのか、わかりません。
本当に、頑張ってください。心から祈っています。
大地震の影響は京都にもそれなりにあって、
日頃分娩の際に使用している薬の工場が壊滅したとか、倉庫が被災したとかで、
いくつかの薬の納入が出来なくなっています。
日々の診療だけでなく、そちらの対応をするのに大変です。
また、この1週間だけでも、東京方面から突然の里帰り出産を希望される方が3名ほどありました。
原子力発電所からの放射線の被ばくや計画停電の最中にお産になるのが怖いとかいう理由です。
中には、新幹線から電話をしてきて、京都駅からうちの病院に直行された方もありました。
うちの病院でも出来る限りの対応をしたいと思っています。
そんな中で、先日1人の妊婦さんが、外来の最後の枠に予約を取って受診されました。
つい、先週、妊婦健診を終えたばかりの方だったので、何か調子が悪かったのか?と心配しましたが、
予約外の患者さんが記入する小さな問診票に、
「診断書について、相談したいことがあります。」
書いてありました。
こういう文面を見た瞬間に、ボクは大体の話の内容を予想することができます。
ご主人と一緒に、申し訳なさそうに診察室に入ってこられました。
「どうされたんですか?」
「職場に出す診断書を書いてもらいたいんですが、3月末に産休が取れるように診断書を書いて欲しいんです。」
この方は、現在、27週なので、産休は普通、7週間先です。
「職場って、学校ですか?」
「はい・・・。 3月までに休まないと、4月以降に代用教員を探すのがほぼ不可能になるらしくて、それで、3月中に休めるように診断書をかいてもらってこい、と言われたんです。」
妊婦である本人さんも、ご主人も、つらそうにして、申し訳なさそうにして、困っています。
「ボクにウソの出産予定日を書いた証明書を書いてもらってこい、という意味でしょうか?」
「いえ・・そういう意味ではないんですが・・・。」
「残念ながら、ウソはかけません。 診断書は公文書なので、ウソはかけません。 それに、代用教員を探すのは、あなたの学校の上司がする仕事であって、あなたのせいでもありません。 もちろん、ボクの仕事でもありません。 その仕事のためにボクが公文書偽造させられるなんて、ありえないでしょう。 もし、診断書がどうしても必要なら、あなたではなくて、上司がボクのところに来るべきなんじゃないでしょうか? そもそも、診断書でどうこういう問題ではないと思います。 あくまでも学校の都合で、医療とは全く関係ありません。 校長先生が自分の責任で診断書を書いたらいいんです。」
「はい・・・。」
毎年、何人もの小学校の先生がうちの病院でお産をされますが、このテの診断書を希望される方が後を絶ちません。
・・・診断書、紙切れ一枚あったら、後は書類仕事で、代用教員を探せる。
そんないい加減な気持ちで、子どもたちの担任の先生が決められているとしたら、それこそ、実に悲しい問題です。
「子どもたちに迷惑かけたくないなら、診断書をもらってこい、っていうようなことをいわれました。」
「子どもたちは、そんなことで迷惑がりません。 むしろ、赤ちゃんが生まれた、って喜んでくれるはずです。」
「有給をとったらいいんじゃないですか?」
「有給では、代用教員を採用できないんです。」
教育の現場は、命の大切さを教える場でもあるんじゃないでしょうか?
そんな神聖であるはずの教育の現場で、妊娠したら、その主治医にウソの診断書を書かせて、適当に代用教員を探してやる、なんて、女性蔑視も甚だしいと思います。
うちの病院など、ナースが妊娠したら、産休・育児休暇で、ほかのスタッフに迷惑をかけたくない、という理由で一度退職される方もいます。退職したら、職場に人員が補充されるからです。
そして、退職しても、その後、また、非常勤なんかで復帰するのです。
これが正しい方法かどうかわかりません。
ナースは、その気になったらすぐに復職できる、珍しい職種かもしれません。
ただ、「子どもたちに迷惑をかけたくない」という理由で、早目に産休をを取らされるのなら、
妊娠した女性にとって、健康に働く、という権利を侵されているとしか考えられません。
なにもこのようなケースは、この方ばかりではないので、ボクはこの方を責める気持ちは全くありません。
むしろ、同情しているくらいです。
全国に、女性の校長先生なんていくらでもいると思います。
そんな人たちが、話し合って、こういった矛盾を改善していくことは簡単じゃないでしょうか?
安心して妊娠・出産ができない職場があること自体、
女性に対する人権侵害でしょう。
医師に対する冒涜でもあります。
教員の現場で、こんな人権侵害がごく当たり前にあるとしたら、
学級崩壊してしまうのもなんとなく理解できます。
ひとりの産婦人科医として許せない気持ちになります。
文部大臣、教育委員会、いつまでも、こんなんでいいんですか?
分娩時出血を減らす食事指導は? [妊娠]
産婦人科医会のお仕事を手伝っている関係で、助産師さん向けの講演を依頼され、昨日行ってきました。
ぎりぎりまで外来やら、術後の患者さんが落ち着かないやらで、あやうく遅れそうになりましたが、
汗を拭き拭き無事間に合いました。
テーマは、「分娩周辺の出血の対処」でした。
1時間半の持ち時間を少しオーバーしてしまいましたが、自分たちの苦い経験も含めての講演内容になりました。
お産の最終目標は、元気なお母さんが、元気な赤ちゃんを自分の手で抱っこして退院することだというメッセージもなんとか伝わったことだと思います。
最後の質問タイムで面白い質問がありました。
面白いと言ったら叱られるかもしれませんが。
「30年以上お産に関わってきていますが、昔に比べて最近の産婦さんは出血が多いような気がします。その原因の一つとして、食生活があるように思います。先生は、分娩時の出血を減らすために、なにか食事指導をされていますでしょうか?されていたとしたら、どのようなものでしょうか?」
京都でも超有名な助産院で働く助産師さんからの質問でした。
すばらしい質問です。
「私が思うに、出血が多くなる産婦さんは、やはり医療介入をした産婦さんが多くなる傾向があります。微弱陣痛などの後には弛緩出血が多くなり、吸引分娩をすればその分、産道損傷が大きくなります。そういった医療行為が必要な産婦さんは、結果として出血が多くなると思っています。一方で、何のトラブルもなく安産だった人は、不思議なくらい出血が少ないのは皆さんも経験されていると思います。出血を減らす食事指導はしていませんが、安産を導くような食事指導をすることで、結果的に出血は減らせるのではないでしょうか?」
ボクの答えは、もう少し長々と続いていましたが、要約するとこんなカンジでした。
たぶん、この助産師さんは「私はこうしている」という画期的な食事指導法をお持ちであったのかもしれません。ボクの回答にはあまり満足されていないようにも思いました。
欧米化した食生活が問題ではないか、くらいの意見だったのかもしれません。
もし、欧米化した食生活が問題であれば、国によって出血量が違うはずです。
古来の日本人が特別安産の国民であったなんていうデータがあれば別ですが。
ただ、その回答に、ボクは付け加えてしまいました。
「ボクが外来で食事指導するとき、いつもこういいます。『妊娠して食べなきゃいけないものは何一つありません。ただし、食べてはいけないものはいくつかあります。いつもどおりの食事を、食べ過ぎないように、いつもどおりにしてください。』と。それで十分だと思います。」
ボクが知る限り、そんなにめちゃくちゃな食生活をしている妊婦さんはいません。もちろん、若いお母さんでスナック菓子をやめられない人はいます。それでも、スナック菓子は塩分やカロリーが多くても、もともと子供も食べるから毒になるようなものは入っていないはずです。(そう信じています)
ちょっと口にしたくらいでダメな妊婦になるわけではないと思います。
「お産のときに出血が増えないようにするために、これを食べなさい。」
根拠もないのにそんなこと言えないですよね。
人前で話をするのは嫌いなほうではないので、また機会があればどんどんいろんな場所で話していきたいと思います。
ぎりぎりまで外来やら、術後の患者さんが落ち着かないやらで、あやうく遅れそうになりましたが、
汗を拭き拭き無事間に合いました。
テーマは、「分娩周辺の出血の対処」でした。
1時間半の持ち時間を少しオーバーしてしまいましたが、自分たちの苦い経験も含めての講演内容になりました。
お産の最終目標は、元気なお母さんが、元気な赤ちゃんを自分の手で抱っこして退院することだというメッセージもなんとか伝わったことだと思います。
最後の質問タイムで面白い質問がありました。
面白いと言ったら叱られるかもしれませんが。
「30年以上お産に関わってきていますが、昔に比べて最近の産婦さんは出血が多いような気がします。その原因の一つとして、食生活があるように思います。先生は、分娩時の出血を減らすために、なにか食事指導をされていますでしょうか?されていたとしたら、どのようなものでしょうか?」
京都でも超有名な助産院で働く助産師さんからの質問でした。
すばらしい質問です。
「私が思うに、出血が多くなる産婦さんは、やはり医療介入をした産婦さんが多くなる傾向があります。微弱陣痛などの後には弛緩出血が多くなり、吸引分娩をすればその分、産道損傷が大きくなります。そういった医療行為が必要な産婦さんは、結果として出血が多くなると思っています。一方で、何のトラブルもなく安産だった人は、不思議なくらい出血が少ないのは皆さんも経験されていると思います。出血を減らす食事指導はしていませんが、安産を導くような食事指導をすることで、結果的に出血は減らせるのではないでしょうか?」
ボクの答えは、もう少し長々と続いていましたが、要約するとこんなカンジでした。
