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死産を乗り越えて・・・ [妊娠]

昨日、ひとりのお母さんが無事赤ちゃんを抱っこして退院されました。
おばあちゃんと赤ちゃんと3人で静かな退院の風景でした。

実は、この方、昨年のちょうど今頃、悲しい死産を経験された方でした。

救急車で搬送されたときにはすでに厳しい状況でした。
胎児を救命するにしても状況が悪すぎて、手を出せない状況でした。
様子を見るという選択肢しかない、つらくて長い入院生活でした。

そして、入院中の胎内死亡。
悲しみに打ちひしがれながらのお産。

産婦人科医にとっても、もっとも悲しいお産でした。
主治医の先生は何日も立ち直れませんでした。

しかしながら、この方は、けっして誰を責めるわけでもなく、ただ静かに耐えておられたと感じました。

そして、少したって、その方が再び来院されました。
妊娠されたのです。
担当していた主治医の先生も気が引き締まる思いだったでしょう。

ボクが主治医で健診していたわけではないので、すこし距離を置いてその方を見ていました。
外来で会ったときに挨拶するくらいです。
母親教室にも参加して、他の妊婦さんたちと同じように、お産についての注意事項を熱心に聴いておられたのが、ボクには少し痛々しく感じるくらいでした。

 「不安はそれぞれあると思います。 頑張りましょう。」

母親教室で、その方にボクの思いが通じたかどうかはわかりませんでした。

そして、ボクが当直の日の早朝、その方は陣痛が始まって入院となり、
そのまま、自然に、上手に、静かに、元気な赤ちゃんをお産されました。

泣くわけでもなく、笑うわけでもなく、ただ、ホッとした、という表情でした。
余分な声かけは要らないと感じました。

 「お疲れ様でした。 長かったね。 いいお産でした。 ゆっくり休んでください。」

そして、なんの異常もなく、母児ともに数日が過ぎ、退院の日が来ました。

退院のとき、もう一度、会ったのですが、その人の目をみるとほとんど何もいわないのに、
なぜかたくさんのことを感じました。

この方の、前回の死産は、全然終わっていないのだと思いました。
むしろ、これから、元気な赤ちゃんを育てながら、
死産で失った子供ことを思い続けるのでしょう。
この方の目は、その決心、いや覚悟を感じさせました。

 「これから先、いろんなことを考えると思いますが、頑張ってね。」

ボクがかけることができた言葉はこれが精一杯でした。



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ちばおハム

私も看護学生のときに死産された方をみて、かなりショックを受けました。
自分の受け持ちの産婦さんのお産も合わせてみたことで、ショックはかなり強く、10年以上、子どもはうめない、と思い続けていました。

なにも言葉がかけられないという先生の気持ち、わかるような気がします。

子どもを育てている人も今は事情があって、子どもがいない人も女の人は心の中に何人かの子どもがいる人がいますよね。
みんな自分の子どもたちであって、いつも忘れていない大事な子どもたちです。

haruさん、とってもやさしいなあ。
いい先生なんでしょうね。

by ちばおハム (2009-07-06 10:40) 

ぽぽん

コメント残させていただくの2回目です^^

産科にかわる仕事をしていますが、
私自身、子供の誕生死の経験がありまして
(妊娠中に胎児両腎臓形成不全により羊水過少
→誕生後呼吸不全により予後絶対不良の宣告。)

haru先生の今回の記事を拝見し、
声をかけられずとも、そう思い、見守ってくださっていた
ドクターやスタッフが私にもいたんなと再度思いかえし、
また久しぶりに心が温かくなりました。仕事がんばろーと思いました^^

ちばおハムさんの
”子どもを育てている人も今は事情があって、子どもがいない人も
女の人は心の中に何人かの子どもがいる人がいますよね。
みんな自分の子どもたちであって、
いつも忘れていない大事な子どもたちです。”
・・・という言葉も、わかってくれてる人がいるんだと、
涙がちょちょぎれそうになりました。

私は前のお産から4年経ちますが、
事情あって次の子供をもうけていません。
だけどやっぱり、今、手元にいない子も、かけがえのない大事な私の子供です。

また大事なことにharuさんの記事で思い出させていただきました。
ありがとうございます。仕事がんばります^^
by ぽぽん (2009-07-06 13:52) 

