折り入っての相談 [産婦人科医]
半年ほど前のことでした。
詰所でカルテ(電子カルテなのでパソコンです)に向かっていると、
若い先生が小さな声で話しかけてきました。
今年、ドクターになって5年目、産婦人科を専攻して3年目です。
「先生、折り入って、ご相談があるんですけど・・・。」
いつも礼儀正しい先生ですが、
今日はいつになく、丁寧な口調です。
「どうしたん?」
「大きい病院から、小さい病院へ移ってみるって、ありですか?」
「えっ?それって、先生の将来のこと?」
いきなりの質問に、彼がどうすべきかよりも、どう答えるのが正解なのか、つまり、どう答えてほしいと思っているのかを考えてしまいました。
「はい。 それとも、先生から僕をみて、『いやいや、まだこの病院で経験を重ねた方がいい。』とかありませんかね。」
「なるほど・・・。 どうかなぁ。 いろいろあるもんな。」
実をいうと、ボクはそのとき、最終的になんて答えたのでしょう。
せっかくの「折り入っての相談」なのに、よくわからないと答えてしまいました。
だって、突然聞かれても、何が正解かわかりません。
今になって考えると、
2年間の初期研修のあと、1年間は大学病院で、
そしてこの2年間はうちの病院で研修しているので、
そろそろ異動の話がでてくる時期でもあったのです。
彼は次の病院のことを考えていて、
それも、今より小規模の、スタッフの数も少ない病院をイメージした中で、
自分が十分にやっていけるか?
自分のためにも、患者さんのためにも、
それが「あり」かどうかを聞いていたのでしょう。
もちろん、今の病院と同等に大きい病院はあっても、
より大きな病院はありません。
つまり、
「①もう少しこの病院で腕を磨くか、②もっと小規模病院に移って、ばりばりやっていくか?」
という選択肢なのでした。
ボクが研修医だった時代は、赴任先の病院は大学の教室(つまり、教授)が決めることでしたから、
自分で行く病院を決めることも、
大学の医局長の先生から言われた赴任先の病院を断ることも、
原則、「なし」でした。
自分が忙しい病院に回されると言うことは、自分をそれなりに高く評価してくれていると,
ポジティブに考えたものです。
逆に、大きな病院ばかり赴任しているドクターは、
それほど期待されていないのかも知れないとさえ考えていました。
つまり、
次の赴任先の病院を提示された時点で、
今の自分の、ある程度の評価になっていると言えます。
医師としての、そこそこの経験を積んだころ、
小さめの病院でバリバリと頑張ってみるのは悪くないと思います。
そして、たとえば、ドクターの数が3,4人だとしたら、
一人、ドクターが入れ替わるだけで、
その病院はガラッと変わるのです。
その病院の雰囲気が、たとえよくなかったとしても、
その病院を中身から変えることができるのは自分です。
それに、小規模な病院では、診療以外のことも見えてきます。
マンパワーの限界や治療に用いる器械の大切さなど、
いままで「あって当然」であったものが、今度は「なくて当たり前」になるのです。
もちろん、より安全で、質の高い医療を提供するのは当然です。
大病院では、もっとも重症な状態に対する対応を前提に準備されていますが、
それ以外の病院では必ずしもそうではありません。
そういう部分をカバーするのが、
ドクターとしての技量になるのではないでしょうか?
ある意味、かれの「折り入っっての相談」は、
その技量が自分にあるのか?という質問だったのです。
ボクは、大丈夫だと思います。
自分が思っている以上に、
周りは自分を正確に評価しています。
次の赴任先を提示する前に、
すでに、その病院で十分やっていけるはずと評価されているはずです。
たしかに、経験をお金で買うことはできないし、
経験は日々重ねていくしかありません。
ただ、医療にとって、それ以上に必要なものは、
コミュニケーションの力です。
相談したり、説明したり、聞いたり、見たり、
そういう能力は十分あれば、
患者さんを癒やすこともできるし、
自分自身もドクターとして成長できると思います。
そして、
もう一度、言いたい。
次の職場を、
良くも、悪くも、変えるのは君自身です。
大病院にはない、
患者さんとの距離感を十分に味わってみてください。
君なら、「悪くない」と思えるでしょう。
詰所でカルテ(電子カルテなのでパソコンです)に向かっていると、
若い先生が小さな声で話しかけてきました。
今年、ドクターになって5年目、産婦人科を専攻して3年目です。
「先生、折り入って、ご相談があるんですけど・・・。」
いつも礼儀正しい先生ですが、
今日はいつになく、丁寧な口調です。
「どうしたん?」
「大きい病院から、小さい病院へ移ってみるって、ありですか?」
「えっ?それって、先生の将来のこと?」
いきなりの質問に、彼がどうすべきかよりも、どう答えるのが正解なのか、つまり、どう答えてほしいと思っているのかを考えてしまいました。
「はい。 それとも、先生から僕をみて、『いやいや、まだこの病院で経験を重ねた方がいい。』とかありませんかね。」
「なるほど・・・。 どうかなぁ。 いろいろあるもんな。」
実をいうと、ボクはそのとき、最終的になんて答えたのでしょう。
せっかくの「折り入っての相談」なのに、よくわからないと答えてしまいました。
だって、突然聞かれても、何が正解かわかりません。
今になって考えると、
2年間の初期研修のあと、1年間は大学病院で、
そしてこの2年間はうちの病院で研修しているので、
そろそろ異動の話がでてくる時期でもあったのです。
彼は次の病院のことを考えていて、
それも、今より小規模の、スタッフの数も少ない病院をイメージした中で、
自分が十分にやっていけるか?
