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そこまでやさしくなれるんですね [妊娠]

開業して3年目、最近、少しずつ忙しくなってきました。
患者さんの待ち時間はなるべく短くしたいと心がけていますが、
自分が大切だと思うことは、やはり手を抜きたくありません。
妊婦健診の患者さんは、超音波検査や内診、そして、生活指導があり、一人あたりの診察時間がどうしても長くなりがちです。
うちのクリニックは分娩を取り扱っていないので、
周辺の施設と連携したうえで妊婦健診をおこなっていますが、
診察が終わっても、それぞれの妊婦さんに不安や心配事がないか尋ねます。
そして、スタッフも助産師さんがいるときは、
ぼくが健診したあとにも助産師さんによる相談や指導も行っています。

そんな中の、一人の妊婦さんのことです。

その方は、もともと妊娠を希望してうちに紹介されてきた方です。
その方のホームドクターが、ボクの高校の同級生で、大学は1年先輩の内科医で、
結婚してしばらく経っても妊娠しないと、ボクに紹介してくれたのです。
何かと不安が強い方でしたが、いくつかの検査で不妊の原因も判明して、
その後、なんとか無事に妊娠に至りました。

妊娠しても、やはり不安は強く、診察時間は長くなります。

その方が出産する施設でも健診を受けているのですが、
ときどきうちのクリニックでも健診を受けに来られます。
忙しい大きな病院の外来診察では、限られた時間の中で、
この方の不安はなかなか解決できません。
ただ、妊娠経過にすこし心配があったので
出産する病院での継続的な健診を受けるよう、紹介しました。

そして先日、久しぶりに予約を取って健診に来られました。
妊娠の経過が落ち着いていることもあり、
「心配事」の相談があるそうです。
妊婦健診や詳しい超音波検査だけでなく、
ボクと話すことで、いろいろな不安が少しずつでも解決します。
診察室に入ってこられたとき、
長かった髪の毛をバッサリと切り、ショートカットになっていました。
女性が髪の毛を切るときは失恋と、昔から相場が決まっているもんですが、
妊娠や出産をきっかけに髪を切る方も少なくありません。

うちのスタッフが、「髪の毛、切ったんですね?」と声掛けをすると、
「はい、ヘアドネーションしました・・・。」

 「??」

最初、恥ずかしながら、何のことかわからなかったのですが、
すぐにスマホで検索して、納得しました。
切った髪の毛をウィッグにして、化学療法で抜けてしまった子供たちなどに提供するのです。

「どうせ切るなら、なんかの役に立ちたいと思ったので・・・。」 
 「なるほど。いいことですね。」


「なんか、夜になると子宮の左だけが突っ張る感じあるんですが、胎盤とか大丈夫ですか?」
「病院の健診は診察時間が短くて、聞きたいことが聞けないんですが、その病院で健診を続けてて大丈夫ですか?」
「病院の先生に、あまり動き回らないように言われたんですが、どこまでならいいんですか?」
「陣痛が来たらどうしたらいいんですか?」

妊娠は、不安だらけです。
妊娠のしんどさを、経験した人ならわかってもらえると思いますが、たぶんその8割くらいが「不安」です。
「案ずるより産むがやすし」という言葉がありますが、
やってみたら大したことなかった、という意味ではなくて、本当は案ずることが一番しんどかった、という意味ではないかとも思います。

この方の、案じてばかりの妊娠期間は、
自分やおなかの赤ちゃんのことばかりに収まらず、
ついに、病気と闘っている子供たちのことにまで及んでいたのです。
いいお産をしなくっちゃ、とか、
元気な赤ちゃんと産まなくちゃ、
という責任感を通り越しているのです。

 「そこまで、やさしくなれるんですね。」

素直にそう思いました。

 「大丈夫、絶対、いいお産ができますよ。」

だって、よその子供たちのことまで考えることができるんですから、
どんな痛みがあっても、あなたの心配を超えることはないでしょう。




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