たぶん、この助産師さんは「私はこうしている」という画期的な食事指導法をお持ちであったのかもしれません。ボクの回答にはあまり満足されていないようにも思いました。
欧米化した食生活が問題ではないか、くらいの意見だったのかもしれません。
もし、欧米化した食生活が問題であれば、国によって出血量が違うはずです。
古来の日本人が特別安産の国民であったなんていうデータがあれば別ですが。
ただ、その回答に、ボクは付け加えてしまいました。
「ボクが外来で食事指導するとき、いつもこういいます。『妊娠して食べなきゃいけないものは何一つありません。ただし、食べてはいけないものはいくつかあります。いつもどおりの食事を、食べ過ぎないように、いつもどおりにしてください。』と。それで十分だと思います。」
ボクが知る限り、そんなにめちゃくちゃな食生活をしている妊婦さんはいません。もちろん、若いお母さんでスナック菓子をやめられない人はいます。それでも、スナック菓子は塩分やカロリーが多くても、もともと子供も食べるから毒になるようなものは入っていないはずです。(そう信じています)
ちょっと口にしたくらいでダメな妊婦になるわけではないと思います。
「お産のときに出血が増えないようにするために、これを食べなさい。」
根拠もないのにそんなこと言えないですよね。
人前で話をするのは嫌いなほうではないので、また機会があればどんどんいろんな場所で話していきたいと思います。
「なんちゃって」はダメなんですよ [妊娠]
またまた、「助産院ネタ」で申し訳ないのですが。
ある助産院の嘱託医をしている関係で、ボクは助産院でお産をする妊婦さんの診察をします。
とくに中期と後期には必ずうちで診察することになっています。
そして、助産院でお産をする方には、「典型的なパターン」というのがあるのです。
食事は自然食、あるいはベジタリアン。
服装は、自然素材の草木染めで、基本薄着。巻き付ける感じのデザインの服。
5本指の靴下にレッグウォーマー。(旦那さんはなぜか裸足で、サンダル履き)
ノーメイク、あるいは限りなくノーメイクで、髪の毛は黒い。
薬や医療行為は基本的にNO。
もちろん、育児は完全母乳。
偏見といわれるかもしれませんが、こういう方が多いのは事実です。
これには、たいてい理由があります。
こういうタイプの方の多くが、もともと、アトピー性皮膚炎や喘息などのアレルギーの持病を持っておられるます。小さい頃から病気の症状でしんどい思いをしてきたばかりでなく、食事療法や制限食で頑張ってきて、行き着いたスタイルがこういうカンジになるのでしょう。(もちろんそれ以外の理由もたくさんあるので、そうでないという方はごめんなさい。)
それゆえ、食事は当然のこととして、化粧品や薬にはどうしても神経質になり、衣服にもなるべく自然素材のものを選ぶようになります。
自分の体調をなによりも理解しておられ、「ストイック」という言葉が似合うような、健康的な生活です。
こういう方は、体重管理もかんぺきだし、少しばかりの貧血なら自分なりの食事療法をして、ちゃんとお産になるまでには治します。
そういう方にとって、「お産は病気でない」という信念のもと、出産する場として助産院を選ぶことはごく自然な成り行きです。
いいんじゃないでしょうか?
「頑張って、いいお産をして、かわいい赤ちゃん産んでくださいね。」
そういって、妊娠後半の外来診察のとき、見送り?ます。
その一方で、こういう妊婦さんに、どうしても医療介入というか病院での治療や処置が必要になったときが大変です。
なかなか納得してもらえない方が少なからずおられます。
ただ、大切な赤ちゃんのため、と皆さん、不本意ながら?受け入れてもらいます。
病院側の人間としては納得していただくまで根気強く説明します。
これまでに苦労したことはこのブログでもしばしば書かせてもらいました。
妊婦さんの中には、この辺の切り替えの早い方とそうでない方があります。
そのあたりを見抜くチカラについては、おかげさまで最近自信が付いてきました。
病状を理解して、お互いを信頼しあうことができれば、あとは誠心誠意、治療をするわけです。
もともと、ご自分の体調を十分把握していられる方が多いので、かえってやりやすいこともあります。
ところが、助産院を選ぶ妊婦さんの中に、この手のパターンが当てはまらない方が、時々含まれています。
いわゆる「優等生タイプ」とでもいえばいいのでしょうか。
それとも、「マジメ過ぎタイプ」? うまく表現できません。
妊娠した直後から、猛勉強を始めるのです。
「よいお産とは?」
何冊も本を読み漁り、インターネットで情報収集します。
しかし、得られる情報なんて知れています。
食事がおいしい産院ランキング、マタニティーヨガ、無痛分娩、エステ・・・。
最近は分娩数制限をしている産院も多いので、どこで産むか、どうやって産むか、早く決めないと間に合いません。
行き着くところが、「自分なりのお産」、「アクティブバース」、「フリースタイル」、「自然食」・・・
自分のお産はこれしかない!
やってみよう!
そして、それを叶えてくれる聖地が「助産院」なのです。
妊娠した直後から始めた、食事療法は、たいてい、肉を魚に、コーヒーをジュースに、
お茶を牛乳に、便秘薬の変わりにヨーグルト、おやつはチーズとフルーツ。チョコレートも少しなら胎児によいらしい・・。
いままで、食事で苦労したことないから(つまり、アレルギーなんて経験したことがない)、何となく体に良さそうなものをどんどん取り入れます。
こういう方の妊娠は、妊娠中期に入った頃からすぐに異常が起こります。
体重が増えるのです。
「〇〇さん、体重増え過ぎですね。」
「そうなんです。でも、何にもしてないのに体重だけ増えるんです。」
「食べてるんじゃないですか?」
「体に悪いものは食べてません。 ちゃんと、ヨガもしてるし。」
「乳製品はどうですか? 牛乳とか、チーズとか、ヨーグルトとか。」
「もちろん食べてます。お通じが調子悪いのでヨーグルトを朝、昼、晩、食べてます。」
「チーズは?」
「赤ちゃんのためにカルシウムが要るじゃないですか?」
「・・・」
今の世の中、お母さんがチーズを食べないと赤ちゃん骨が弱るなんてことはありません。
それより、妊婦健診のたびに2、3キロずつ増える方が体に悪いのです。
ついでにいうと、ヨガでは痩せません。
こういう妊婦さんは、助産院では早い時期からマークされるようです。
そして、早めにうちの病院に紹介されてきます。
診察にくる頃、あらかじめ助産院の先生から連絡がきます。
「今度、先生のところに受診される方ですけど、多分、うちでは無理になりそうです。」
「どうして?」
「体重も増え過ぎですし・・。」
「体重だけですか?」
「いろいろ勉強されてるみたいなんですが、うちは『なんちゃって』はだめなんです。」
「はあ?」
「『にわかナチュラル』はダメなんです。」
そうなんです。
助産院ではこういう理由でも「安全にお産できない」と判断されます。
にわかに自然志向になってもすぐにばれてしまいます。
アクティブバースは、お産というものを自分自身の問題ととらえて、妊娠する前から自分を精神的にも肉体的に整えていく作業が必要なのです。
「そうねぇ・・私は、アクティブバースにしてみるわ。」といって、レストランのメニューをみたいに選ぶのではないのでしょう。
フリースタイルもそうです。
単なる「わがままなお産」がフリースタイルではないはずです。
産科医も小児科医もいない助産院で、責任を持って(赤ちゃんの命に対して)お産をしようとするとするなら、本当の意味での「自己管理」が必要です。
自己管理は体重だけではないのです。
しかし、妊娠中の自己管理の最初は体重管理に始まるのでしょう。
「助産院で産んでいい」のは、いわば妊婦のエリート中のエリートといっても言い過ぎではないのだと思います。
もちろん、病院で産むためにも大切なことばかりだと思いますが、病院にはボクたち以外に小児科の先生も入れば、麻酔科の先生もいます。少々のことがあっても安全なお産のために頑張ります。
ちなみに、毎年、年末年始で体重が増える妊婦さんが多いのですが、今年は意外と体重が増え過ぎてしまった妊婦さんはいませんでした。
皆さん、優秀でした。
(景気が悪いからかな?)
ある助産院の嘱託医をしている関係で、ボクは助産院でお産をする妊婦さんの診察をします。
とくに中期と後期には必ずうちで診察することになっています。
そして、助産院でお産をする方には、「典型的なパターン」というのがあるのです。
食事は自然食、あるいはベジタリアン。
服装は、自然素材の草木染めで、基本薄着。巻き付ける感じのデザインの服。
5本指の靴下にレッグウォーマー。(旦那さんはなぜか裸足で、サンダル履き)
ノーメイク、あるいは限りなくノーメイクで、髪の毛は黒い。
薬や医療行為は基本的にNO。
もちろん、育児は完全母乳。
偏見といわれるかもしれませんが、こういう方が多いのは事実です。
これには、たいてい理由があります。
こういうタイプの方の多くが、もともと、アトピー性皮膚炎や喘息などのアレルギーの持病を持っておられるます。小さい頃から病気の症状でしんどい思いをしてきたばかりでなく、食事療法や制限食で頑張ってきて、行き着いたスタイルがこういうカンジになるのでしょう。(もちろんそれ以外の理由もたくさんあるので、そうでないという方はごめんなさい。)
それゆえ、食事は当然のこととして、化粧品や薬にはどうしても神経質になり、衣服にもなるべく自然素材のものを選ぶようになります。
自分の体調をなによりも理解しておられ、「ストイック」という言葉が似合うような、健康的な生活です。
こういう方は、体重管理もかんぺきだし、少しばかりの貧血なら自分なりの食事療法をして、ちゃんとお産になるまでには治します。
そういう方にとって、「お産は病気でない」という信念のもと、出産する場として助産院を選ぶことはごく自然な成り行きです。
いいんじゃないでしょうか?
