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お世話になりました、お世話になります [産婦人科医]

今日、
ボクは、産婦人科医としてひとつの通過点に立っています。

今月末をもって、20年以上の勤務医生活に終止符をうち、
しばらくの準備期間をおいて、
個人クリニックを開業することにしました。

長い間、
自分が思う産婦人科医としての道を歩いてくることができたのは、
多くの人の導き、励まし、支え、後押し、そして、お叱りがあったからこそだと、
感謝しています。

思い立ったのは、
一年前の、周産期専門医になった頃です。
それまでは、
くじけそうになって、逃げ出しそうになって、
いやになって、泣きそうになって、
もうだめだ、と、
どうにもならないときに、
選択肢の一つとして、
「開業」をという言葉を口にすることもありました。

それでも、
ボクには、たくさんの患者さんや仲間の笑顔をという財産がありました。
どんなにしんどくても、
また、仲間とともに、
笑顔で前に進んでいくことができました。

しかしながら、
体力的な限界を感じ、
残りの人生を考えることが多くなりました。
家でも、日々のプレッシャーから
イライラ過ごすことも多くなりました。

そして、
昨年の12月、
職場に送られてきた周産期専門医の認定証を手にしたときに、
これまで、多くの人に支えられてきたという感謝の気持ちとともに、
「次は何をやろう?」
と考え、
その瞬間、「臨床遺伝専門医」という言葉が降りてきました。
まさに、天の声でした。

周産期医として、
小さな命とお母さんを守り、
後輩の指導を続けていくことは
大切な使命だと考えています。
しかし、日々の診療の中で、
胎児の異常が見つかった場合や遺伝的な問題をかかえる妊婦さんに出会ったときに、
意外と、自分の足元が不安定だと気づくことが多かったのです。
職種が違うんじゃないかという人もいるのですが、
妊婦さんや家族の不安に少しで助けになることができたらと、
考えるようになりました。
婦人科腫瘍の分野でも遺伝的な考えはもはや常識になりつつあります。

すぐに、ボクは大学の遺伝専門の教授に連絡をして、
研修の指導をお願いしました。
順調にいって、あと3年間かかりますが、
新たな修行を始めました。

そして、じつは、同じ頃、
下の息子が、精神的にしんどくなっていました。
生まれてから、ずっとニコニコしていたのに、
多くのストレスを感じるようになっていました。
身体はきわめて健康であったのが、
せめてもの救いでしたが。
きっと、ボクの家でのイライラした姿で、少しずつ、
繊細な彼の心は傷ついていたのかも知れません。
今となっては、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
昼夜逆転や不登校の日々を、
きっと、彼自身が自然に乗り越えてくれるものと信じ、
じっと見守るしかありませんでした。
ただ、
いろんなことを勉強し、吸収していく小学生から中学生の時期に、
彼が、誰もいない家で過ごしていることを、
父として、放置することができなかったのです。
自分のペースで仕事をすることができれば、
今よりは、彼のそばにいてあげることもできると思いました。

年齢を語るときに、
孔子の言葉を用います。

四十にして惑わず。
五十にして天命を知る。

この、
天命を知るという言葉の意味を、
調べてみると、
「自分自身にとって、一番大切なものは何か、
   そして、自分が果たすべき役割について気づく」
ということなのだそうです。
自分の運命を知る、くらいの意味と思っていたのですが、
もっともっとポジティブな意味でした。

この一年で、、
様々な方面で活躍している先輩や同級生、
医会でおつきあいしている開業医の先輩からたくさんのアドバイスをいただき、
長く関わっている患者さんたちからも励ましをいただき、
ボクの気持ちは少しずつ変化していきました。

そして、
ボクの人生の最大の先輩である、
今も現役の産婦人科医である、
父の姿を、
もう一度、子として、後輩の産婦人科医として、
冷静に見たとき、
最終的な決心をすることができました。
全速力で走ることよりも、
いつまでも走り続けることの方が大切だと思えました。

これまでお世話になった多くのみなさんに感謝も気持ちでいっぱいです。
そして、
突然(ボクの中では突然ではなかったのですが)、
退職することで、
多くの仲間にご迷惑をおかけして
申し訳ありません。
ボクをいつも指導して下さった上司の先生にも、
十分な恩返しができてないので
申し訳なく思っています。

これからも、
自分のできることで、
みなさんに少しずつでも恩返しをしたいと思います。

開業は不安なことも多いですが、
やるときめたら、
楽しみなことも多いです。

ひとりだけではとうていやっていけないので、
いろんな人のお世話になります。

どうぞよろしくお願いします。

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