自分のためにも、患者さんのためにも、
それが「あり」かどうかを聞いていたのでしょう。
もちろん、今の病院と同等に大きい病院はあっても、
より大きな病院はありません。
つまり、
「①もう少しこの病院で腕を磨くか、②もっと小規模病院に移って、ばりばりやっていくか?」
という選択肢なのでした。
ボクが研修医だった時代は、赴任先の病院は大学の教室(つまり、教授)が決めることでしたから、
自分で行く病院を決めることも、
大学の医局長の先生から言われた赴任先の病院を断ることも、
原則、「なし」でした。
自分が忙しい病院に回されると言うことは、自分をそれなりに高く評価してくれていると,
ポジティブに考えたものです。
逆に、大きな病院ばかり赴任しているドクターは、
それほど期待されていないのかも知れないとさえ考えていました。
つまり、
次の赴任先の病院を提示された時点で、
今の自分の、ある程度の評価になっていると言えます。
医師としての、そこそこの経験を積んだころ、
小さめの病院でバリバリと頑張ってみるのは悪くないと思います。
そして、たとえば、ドクターの数が3,4人だとしたら、
一人、ドクターが入れ替わるだけで、
その病院はガラッと変わるのです。
その病院の雰囲気が、たとえよくなかったとしても、
その病院を中身から変えることができるのは自分です。
それに、小規模な病院では、診療以外のことも見えてきます。
マンパワーの限界や治療に用いる器械の大切さなど、
いままで「あって当然」であったものが、今度は「なくて当たり前」になるのです。
もちろん、より安全で、質の高い医療を提供するのは当然です。
大病院では、もっとも重症な状態に対する対応を前提に準備されていますが、
それ以外の病院では必ずしもそうではありません。
そういう部分をカバーするのが、
ドクターとしての技量になるのではないでしょうか?
ある意味、かれの「折り入っっての相談」は、
その技量が自分にあるのか?という質問だったのです。
ボクは、大丈夫だと思います。
自分が思っている以上に、
周りは自分を正確に評価しています。
次の赴任先を提示する前に、
すでに、その病院で十分やっていけるはずと評価されているはずです。
たしかに、経験をお金で買うことはできないし、
経験は日々重ねていくしかありません。
ただ、医療にとって、それ以上に必要なものは、
コミュニケーションの力です。
相談したり、説明したり、聞いたり、見たり、
そういう能力は十分あれば、
患者さんを癒やすこともできるし、
自分自身もドクターとして成長できると思います。
そして、
もう一度、言いたい。
次の職場を、
良くも、悪くも、変えるのは君自身です。
大病院にはない、
患者さんとの距離感を十分に味わってみてください。
君なら、「悪くない」と思えるでしょう。
こんばんわ!
いつもひっそり読ませて貰ってました!
とても心に響くブログです。
私は5月に出産予定です!