「頑張って、いいお産をして、かわいい赤ちゃん産んでくださいね。」
そういって、妊娠後半の外来診察のとき、見送り?ます。
その一方で、こういう妊婦さんに、どうしても医療介入というか病院での治療や処置が必要になったときが大変です。
なかなか納得してもらえない方が少なからずおられます。
ただ、大切な赤ちゃんのため、と皆さん、不本意ながら?受け入れてもらいます。
病院側の人間としては納得していただくまで根気強く説明します。
これまでに苦労したことはこのブログでもしばしば書かせてもらいました。
妊婦さんの中には、この辺の切り替えの早い方とそうでない方があります。
そのあたりを見抜くチカラについては、おかげさまで最近自信が付いてきました。
病状を理解して、お互いを信頼しあうことができれば、あとは誠心誠意、治療をするわけです。
もともと、ご自分の体調を十分把握していられる方が多いので、かえってやりやすいこともあります。
ところが、助産院を選ぶ妊婦さんの中に、この手のパターンが当てはまらない方が、時々含まれています。
いわゆる「優等生タイプ」とでもいえばいいのでしょうか。
それとも、「マジメ過ぎタイプ」? うまく表現できません。
妊娠した直後から、猛勉強を始めるのです。
「よいお産とは?」
何冊も本を読み漁り、インターネットで情報収集します。
しかし、得られる情報なんて知れています。
食事がおいしい産院ランキング、マタニティーヨガ、無痛分娩、エステ・・・。
最近は分娩数制限をしている産院も多いので、どこで産むか、どうやって産むか、早く決めないと間に合いません。
行き着くところが、「自分なりのお産」、「アクティブバース」、「フリースタイル」、「自然食」・・・
自分のお産はこれしかない!
やってみよう!
そして、それを叶えてくれる聖地が「助産院」なのです。
妊娠した直後から始めた、食事療法は、たいてい、肉を魚に、コーヒーをジュースに、
お茶を牛乳に、便秘薬の変わりにヨーグルト、おやつはチーズとフルーツ。チョコレートも少しなら胎児によいらしい・・。
いままで、食事で苦労したことないから(つまり、アレルギーなんて経験したことがない)、何となく体に良さそうなものをどんどん取り入れます。
こういう方の妊娠は、妊娠中期に入った頃からすぐに異常が起こります。
体重が増えるのです。
「〇〇さん、体重増え過ぎですね。」
「そうなんです。でも、何にもしてないのに体重だけ増えるんです。」
「食べてるんじゃないですか?」
「体に悪いものは食べてません。 ちゃんと、ヨガもしてるし。」
「乳製品はどうですか? 牛乳とか、チーズとか、ヨーグルトとか。」
「もちろん食べてます。お通じが調子悪いのでヨーグルトを朝、昼、晩、食べてます。」
「チーズは?」
「赤ちゃんのためにカルシウムが要るじゃないですか?」
「・・・」
今の世の中、お母さんがチーズを食べないと赤ちゃん骨が弱るなんてことはありません。
それより、妊婦健診のたびに2、3キロずつ増える方が体に悪いのです。
ついでにいうと、ヨガでは痩せません。
こういう妊婦さんは、助産院では早い時期からマークされるようです。
そして、早めにうちの病院に紹介されてきます。
診察にくる頃、あらかじめ助産院の先生から連絡がきます。
「今度、先生のところに受診される方ですけど、多分、うちでは無理になりそうです。」
「どうして?」
「体重も増え過ぎですし・・。」
「体重だけですか?」
「いろいろ勉強されてるみたいなんですが、うちは『なんちゃって』はだめなんです。」
「はあ?」
「『にわかナチュラル』はダメなんです。」
そうなんです。
助産院ではこういう理由でも「安全にお産できない」と判断されます。
にわかに自然志向になってもすぐにばれてしまいます。
アクティブバースは、お産というものを自分自身の問題ととらえて、妊娠する前から自分を精神的にも肉体的に整えていく作業が必要なのです。
「そうねぇ・・私は、アクティブバースにしてみるわ。」といって、レストランのメニューをみたいに選ぶのではないのでしょう。
フリースタイルもそうです。
単なる「わがままなお産」がフリースタイルではないはずです。
産科医も小児科医もいない助産院で、責任を持って(赤ちゃんの命に対して)お産をしようとするとするなら、本当の意味での「自己管理」が必要です。
自己管理は体重だけではないのです。
しかし、妊娠中の自己管理の最初は体重管理に始まるのでしょう。
「助産院で産んでいい」のは、いわば妊婦のエリート中のエリートといっても言い過ぎではないのだと思います。
もちろん、病院で産むためにも大切なことばかりだと思いますが、病院にはボクたち以外に小児科の先生も入れば、麻酔科の先生もいます。少々のことがあっても安全なお産のために頑張ります。
ちなみに、毎年、年末年始で体重が増える妊婦さんが多いのですが、今年は意外と体重が増え過ぎてしまった妊婦さんはいませんでした。
皆さん、優秀でした。
(景気が悪いからかな?)
17歳の妊婦さん [妊娠]
年末年始の大忙しがまだまだ続いています。
そろそろ冬の学会シーズンも始まるので、日ごろの診療以外に週末の会合の予定もあり、気が休まるヒマがありません。
妊婦健診をうける妊婦さん以外に、風邪を引いた妊婦さん、年末に妊娠反応がでたけど休みだったのでやっと診察にこられた方、お正月の里帰りを兼ねて里帰り出産の予約にこられた妊婦さん、予約外の患者さんも多くて、外来はあふれかえっています。
ボクがとりあげたお子さんを連れて、
「こんなに大きくなりました。 今回もよろしくお願いします。」
家族でぞろぞろと登場です。
そんな、にぎやかな外来に一人の妊婦さんが受診されました。
まだ、17歳の妊婦さんでした。
ボク以外のドクターが何回か診察しているのですが、超音波でみる胎児の大きさと妊娠週数が合っていません。
「あれれ? ちょっと大きすぎない?」
妊娠26週ということなのですが、28週の大きさです。
カルテをもう一度調べると、前回の診察で、胎児が小さすぎると、その週数の大きさに合わせて妊娠週数の修正がされていました。
どうやら思い切って、もともとの予定日よりも3週間あとに修正したようなのですが、さらにその前2回の健診のときの超音波での結果と照らし合わせてみて、修正は2週間くらいでよかったようです。
うちの病院に初めて受診したのが妊娠18週から20週ごろだったので、こういうことがおこったようです。
ふつう、最終月経がよくわからなかったり、もともと月経不順があったりすると、胎児のサイズで妊娠週数(つまり出産予定日)を決定しますが、これもせいぜい妊娠12週までに決めないと、あとになればなるほど誤差が大きくなってしまいます。
まあ、そんなに神経質にならなくても、なにより胎児は元気です。
羊水も十分だし、よく動いています。順調に発育もしています。
「〇〇さん、申し訳ないのですが、もう一度予定日を修正するかもしれません。 次の診察の時、もう一度超音波で見てから最終的に決めたいのですが・・・。」
「はい。わかりました。」
「初期のうちにしっかり診察して決めておかないといけなかったですが。」
今までの超音波検査のデータを紙に書いて、分かりやすく説明しました。
胎児の成長を調べるのに、頭部の幅や大腿骨の長さを調べます。
この赤ちゃんは、頭が少し小さめで、足がかなり長めだったので、どちらを優先するかで週数は変わってきます。
じつに悩ましいところです。
「すいません。 私がまじめに健診に来なかったから。」
妊娠のごく初期に、近くの産院を受診し、まだ胎児が小さな時期にだいたいの予定を決められたまま、それを胎児の大きさで修正することなくどんどん妊娠が経過したのです。
頭が小さめだけど、足が週数相当だね・・などなどで。
「それにしても、17歳なんですね。こうして話してても、あんまりしっかりしてるから、カルテの年齢見なければ17歳なんて気付かないですよ。」
この方と少し話していると、不思議な感覚になりました。
顔と話す内容に違和感があります。
妊娠がわかって、どうしようかと考える時期があったのだそうです。
高校にも通っていたし、ご両親や学校の先生とも今後のことについて相談していたというのです。
それで、妊娠が判って、健診をしばらく受けなかった時期があったのです。
「結局、学校も、親も、頑張ってお産しなさい、といってくれたんです。 学校も何とかなるって。」
「妊娠したら、みんなに叱られると思ってたんじゃない?」
「はい・・。」
「意外と、みんな、優しかったでしょう?」
「そうなんです。 びっくりしました。」
イメージ的には、若い子(特に学生さん)が妊娠すると、親がびっくりして、カレシが親にどつかれて、カレシの親は平謝り、本人は泣きじゃくる・・・なんて図が想像しやすいと思います。
でも、もともと日本の風土として、妊娠をめでたいこととして喜び、それを新しい家族の絆として受け入れることがあります。
初産婦さんの4割がいわゆる「できちゃった」というデータがあると聞いたことがあります。
つまり、妊娠→結婚という順番です。妊娠中に入籍して産むまでに姓が変わるなんてことはよくあることです。
そして、妊娠が判ると、叱られるどころか、周囲のみんなは自分が思ってた以上に、喜んでくれたり、励ましてくれたりするものです。
ただ、この若い妊婦さんの場合は、この方自身が本当にしっかりしていて、妊娠しても、結婚してもちゃんとしっかり、勉強も子育てもしてくれるだろうという安心感があります。
そういう部分を周囲の人が判っているからこそ、応援してくれたのではないでしょうか?