うそっきー

そのお母さんは 前回の経験を忘れたくないために、
またそれを乗り越えて人生を続けていく覚悟を持ち、
センセイの病院へ 二度目の来院をしたのだと思います。

強い方ですね。 辛い経験ですが、得がたい素晴らしい経験に
自らの手で 変えていらっしゃる。

感動しました。

by うそっきー (2009-07-06 21:19) 

haru

ちばおハムさん、コメントありがとうございます。
かける言葉がない。
これがボクたちの本音の部分です。
変に声をかけようとすると、本来意図した意味とは違う言葉として受け取られてしまいそうになります。
ただ、かける言葉がない時は、かける言葉を思いつかないということを伝えるだけで十分だと考えています。
十分な信頼関係があれば、それで十分なのではないでしょうか?
by haru (2009-07-07 12:59) 

haru

ぽぽんさん、コメントありがとうございます。
もうつらくて悲しいお産はしたくない。
そう思って、ひとつひとつのお産を大切に頑張っています。
そして、ボクは、経験した悲しいお産を忘れたいとは思ったことはありません。
忘れられない、ということもあるかもしれませんが、いつまでも、覚えていてあげたいのです。

by haru (2009-07-07 13:09) 

haru

うそっきーさん、コメントありがとうございます。
この方が、うちの病院で2度目のお産をされたことは、ボクとしてはよかったと思います。
この方やご家族の心配は計り知れないものだったと思います。
担当医の先生が、全身全霊で、この方を支え続けた結果、無事、今回の分娩に至ることができたのだと思います。

by haru (2009-07-07 13:17) 

りょお

本当に、強い方ですね。
きっと、ステキなお母さんになることでしょうね。
2度目のお産が、ステキなお産になって、本当に良かったです。
by りょお (2009-07-07 22:34) 

haru

りょおさんコメントありがとうございます。
一日一日、子育てする中で、喜びを感じておられるはずです。
本当に良かった!です。
by haru (2009-07-08 20:30) 

にゃみ

無事出産できてよかったですねm(_ _)m
by にゃみ (2009-07-08 22:39) 

haru

にゃみさん、コメントありがとうございます。
今回、この方に関しては「生きた赤ちゃん」を出産できることが絶対条件でした。そのためには、早産になってしまうこともやむを得ない、それくらいの覚悟で臨みました。
結局、ボクたち産婦人科医が手出しをしなくても十分に自然なお産ができたことはこの上ない喜びなのです。
by haru (2009-07-09 15:09) 

リリー

その天使ママさんは、haru先生のいるその病院と先生をとても信頼していたんですね!
そして、無事出産・・・先生も天使ママさんも本当に嬉しかったことと思います^^ おめでとうございます♪

心の中ではたくさんの不安も抱えていたと思いますが、それを乗り越えての妊娠・出産。
そして、何よりそのことを先生方は理解していてくれる。
天使たちのことも忘れないでいてくれる。
こんなに心強く、嬉しいことはありません!

天使ママは可愛い我が子を抱きながら、お空の子に想いを馳せる。
私もお空にいる子も一緒に抱きしめてるつもりで、赤ちゃんのお世話をしています。

きっとお空で天使ちゃんたちも喜んでいて、先生たちを応援していますね♪



by リリー (2009-07-11 01:55) 

haru

りりーさん、コメントありがとうございます。
このお母さんは、残念だった赤ちゃんを心の中で抱きしめながら、今回の妊娠・出産を乗り切ったように思えます。
タイトルの「死産を乗り越えて」はもしかしたら不適切なタイトルだったかもしれませんね。
失った赤ちゃんと一緒に、つらさを乗り越えるという意味ですね。
by haru (2009-07-13 07:59) 

琴子の母

立て続けになってしまいますが…どうしても一言!

こうやって優しく見守ってくださる方がいるというのは、本当に嬉しいし、心強いです。
そして、無事に生まれてくれて良かった、本当に良かった。

読み始めてすぐ、
「泣いちゃだめ、今は泣いちゃだめ!」(註;仕事中)
とおもっていたのですが、しっかり泣いちゃいました;;

haruさんのブログは天使ママに向けてくれたコメントもあって、本当に嬉しい気持ちになれます。
有難うございます。
by 琴子の母 (2009-07-28 16:10) 

haru

琴子の母さん、もう一度、コメントありがとうございます。
死産と向き合うことは、ボクたち産婦人科医にとって、大きな課題でもあるのです。
なんとなく冷たく感じてしまう産婦人科医は、多分、後ろめたさやどうしていいのかわからない気持ちなどがあり、そうさせているのではないかと思うのです。
ボクたちもなんとかしたい気持ちで、いつも頑張っています。
応援お願いしますね。
by haru (2009-07-28 23:44) 

あい

私も子宮内胎児死亡してるので・・・・・・私にも赤ちゃん来るのかななんて思いながら読みました!

1人目は、無事に出産。
2人目は、子宮内胎児死亡。
3人目は・・・・・・

どうることやら。

頑張ります!!
by あい (2014-11-27 21:06) 

haru

あいさん、コメントありがとうございます。
つらかったと思います。
頑張って下さい。
次に妊娠されたとき、きっと担当する産科医も気が引き締まる思いでしょう。

by haru (2014-12-13 16:48) 

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