妊娠や出産は頑張れば何とかなるでしょう。でも、子育てになると、1人でなにもかも頑張るのは大変でしょう。
旦那さんや周囲の人がサポートしてくれないとしんどいでしょう。
「姉がいて、同じようにお産をしてるんで、いろいろ教えてもらっています。」
ボクの心配をよそに、すでに産んだ後のこともしっかりと考えているようでした。
お正月ボケと忙しくてフラフラになってるボクを、なぜかすごくさわやかな気持ちにさせてくれました。
こういう人は、お産が終わってからもどんどんオトナになっていくんだと思います。
「17歳の時、ボクってなにしてたっけ?」
自分と比べようとしたけれど、ほとんど記憶がないので、きっとなんにもしてなかったのでしょうね。
おととい食べた晩御飯も時々思い出せないので仕方がないかもしれませんが。
そろそろ冬の学会シーズンも始まるので、日ごろの診療以外に週末の会合の予定もあり、気が休まるヒマがありません。
妊婦健診をうける妊婦さん以外に、風邪を引いた妊婦さん、年末に妊娠反応がでたけど休みだったのでやっと診察にこられた方、お正月の里帰りを兼ねて里帰り出産の予約にこられた妊婦さん、予約外の患者さんも多くて、外来はあふれかえっています。
ボクがとりあげたお子さんを連れて、
「こんなに大きくなりました。 今回もよろしくお願いします。」
家族でぞろぞろと登場です。
そんな、にぎやかな外来に一人の妊婦さんが受診されました。
まだ、17歳の妊婦さんでした。
ボク以外のドクターが何回か診察しているのですが、超音波でみる胎児の大きさと妊娠週数が合っていません。
「あれれ? ちょっと大きすぎない?」
妊娠26週ということなのですが、28週の大きさです。
カルテをもう一度調べると、前回の診察で、胎児が小さすぎると、その週数の大きさに合わせて妊娠週数の修正がされていました。
どうやら思い切って、もともとの予定日よりも3週間あとに修正したようなのですが、さらにその前2回の健診のときの超音波での結果と照らし合わせてみて、修正は2週間くらいでよかったようです。
うちの病院に初めて受診したのが妊娠18週から20週ごろだったので、こういうことがおこったようです。
ふつう、最終月経がよくわからなかったり、もともと月経不順があったりすると、胎児のサイズで妊娠週数(つまり出産予定日)を決定しますが、これもせいぜい妊娠12週までに決めないと、あとになればなるほど誤差が大きくなってしまいます。
まあ、そんなに神経質にならなくても、なにより胎児は元気です。
羊水も十分だし、よく動いています。順調に発育もしています。
「〇〇さん、申し訳ないのですが、もう一度予定日を修正するかもしれません。 次の診察の時、もう一度超音波で見てから最終的に決めたいのですが・・・。」
「はい。わかりました。」
「初期のうちにしっかり診察して決めておかないといけなかったですが。」
今までの超音波検査のデータを紙に書いて、分かりやすく説明しました。
胎児の成長を調べるのに、頭部の幅や大腿骨の長さを調べます。
この赤ちゃんは、頭が少し小さめで、足がかなり長めだったので、どちらを優先するかで週数は変わってきます。
じつに悩ましいところです。
「すいません。 私がまじめに健診に来なかったから。」
妊娠のごく初期に、近くの産院を受診し、まだ胎児が小さな時期にだいたいの予定を決められたまま、それを胎児の大きさで修正することなくどんどん妊娠が経過したのです。
頭が小さめだけど、足が週数相当だね・・などなどで。
「それにしても、17歳なんですね。こうして話してても、あんまりしっかりしてるから、カルテの年齢見なければ17歳なんて気付かないですよ。」
この方と少し話していると、不思議な感覚になりました。
顔と話す内容に違和感があります。
妊娠がわかって、どうしようかと考える時期があったのだそうです。
高校にも通っていたし、ご両親や学校の先生とも今後のことについて相談していたというのです。
それで、妊娠が判って、健診をしばらく受けなかった時期があったのです。
「結局、学校も、親も、頑張ってお産しなさい、といってくれたんです。 学校も何とかなるって。」
「妊娠したら、みんなに叱られると思ってたんじゃない?」
「はい・・。」
「意外と、みんな、優しかったでしょう?」
「そうなんです。 びっくりしました。」
イメージ的には、若い子(特に学生さん)が妊娠すると、親がびっくりして、カレシが親にどつかれて、カレシの親は平謝り、本人は泣きじゃくる・・・なんて図が想像しやすいと思います。
でも、もともと日本の風土として、妊娠をめでたいこととして喜び、それを新しい家族の絆として受け入れることがあります。
初産婦さんの4割がいわゆる「できちゃった」というデータがあると聞いたことがあります。
つまり、妊娠→結婚という順番です。妊娠中に入籍して産むまでに姓が変わるなんてことはよくあることです。
そして、妊娠が判ると、叱られるどころか、周囲のみんなは自分が思ってた以上に、喜んでくれたり、励ましてくれたりするものです。
ただ、この若い妊婦さんの場合は、この方自身が本当にしっかりしていて、妊娠しても、結婚してもちゃんとしっかり、勉強も子育てもしてくれるだろうという安心感があります。
そういう部分を周囲の人が判っているからこそ、応援してくれたのではないでしょうか?
妊娠や出産は頑張れば何とかなるでしょう。でも、子育てになると、1人でなにもかも頑張るのは大変でしょう。
旦那さんや周囲の人がサポートしてくれないとしんどいでしょう。
「姉がいて、同じようにお産をしてるんで、いろいろ教えてもらっています。」
ボクの心配をよそに、すでに産んだ後のこともしっかりと考えているようでした。
お正月ボケと忙しくてフラフラになってるボクを、なぜかすごくさわやかな気持ちにさせてくれました。
こういう人は、お産が終わってからもどんどんオトナになっていくんだと思います。
「17歳の時、ボクってなにしてたっけ?」
自分と比べようとしたけれど、ほとんど記憶がないので、きっとなんにもしてなかったのでしょうね。
おととい食べた晩御飯も時々思い出せないので仕方がないかもしれませんが。
お腹の赤ちゃんには関係ないでしょ? [妊娠]
先日の土曜日の夜、当直をしていたら詰所から連絡がありました。
妊娠36週の妊婦さんから電話で、「さらさらした出血がある。」とのことでした。
助産師さんによると、お腹の痛みは分かりにくいというのです。
「早剝(常位胎盤早期剥離)かな?」
こんな出血で、子宮収縮が分かりづらい時は、早剝のことがあります。
違うことを願いながら、すぐに診察が必要なので受診するように伝えてもらいました。
この妊婦さんのカルテをみると、妊娠36週に入ったところで、胎児の大きさはどちらかというと小さめです。
胎児の推定体重は2100グラムと書いてあります。
おとなしそうなご夫婦で、二人とも落ち着いた感じの印象でした。
早速診察してみると、確かにさらさらした赤いおりものですが、どうやら破水ではなさそうです。
赤ちゃんの頭もよく下がってきていてますが、すぐに生まれそうな気配もありません。
「よかった。 少なくとも、破水じゃないみたいですね。」
出血も調べたら、破水の反応はなくて、「おしるし」のようです。
「歩きすぎましたか? 赤ちゃん、よく下がってるし。」
「はぁ、そんなことはないです。 ただ、無理をしていたかもしれません。」
「そうなんですか? 満期まであと少しですから、なるだけ安静にしてくださいね。」
「それで、明後日なんですが、出かけてもいいですか?」
「無理はしない方がいいですね。 何があるんですか?」
「じつは、私、ロー・スクールに通っているんです。 どうしても行っておかないと、また単位とるのが大変なんです。 毎日毎日、レポート書かないといけないんです。」
「はぁ・・・。 出血してたら止めときましょうね。」
「出血が止まっていたら、いいですか?」
「いいですか?って、ボクに聞くことじゃないと思います。 ボクの奥さんなら行かせません。」
「出血が止まっていたなら、行ってもいいですよね?」
「大変なのはよくわかりますが、世の中では、妊娠34週からは産休といって、仕事も休みになります。 あとはご自分で判断してください。」
「・・・・・」 これだけ言っても、まったく納得されていない様子でした。
ちなみに、ロー・スクールとは法科大学院のことです。
(Wikipediaで調べたら、修了すると、新司法試験の受験資格と「法務博士(専門職)」の専門職学位が与えられる、と書いてありました。)
つまり、もともとは法学部を出ていなくて、社会人になった人が法科大学院で勉強して、司法試験の受験資格がもらえるっていうことです。
そりゃ、大変でしょう。並大抵の根性では通用しない世界のようにも思えます。
ボクの高校時代の同級生にもロー・スクールに通っているのがいて、同窓会で会ったとき、しんどい、って言ってました。
だから、知ってます。
この方を診察した後、詰所でカルテを書いていました。
着替えを終わって、そとで待っていたご主人と一緒に詰所の前を通ってこられたので、詰所の前の廊下でご主人にも説明することにしました。
「破水はしてませんでした。出血も心配ではありますが少し様子を見たいと思います。 あと、少しの間ですから、くれぐれも無理をしないようにお願いしま・・・」
ボクが、そう言い終わるか終らないうちに、
ご主人が、ボクの言葉を遮るように、こう言ってきました。
「彼女は、ロー・スクールに通っていて、すごく大変なんです。 無理をするなと言われましても・・・」
その瞬間、ボクの頭に血が上ったような感覚が走りました。
(つまり、カチンときました)
「それは、さっき、ご本人からお聞きしました。 今現在、妊娠10カ月とはいえ、まだ産んではいけない、36週です。 しかも、2100グラムという胎児発育遅延があります。 この時期の出血を甘く見ると、胎盤早期剥離など、怖い状況になることもあります。 そもそも、人間は、妊娠34週で産休に入るんです。 34週を過ぎたら、無理をするなっていうことです。 いろんな大変な事情は、誰にでもそれぞれあります。 しかし、今は、おなかの赤ちゃんのことを最優先に考えるべき、大切な時期ではないんでしょうか? そこから先は、ご自身で判断してください。 ボクが許可するとか、しないとか、そういう次元の問題ではありません。 少なくとも、今、あなた方がおっしゃっている事情は、お腹の赤ちゃんにはまったく関係ないと思います。 (ロー・スクールがなんぼのもんじゃいっ!)」
一瞬で、興奮してしまい、べらべらと言いたいことを言ってしまいました。
お二人とも、びっくりしたのか、やれやれと思っていたのか、ニヤニヤしてました。
あきれるばかりです。
命、それも自分たちの子供の命に対して、なんて不誠実な気持ちなんでしょう?
法律を勉強する前に、なにかもっと大切なもの、つまり、命の大切さを知るべきではないでしょうか?
その日から2、3日、ボクはイライラが収まりませんでした。
(たたでさえ、新型インフルエンザのワクチン騒動で腹が立っていたのに・・・。)
お腹の赤ちゃんのことを、なによりも大切にしたいと思う気持ちがあれば、
どうするべきか、すぐにわかるはずです。
ボクが許可するとか、許可しないとか、そういう問題ではないでしょう。
せめて、この方たちの赤ちゃんが無事にお産になって、元気に生まれ、育ってほしいと願うばかりです。
赤ちゃんが元気でないと、お母さんはお勉強どころではないのでしょうから。
こういう方たちに対してこそ、冷静に話をしないと、きっと馬鹿にされるんでしょうね。
産婦人科医として、まだまだ修行は続きます。
妊娠36週の妊婦さんから電話で、「さらさらした出血がある。」とのことでした。
助産師さんによると、お腹の痛みは分かりにくいというのです。
「早剝(常位胎盤早期剥離)かな?」
こんな出血で、子宮収縮が分かりづらい時は、早剝のことがあります。
違うことを願いながら、すぐに診察が必要なので受診するように伝えてもらいました。
この妊婦さんのカルテをみると、妊娠36週に入ったところで、胎児の大きさはどちらかというと小さめです。
胎児の推定体重は2100グラムと書いてあります。
おとなしそうなご夫婦で、二人とも落ち着いた感じの印象でした。
早速診察してみると、確かにさらさらした赤いおりものですが、どうやら破水ではなさそうです。
赤ちゃんの頭もよく下がってきていてますが、すぐに生まれそうな気配もありません。
「よかった。 少なくとも、破水じゃないみたいですね。」
出血も調べたら、破水の反応はなくて、「おしるし」のようです。
「歩きすぎましたか? 赤ちゃん、よく下がってるし。」
「はぁ、そんなことはないです。 ただ、無理をしていたかもしれません。」
「そうなんですか? 満期まであと少しですから、なるだけ安静にしてくださいね。」
「それで、明後日なんですが、出かけてもいいですか?」
「無理はしない方がいいですね。 何があるんですか?」
「じつは、私、ロー・スクールに通っているんです。 どうしても行っておかないと、また単位とるのが大変なんです。 毎日毎日、レポート書かないといけないんです。」
「はぁ・・・。 出血してたら止めときましょうね。」
「出血が止まっていたら、いいですか?」
「いいですか?って、ボクに聞くことじゃないと思います。 ボクの奥さんなら行かせません。」
「出血が止まっていたなら、行ってもいいですよね?」
「大変なのはよくわかりますが、世の中では、妊娠34週からは産休といって、仕事も休みになります。 あとはご自分で判断してください。」
「・・・・・」 これだけ言っても、まったく納得されていない様子でした。
ちなみに、ロー・スクールとは法科大学院のことです。
(Wikipediaで調べたら、修了すると、新司法試験の受験資格と「法務博士(専門職)」の専門職学位が与えられる、と書いてありました。)
つまり、もともとは法学部を出ていなくて、社会人になった人が法科大学院で勉強して、司法試験の受験資格がもらえるっていうことです。
そりゃ、大変でしょう。並大抵の根性では通用しない世界のようにも思えます。
ボクの高校時代の同級生にもロー・スクールに通っているのがいて、同窓会で会ったとき、しんどい、って言ってました。
だから、知ってます。
この方を診察した後、詰所でカルテを書いていました。
着替えを終わって、そとで待っていたご主人と一緒に詰所の前を通ってこられたので、詰所の前の廊下でご主人にも説明することにしました。
「破水はしてませんでした。出血も心配ではありますが少し様子を見たいと思います。 あと、少しの間ですから、くれぐれも無理をしないようにお願いしま・・・」
ボクが、そう言い終わるか終らないうちに、
ご主人が、ボクの言葉を遮るように、こう言ってきました。
「彼女は、ロー・スクールに通っていて、すごく大変なんです。 無理をするなと言われましても・・・」
その瞬間、ボクの頭に血が上ったような感覚が走りました。
(つまり、カチンときました)
「それは、さっき、ご本人からお聞きしました。 今現在、妊娠10カ月とはいえ、まだ産んではいけない、36週です。 しかも、2100グラムという胎児発育遅延があります。 この時期の出血を甘く見ると、胎盤早期剥離など、怖い状況になることもあります。 そもそも、人間は、妊娠34週で産休に入るんです。 34週を過ぎたら、無理をするなっていうことです。 いろんな大変な事情は、誰にでもそれぞれあります。 しかし、今は、おなかの赤ちゃんのことを最優先に考えるべき、大切な時期ではないんでしょうか? そこから先は、ご自身で判断してください。 ボクが許可するとか、しないとか、そういう次元の問題ではありません。 少なくとも、今、あなた方がおっしゃっている事情は、お腹の赤ちゃんにはまったく関係ないと思います。 (ロー・スクールがなんぼのもんじゃいっ!)」
一瞬で、興奮してしまい、べらべらと言いたいことを言ってしまいました。
お二人とも、びっくりしたのか、やれやれと思っていたのか、ニヤニヤしてました。
あきれるばかりです。
命、それも自分たちの子供の命に対して、なんて不誠実な気持ちなんでしょう?
法律を勉強する前に、なにかもっと大切なもの、つまり、命の大切さを知るべきではないでしょうか?
その日から2、3日、ボクはイライラが収まりませんでした。
(たたでさえ、新型インフルエンザのワクチン騒動で腹が立っていたのに・・・。)
お腹の赤ちゃんのことを、なによりも大切にしたいと思う気持ちがあれば、
どうするべきか、すぐにわかるはずです。
ボクが許可するとか、許可しないとか、そういう問題ではないでしょう。
せめて、この方たちの赤ちゃんが無事にお産になって、元気に生まれ、育ってほしいと願うばかりです。
赤ちゃんが元気でないと、お母さんはお勉強どころではないのでしょうから。
こういう方たちに対してこそ、冷静に話をしないと、きっと馬鹿にされるんでしょうね。
産婦人科医として、まだまだ修行は続きます。
ワクチン、打ったほうがいいですか? [妊娠]
インフルエンザが大変なことになってます。
そのうち、もうみんながかかってしまい、ワクチンなんか要らないんじゃないか?って思うくらい、すでにかなり流行しています。
10月っていってた新型のワクチンもほとんど病院に供給されていません。
皆さんからの問い合わせも多く、外来ではその説明だけで一日が終わるって言うくらいです。
「妊娠しててワクチン打ってもいいんですか?」
「ワクチンそのものにアレルギーとかなければ、赤ちゃんには大丈夫ってことになっています。」
「ワクチン、怖いんですけど。」
「注射がいやなの?」
「いえ、ワクチン、ってのが抵抗あります。」
毎年、インフルエンザ(いわゆる季節性の)の時期になるとボクは妊婦さんにワクチンを勧めています。
少なくとも、ボクの患者さんは全員ワクチンを受けてるものと信じていました。
ところが、今、2回目の妊娠中で、前回もこの時期に妊娠していた妊婦さんのカルテを見ると、
意外にもワクチンをしてない方が多いのです。
ほとんど全員にしていたと思っていたのですが、
実際には、一部の希望者にしかワクチンを打っていなかったのです。
妊娠中にワクチンを希望している人はボクが思っているより多くはありませんでした。
ワクチンの説明をして、そして、もしインフルエンザになったとしてもタミフルなどの治療薬も妊娠中に使用できますよと付け加えます。
「やっぱり、打ったほうがいいですか?」
「そのほうがいいと思いますけど・・・。」
こっちも、すこし歯切れの悪いカンジです。
実は、ワクチンの供給そのものが十分ではない現在において、絶対受けたほうがいいって言えないのがつらいところです。
妊娠中にインフルエンザにかかったとして、赤ちゃんに対する影響はそれほど心配しなくてもいいようです。
ただ、新型インフルエンザは妊婦の死亡例が報告され、ハイリスクといわれている限り、十分な予防の対策が必要でしょう。
それに、軽症例が多いのも事実です。
医療者として悩むところです。
十分な予防策を講じることで安心できるのは確かです。
かといって、あまりヒステリックになって不安を煽るのもどうかと思います。
しかしながら、いろいろ考えてみて、これだけはいえるといます。
ひとつは、お産で入院中にインフルエンザになった時、やはり、「母子分離」となることです。
発症してから1週間は直接母乳をあげることができないことになります。
入院中はともかくとして、お産で家に帰ったあと、お母さんがインフルエンザに罹ったとしたら誰が赤ちゃんにお乳をあげるのでしょう?
もうひとつは、病院に対する影響です。
うちの産科病棟の隣にはNICUもあり、小さな赤ちゃんたちが呼吸器つけて頑張っています。
そんなうちの産科病棟でインフルエンザが蔓延してしまったら・・・。
最悪の事態も考えられます。
ワクチンを受けてもインフルエンザにかかる人はいます。
それは仕方がありません。
ワクチンそのもので深刻な副作用が出ることもあります。
しかし、個人的な好みでワクチンを受けずに、たまたま入院中にインフルエンザが発症したとしたら、その代償は意外と大きなものになるかもしれません。
予想できない分、悩みます。
現状では、妊婦さんからワクチンを打ったほうがいいかと訊かれたら、こう答えるしかありません。
「できたら、全員受けて欲しいと思っています」
そして、うがい、手洗い、部屋の十分な換気、なによりも十分な体力の温存(疲れすぎない)が大切なことはいうまでもありません。
そのうち、もうみんながかかってしまい、ワクチンなんか要らないんじゃないか?って思うくらい、すでにかなり流行しています。
10月っていってた新型のワクチンもほとんど病院に供給されていません。
皆さんからの問い合わせも多く、外来ではその説明だけで一日が終わるって言うくらいです。
「妊娠しててワクチン打ってもいいんですか?」
「ワクチンそのものにアレルギーとかなければ、赤ちゃんには大丈夫ってことになっています。」
「ワクチン、怖いんですけど。」
「注射がいやなの?」
「いえ、ワクチン、ってのが抵抗あります。」
毎年、インフルエンザ(いわゆる季節性の)の時期になるとボクは妊婦さんにワクチンを勧めています。
少なくとも、ボクの患者さんは全員ワクチンを受けてるものと信じていました。
ところが、今、2回目の妊娠中で、前回もこの時期に妊娠していた妊婦さんのカルテを見ると、
意外にもワクチンをしてない方が多いのです。
ほとんど全員にしていたと思っていたのですが、
実際には、一部の希望者にしかワクチンを打っていなかったのです。
妊娠中にワクチンを希望している人はボクが思っているより多くはありませんでした。
ワクチンの説明をして、そして、もしインフルエンザになったとしてもタミフルなどの治療薬も妊娠中に使用できますよと付け加えます。
「やっぱり、打ったほうがいいですか?」
「そのほうがいいと思いますけど・・・。」
こっちも、すこし歯切れの悪いカンジです。
実は、ワクチンの供給そのものが十分ではない現在において、絶対受けたほうがいいって言えないのがつらいところです。
妊娠中にインフルエンザにかかったとして、赤ちゃんに対する影響はそれほど心配しなくてもいいようです。
ただ、新型インフルエンザは妊婦の死亡例が報告され、ハイリスクといわれている限り、十分な予防の対策が必要でしょう。
それに、軽症例が多いのも事実です。
医療者として悩むところです。
十分な予防策を講じることで安心できるのは確かです。
かといって、あまりヒステリックになって不安を煽るのもどうかと思います。
しかしながら、いろいろ考えてみて、これだけはいえるといます。
ひとつは、お産で入院中にインフルエンザになった時、やはり、「母子分離」となることです。
発症してから1週間は直接母乳をあげることができないことになります。
入院中はともかくとして、お産で家に帰ったあと、お母さんがインフルエンザに罹ったとしたら誰が赤ちゃんにお乳をあげるのでしょう?
もうひとつは、病院に対する影響です。
うちの産科病棟の隣にはNICUもあり、小さな赤ちゃんたちが呼吸器つけて頑張っています。
そんなうちの産科病棟でインフルエンザが蔓延してしまったら・・・。
最悪の事態も考えられます。
ワクチンを受けてもインフルエンザにかかる人はいます。
それは仕方がありません。
ワクチンそのもので深刻な副作用が出ることもあります。
しかし、個人的な好みでワクチンを受けずに、たまたま入院中にインフルエンザが発症したとしたら、その代償は意外と大きなものになるかもしれません。
予想できない分、悩みます。
現状では、妊婦さんからワクチンを打ったほうがいいかと訊かれたら、こう答えるしかありません。
「できたら、全員受けて欲しいと思っています」
そして、うがい、手洗い、部屋の十分な換気、なによりも十分な体力の温存(疲れすぎない)が大切なことはいうまでもありません。
Rhマイナスでよかった! [妊娠]
妊娠すると、血液検査の中に必ず血液型というのがあります。
お産のときに出血が多くて、万一輸血するときのために予め血液型を調べておくというのが一番の理由なのだとは思うのですが、それ以外の目的として、Rhとか、不規則抗体とか、いわゆる血液型不適合妊娠の検査があります。
とくにRhマイナスの場合は、母体が妊娠中に胎児のRhプラスに感作されて抗体ができてしまうしまうと、次の妊娠のときに、今度はその抗体で胎児を攻撃してしまうことなどがおこる可能性があるのです。
そのために、妊娠中期に念のためにグロブリンを注射します。
この辺は意見が分かれるところでもありますが、うちの病院では同意の上、グロブリンを注射することを勧めています。
先日、ある妊婦さんがうちの病院でお産するために受診されました。
すでに妊娠34週です。
それまで、自宅近くの、お産を取り扱っていない診療所で検診を受けておられました。
分娩予約がてらに4月に一度だけうちの病院に受診されていました。
今年の4月から母子手帳にいろんな検査項目の公費負担券が付いてきたので、3月中に妊娠初期の採血検査をそちらで済ませていたのですが、もったいないので初期にしかできない検査をしておくことにしたのです。
その中に血液型もあったのであわせてしておきました。
もちろん、いくつかの検査項目が重複することはご本人も承知の上でした。
そして、この方の血液型がRhマイナスだったのです。
帰ってきた検査結果はすべてチェックするのですが、この方の結果を見て、Rhマイナスに赤いボールペンで二重丸のマークをつけていただけで、ついそのままになってしまっていたのでした。
本当に申し訳ないのですが、それ以上のアクションをしなかったことを反省するばかりです。
そして、その34週で受診された際に、
「血液型、Rhマイナスでしたね。 連絡しなくてすみませんでした。 ところで、グロブンリン注射は済んでますか?」
カルテの、4月の受診した際の記載に、はっきりと『診療券でもう一度採血』と記載してあるので、少なからず、ホッと胸をなでおろしました。
「えっ? A型のRhプラスって聞いてますけど。」
「ええっ? Rhマイナスなんですけど。」
「前回のお産のとき、Rhプラスって聞いています。」
なんと、今回は2回目のお産だったので、今までかかっていた診療所では血液型を調べていなかったのです。
今回はたまたま公費負担券をもらえたので調べたわけです。
「子供はRhマイナスなんです。 ついでに弟も。 でも、私はプラスって聞いていました。」
「ご主人は?」
「知りません。」
「ご主人が、もし、Rhマイナスなら、今回のお腹の赤ちゃんもRhマイナスだから、抗体ができてこないはずです。」
「???」
この方も、何がなんだか理解できていない様子でもありました。
すぐさまこの方が前回お産した産院に連絡し、確認したところ、やはりRhマイナスでした。
そして、それが単なる見落としだったということで謝っておられました。
謝って済む話か?と一瞬思いましたが、うえのお子さんがRhマイナスで助かったわけです。
でも、上のお子さんの血液型は臍帯血で調べているので、そのときに気づくチャンスがあったわけでもあります。
幸いにも、今回の妊娠初期も、34週で直ちに行った検査でも不規則抗体検査が陰性という結果でした。
今のところ、Rhプラスで感作されていません。
次は、問題のご主人の血液型です。
お仕事で忙しいご主人に、紹介もとの診療所に行ってもらい、血液型を調べてもらいました。
3日後、電話で連絡がありました。
「主人も、Rhマイナスでした。」
確認のために、検査結果をファックスしてもらい、この目で確認しました。
「Rhマイナスでよかった!」
これで、グロブリン注射の必要はなくなりました。
もちろん産んでからも必要ありません。(産んでからは赤ちゃんの血液型を調べてから行いますが)
血液型がRhマイナスだったことでこれほどホッとしたことは今まで一度もありませんでした。
多分、一番ホッとしたのは、最初のお産をした産婦人科の先生だと思いますが。
せっかくした検査も、結果をちゃんと見てひとつひとつ、丁寧に患者さんに説明しないと、何のためにしたのかわからなくなります。
今回は、反省することが多かったです。
まだまだ修行は続きます。
がんばります!
お産のときに出血が多くて、万一輸血するときのために予め血液型を調べておくというのが一番の理由なのだとは思うのですが、それ以外の目的として、Rhとか、不規則抗体とか、いわゆる血液型不適合妊娠の検査があります。
とくにRhマイナスの場合は、母体が妊娠中に胎児のRhプラスに感作されて抗体ができてしまうしまうと、次の妊娠のときに、今度はその抗体で胎児を攻撃してしまうことなどがおこる可能性があるのです。
そのために、妊娠中期に念のためにグロブリンを注射します。
この辺は意見が分かれるところでもありますが、うちの病院では同意の上、グロブリンを注射することを勧めています。
先日、ある妊婦さんがうちの病院でお産するために受診されました。
すでに妊娠34週です。
それまで、自宅近くの、お産を取り扱っていない診療所で検診を受けておられました。
分娩予約がてらに4月に一度だけうちの病院に受診されていました。
今年の4月から母子手帳にいろんな検査項目の公費負担券が付いてきたので、3月中に妊娠初期の採血検査をそちらで済ませていたのですが、もったいないので初期にしかできない検査をしておくことにしたのです。
その中に血液型もあったのであわせてしておきました。
もちろん、いくつかの検査項目が重複することはご本人も承知の上でした。
そして、この方の血液型がRhマイナスだったのです。
帰ってきた検査結果はすべてチェックするのですが、この方の結果を見て、Rhマイナスに赤いボールペンで二重丸のマークをつけていただけで、ついそのままになってしまっていたのでした。
本当に申し訳ないのですが、それ以上のアクションをしなかったことを反省するばかりです。
そして、その34週で受診された際に、
「血液型、Rhマイナスでしたね。 連絡しなくてすみませんでした。 ところで、グロブンリン注射は済んでますか?」
カルテの、4月の受診した際の記載に、はっきりと『診療券でもう一度採血』と記載してあるので、少なからず、ホッと胸をなでおろしました。
「えっ? A型のRhプラスって聞いてますけど。」
「ええっ? Rhマイナスなんですけど。」
「前回のお産のとき、Rhプラスって聞いています。」
なんと、今回は2回目のお産だったので、今までかかっていた診療所では血液型を調べていなかったのです。
今回はたまたま公費負担券をもらえたので調べたわけです。
「子供はRhマイナスなんです。 ついでに弟も。 でも、私はプラスって聞いていました。」
「ご主人は?」
「知りません。」
「ご主人が、もし、Rhマイナスなら、今回のお腹の赤ちゃんもRhマイナスだから、抗体ができてこないはずです。」
「???」
この方も、何がなんだか理解できていない様子でもありました。
すぐさまこの方が前回お産した産院に連絡し、確認したところ、やはりRhマイナスでした。
そして、それが単なる見落としだったということで謝っておられました。
謝って済む話か?と一瞬思いましたが、うえのお子さんがRhマイナスで助かったわけです。
でも、上のお子さんの血液型は臍帯血で調べているので、そのときに気づくチャンスがあったわけでもあります。
幸いにも、今回の妊娠初期も、34週で直ちに行った検査でも不規則抗体検査が陰性という結果でした。
今のところ、Rhプラスで感作されていません。
次は、問題のご主人の血液型です。
お仕事で忙しいご主人に、紹介もとの診療所に行ってもらい、血液型を調べてもらいました。
3日後、電話で連絡がありました。
「主人も、Rhマイナスでした。」
確認のために、検査結果をファックスしてもらい、この目で確認しました。
「Rhマイナスでよかった!」
これで、グロブリン注射の必要はなくなりました。
もちろん産んでからも必要ありません。(産んでからは赤ちゃんの血液型を調べてから行いますが)
血液型がRhマイナスだったことでこれほどホッとしたことは今まで一度もありませんでした。
多分、一番ホッとしたのは、最初のお産をした産婦人科の先生だと思いますが。
せっかくした検査も、結果をちゃんと見てひとつひとつ、丁寧に患者さんに説明しないと、何のためにしたのかわからなくなります。
今回は、反省することが多かったです。
まだまだ修行は続きます。
がんばります!
この日が来るのはわかっていました [妊娠]
昨日、一人の患者さんが外来に来られました。
30歳代ですが冷え性がきつくて、漢方で治療中の方です。
次の受診予約は2週間後のはずで、今日は予約外の受診です。
「調子でも悪いのかな?」
なんて思いながら、外来のパソコン画面に並ぶ受診患者さんの名前を見ていました。
「生理がきてないそうです・・・。」
看護婦さんがなにやら深刻な様子です。
実は、この方、これまでに3回お産をされていて、3回とも帝王切開でした。
帝王切開のあと子宮の筋層がまだ十分に回復していない時期にすぐに妊娠してしまうと、妊娠中に子宮が破裂することがあるため、一般的には、最低1年間、あるいは2、3年くらい避妊するように指導します。
この方の一度目のお産は、他院で帝王切開でした。
この方が前医でどんな指導をされたのかもわかりません。
そして、ボクとこの方の出会いは、そのあとでした。
7年くらい前になるでしょうか。
妊娠30週くらいの切迫早産で他院から救急搬送されてきました。
一人目の帝王切開のあと、2ヶ月で妊娠したのだそうです。
すでに子宮口が陣痛もないのに開いてきており、1ヶ月以上入院治療して、妊娠36週で陣痛発来し、緊急帝王切開になりました。
開腹すると、子宮の筋層がぱっくり割れて、赤ちゃんが卵膜越しに透けて見えていました。
潜在性子宮破裂でした。
「やっぱり、子宮が戻ってなかったね。 次はちゃんと避妊してくださいよ。」
「はい。」
男の子が二人続いたので、次は女の子がいいななどと妊娠中から話していました。
そして、3年前、また妊娠されました。
約束通り?、指導の通り?避妊期間を十分においての妊娠でしたので無事に経過しました。
今度は、おそらく、待望の女の子です。
予定の帝王切開の前に、ボクは避妊手術の説明をしました。
帝王切開と同時に卵管の手術をすることで避妊することができます。
避妊方法は他にもいくつかあるので、絶対ではないのですが、選択の一つとして説明します。
この方も、今までの怖い経験があったので、最初は避妊手術を希望されていました。
しかし、直前の前日になって、避妊手術はしないとおっしゃったのです。
「先生、やっぱり避妊手術はしなくてもいいですか?」
「もちろん。 ボクが決めることじゃないですから。」
ただ、帝王切開のとき、開腹すると、やはり、子宮の筋層がきわめて薄くなっていました。
子宮破裂はありませんでしたが、まさに、「薄皮一枚」の状態でした。
「次の妊娠は、無理しないほうがいいね。」
「・・・・はい。」
そして、2年経ち、今回の妊娠となりました。
診察室に神妙な顔つきで入ってこられました。
「妊娠ですか?」
「怖くて、自分では検査してません。」
予め採っていた尿で検査すると、妊娠反応は陽性でした。
「・・・・、妊娠してるみたいですね。・・・・・。」
この瞬間、産婦人科医は患者さんの表情など、言葉に出ない信号はないかと、集中します。
産みたくて妊娠したのか、産みたくなくて妊娠してしまったのか、知りたいからです。
次にかける言葉も微妙に変わるのです。
「・・・・・」
何も話さず、黙っておられます。
「どうしたの?」
「大丈夫ですか?」
「子宮のこと?」
「はい。 怖くて。」
「どうなるかは、ボクにはわかりません。 たしかにボクも怖いですね。」
たしかに、次の妊娠がどうなるかなんて、さっぱりわかりません。
ただ、元気な産声を聞くまでは心配と緊張が続くことでしょう。
「先生に叱られると思って・・・。」
「何で?」
「せっかく言ってもらったのに、私が(避妊手術を)断ったから。」
「それは、ボクが決めることではないからね。」
「いいんですか?」
「いいもなにも、こうして、妊娠して、この診察室にすわった瞬間から、お腹の赤ちゃんはボクの患者さんです。」
「・・・・。」
「今回の妊娠で、もしかしたらあなたは死ぬかもしれない。 どんな妊娠も、同じように危険があります。 そして、その危険が、他の人より高いだけです。」
「大丈夫なんですか?」
「わかりません。 でも、危険を承知で妊娠したからには、頑張るしかないんじゃない?」
「はい。」
前の帝王切開の直前に、避妊手術を中止したいとおっしゃったときに、いつかこの日が来ることはわかってました。
「また、ボクがこの病院を辞める日が延びちゃったね。 わはは。」
またひとつ、頑張らないといけないお産が増えました。
30歳代ですが冷え性がきつくて、漢方で治療中の方です。
次の受診予約は2週間後のはずで、今日は予約外の受診です。
「調子でも悪いのかな?」
なんて思いながら、外来のパソコン画面に並ぶ受診患者さんの名前を見ていました。
「生理がきてないそうです・・・。」
看護婦さんがなにやら深刻な様子です。
実は、この方、これまでに3回お産をされていて、3回とも帝王切開でした。
帝王切開のあと子宮の筋層がまだ十分に回復していない時期にすぐに妊娠してしまうと、妊娠中に子宮が破裂することがあるため、一般的には、最低1年間、あるいは2、3年くらい避妊するように指導します。
この方の一度目のお産は、他院で帝王切開でした。
この方が前医でどんな指導をされたのかもわかりません。
そして、ボクとこの方の出会いは、そのあとでした。
7年くらい前になるでしょうか。
妊娠30週くらいの切迫早産で他院から救急搬送されてきました。
一人目の帝王切開のあと、2ヶ月で妊娠したのだそうです。
すでに子宮口が陣痛もないのに開いてきており、1ヶ月以上入院治療して、妊娠36週で陣痛発来し、緊急帝王切開になりました。
開腹すると、子宮の筋層がぱっくり割れて、赤ちゃんが卵膜越しに透けて見えていました。
潜在性子宮破裂でした。
「やっぱり、子宮が戻ってなかったね。 次はちゃんと避妊してくださいよ。」
「はい。」
男の子が二人続いたので、次は女の子がいいななどと妊娠中から話していました。
そして、3年前、また妊娠されました。
約束通り?、指導の通り?避妊期間を十分においての妊娠でしたので無事に経過しました。
今度は、おそらく、待望の女の子です。
予定の帝王切開の前に、ボクは避妊手術の説明をしました。
帝王切開と同時に卵管の手術をすることで避妊することができます。
避妊方法は他にもいくつかあるので、絶対ではないのですが、選択の一つとして説明します。
この方も、今までの怖い経験があったので、最初は避妊手術を希望されていました。
しかし、直前の前日になって、避妊手術はしないとおっしゃったのです。
「先生、やっぱり避妊手術はしなくてもいいですか?」
「もちろん。 ボクが決めることじゃないですから。」
ただ、帝王切開のとき、開腹すると、やはり、子宮の筋層がきわめて薄くなっていました。
子宮破裂はありませんでしたが、まさに、「薄皮一枚」の状態でした。
「次の妊娠は、無理しないほうがいいね。」
「・・・・はい。」
そして、2年経ち、今回の妊娠となりました。
診察室に神妙な顔つきで入ってこられました。
「妊娠ですか?」
「怖くて、自分では検査してません。」
予め採っていた尿で検査すると、妊娠反応は陽性でした。
「・・・・、妊娠してるみたいですね。・・・・・。」
この瞬間、産婦人科医は患者さんの表情など、言葉に出ない信号はないかと、集中します。
産みたくて妊娠したのか、産みたくなくて妊娠してしまったのか、知りたいからです。
次にかける言葉も微妙に変わるのです。
「・・・・・」
何も話さず、黙っておられます。
「どうしたの?」
「大丈夫ですか?」
「子宮のこと?」
「はい。 怖くて。」
「どうなるかは、ボクにはわかりません。 たしかにボクも怖いですね。」
たしかに、次の妊娠がどうなるかなんて、さっぱりわかりません。
ただ、元気な産声を聞くまでは心配と緊張が続くことでしょう。
「先生に叱られると思って・・・。」
「何で?」
「せっかく言ってもらったのに、私が(避妊手術を)断ったから。」
「それは、ボクが決めることではないからね。」
「いいんですか?」
「いいもなにも、こうして、妊娠して、この診察室にすわった瞬間から、お腹の赤ちゃんはボクの患者さんです。」
「・・・・。」
「今回の妊娠で、もしかしたらあなたは死ぬかもしれない。 どんな妊娠も、同じように危険があります。 そして、その危険が、他の人より高いだけです。」
「大丈夫なんですか?」
「わかりません。 でも、危険を承知で妊娠したからには、頑張るしかないんじゃない?」
「はい。」
前の帝王切開の直前に、避妊手術を中止したいとおっしゃったときに、いつかこの日が来ることはわかってました。
「また、ボクがこの病院を辞める日が延びちゃったね。 わはは。」
またひとつ、頑張らないといけないお産が増えました。
死産を乗り越えて・・・ [妊娠]
昨日、ひとりのお母さんが無事赤ちゃんを抱っこして退院されました。
おばあちゃんと赤ちゃんと3人で静かな退院の風景でした。
実は、この方、昨年のちょうど今頃、悲しい死産を経験された方でした。
救急車で搬送されたときにはすでに厳しい状況でした。
胎児を救命するにしても状況が悪すぎて、手を出せない状況でした。
様子を見るという選択肢しかない、つらくて長い入院生活でした。
そして、入院中の胎内死亡。
悲しみに打ちひしがれながらのお産。
産婦人科医にとっても、もっとも悲しいお産でした。
主治医の先生は何日も立ち直れませんでした。
しかしながら、この方は、けっして誰を責めるわけでもなく、ただ静かに耐えておられたと感じました。
そして、少したって、その方が再び来院されました。
妊娠されたのです。
担当していた主治医の先生も気が引き締まる思いだったでしょう。
ボクが主治医で健診していたわけではないので、すこし距離を置いてその方を見ていました。
外来で会ったときに挨拶するくらいです。
母親教室にも参加して、他の妊婦さんたちと同じように、お産についての注意事項を熱心に聴いておられたのが、ボクには少し痛々しく感じるくらいでした。
「不安はそれぞれあると思います。 頑張りましょう。」
母親教室で、その方にボクの思いが通じたかどうかはわかりませんでした。
そして、ボクが当直の日の早朝、その方は陣痛が始まって入院となり、
そのまま、自然に、上手に、静かに、元気な赤ちゃんをお産されました。
泣くわけでもなく、笑うわけでもなく、ただ、ホッとした、という表情でした。
余分な声かけは要らないと感じました。
「お疲れ様でした。 長かったね。 いいお産でした。 ゆっくり休んでください。」
そして、なんの異常もなく、母児ともに数日が過ぎ、退院の日が来ました。
退院のとき、もう一度、会ったのですが、その人の目をみるとほとんど何もいわないのに、
なぜかたくさんのことを感じました。
この方の、前回の死産は、全然終わっていないのだと思いました。
むしろ、これから、元気な赤ちゃんを育てながら、
死産で失った子供ことを思い続けるのでしょう。
この方の目は、その決心、いや覚悟を感じさせました。
「これから先、いろんなことを考えると思いますが、頑張ってね。」
ボクがかけることができた言葉はこれが精一杯でした。
おばあちゃんと赤ちゃんと3人で静かな退院の風景でした。
実は、この方、昨年のちょうど今頃、悲しい死産を経験された方でした。
救急車で搬送されたときにはすでに厳しい状況でした。
胎児を救命するにしても状況が悪すぎて、手を出せない状況でした。
様子を見るという選択肢しかない、つらくて長い入院生活でした。
そして、入院中の胎内死亡。
悲しみに打ちひしがれながらのお産。
産婦人科医にとっても、もっとも悲しいお産でした。
主治医の先生は何日も立ち直れませんでした。
しかしながら、この方は、けっして誰を責めるわけでもなく、ただ静かに耐えておられたと感じました。
そして、少したって、その方が再び来院されました。
妊娠されたのです。
担当していた主治医の先生も気が引き締まる思いだったでしょう。
ボクが主治医で健診していたわけではないので、すこし距離を置いてその方を見ていました。
外来で会ったときに挨拶するくらいです。
母親教室にも参加して、他の妊婦さんたちと同じように、お産についての注意事項を熱心に聴いておられたのが、ボクには少し痛々しく感じるくらいでした。
「不安はそれぞれあると思います。 頑張りましょう。」
母親教室で、その方にボクの思いが通じたかどうかはわかりませんでした。
そして、ボクが当直の日の早朝、その方は陣痛が始まって入院となり、
そのまま、自然に、上手に、静かに、元気な赤ちゃんをお産されました。
泣くわけでもなく、笑うわけでもなく、ただ、ホッとした、という表情でした。
余分な声かけは要らないと感じました。
「お疲れ様でした。 長かったね。 いいお産でした。 ゆっくり休んでください。」
そして、なんの異常もなく、母児ともに数日が過ぎ、退院の日が来ました。
退院のとき、もう一度、会ったのですが、その人の目をみるとほとんど何もいわないのに、
なぜかたくさんのことを感じました。
この方の、前回の死産は、全然終わっていないのだと思いました。
むしろ、これから、元気な赤ちゃんを育てながら、
死産で失った子供ことを思い続けるのでしょう。
この方の目は、その決心、いや覚悟を感じさせました。
「これから先、いろんなことを考えると思いますが、頑張ってね。」
ボクがかけることができた言葉はこれが精一杯でした。