不妊治療、流産の末…
本当に命って奇跡ですよね。
何事も経験。
私が妊娠しやすい体だったなら、
今のお腹の子は、違う子なのかもしれない。
あの辛い時期があって、今のお腹の子はいる。
それだけで幸せです。
なのに私の甘さで
食べつわりで+15キロになりました
運動も食事制限も効果なし…
ついに担当医に太りすぎると帝王切開ね、と
脅されて…
何も言えなかったです。
すみません、こんな内容で。
これからも応援してます。
by キキ (2013-03-07 00:47)
前にもお邪魔しましたな~こです。
こういう向上心から来る悩みを持った先生なら、きっとどこに行ってもよい先生になるんでしょうね。頼もしいですね。
実は先週、18w2dで中絶せざるをえなくなりました。今回の妊娠は妊娠前の卵巣刺激中には軽かったけど、OHSSになりかけ、妊娠したら、4w2dからの切迫流産から始まり、6w辺りからの強いつわりで、18wまで出産予定の病院に入院、そこまでで、20kg近く痩せました。(よく痩せるだけの肉があったもんだ)その病院の16wの妊検エコーで"胎児に何かの異常がある"と言うことで18w0dに、つわりで吐きながら2時間弱かけ、こども病院まで行ってきました。そこで、limb-body wall complex (body stalk anomaly) と確定されました。いろいろと悩む程の選択肢も時間も無かったですね。中絶の処置の2~3日間は5人いる先生全員にお世話になりました。先生達だけでなく、長く入院してたので、看護師さん助産師さん達にも諦めずまた戻って来て欲しいと励まされました。いつかまたそんな気力が戻って来るのでしょうか? その日までに、今回のharu先生の記事の先生のような方が一人でも多く出てきてくださることを祈ります。
長くなってしまい申し訳ありません
by な~こ (2013-03-07 11:25)
我が家も転勤族なので、主人は大きい病院も小規模な病院も経験しています。家族という立場からみても、それぞれの職場のメリットもデメリットも知ることができました。若いうち、独身のうちは自由がきくのでいろんな病院で働いてみるといいと、私も思います!家族がいると転勤したいと思ってもすぐにはできませんから(^^;)
by さくら (2013-03-08 13:40)
若い先生たちが育っていくってとてもうれしいですが、その過程はいろいろ葛藤がありますよね。
お医者さんの仕事は本当に責任の重い仕事で、その中でこのような前向きに悩み、進んでいく先生がいるというのは頼もしいです。
ぜひ、バリバリと頑張ってもらいたいです!!
by ちばおハム (2013-03-08 15:36)
私の知人の医師の友人外科医の話になります。
高度の医療技術についていけなかったそうで小規模病院に移動したそうです。
私の想像ですが、小規模病院の方が医療スタッフが1~2人欠員している時に何かがあれば超多忙になるという感じです。
by セレナーゼ (2013-03-10 22:32)
キキさん、コメントありがとうございます。
子供を産むということは、広い意味で、人生の大切な出会いの一つです。
「やっと、この子に会えた。」
「もしかしたら、違うこの子だったかもしれない。」
いろんなことを考えます。
でも、本当は、
「出会うために、少し時間がかかった。少しの回り道があったとしても、きっと意味のある、回り道であった。」
ということだと思います。
妊娠中に体重が増えたのも、元気な赤ちゃんを産んだときに、笑って受け入れることができるといいですね。
by haru (2013-03-16 16:19)
な〜こさん、コメントありがとうございます。
大変でしたね。
ほかに選択肢はなかったと思います。
いろんな思いがある中で、あなたとあなたの家族が幸せに生くときに、医療者としてできることはそれほど多くありません。
ただ、その中で、向かい合うことや寄り添うことを大切にしたいです。
by haru (2013-03-16 16:28)
さくらさん、コメントありがとうございます。
そうですね、転勤や赴任は若いうちがいいと思います。
病院の環境が変わることも大切ですが、いろんな人との出会いも大切ですね。
その出会いが自分の運命を左右することもあると思います。
by haru (2013-03-16 16:35)
ちばおハムさん、コメントありがとうございます。
きっと彼は自分のスタンスを保ちながら、バリバリと、そして、しなやかに前に進んでいけると思います。
彼にとって、今回のように、相談できる相手(ボクのことですが)がいるかどうかも大切ことではないかと思います。
by haru (2013-03-16 16:43)
セレナーゼさん、コメントありがとうございます。
働くスタッフが少ないと、忙しいときに大変です。
でも、スタッフが多くなれば、すぐに、あまり働かないひとができます。
3人以上いると、必ず仕事量に差が出てきますね。
そして、スタッフが多い方が、実際のところ、さぼりやすいですね。
by haru (2013-03-16 16:49)
はじめまして。
二人目妊娠中、切迫早産の為ウテメリンを飲みながら自宅安静にしている33週の妊婦です。不安もありこの時期の赤ちゃんの事など色々調べてる内にこちらのブログを拝見するに至りました。日頃から、産婦人科の先生って凄いなと思っていましたが、
昔の記事等も拝見して、感動というか、何とも言えない気持ちになり、沢山涙が出ました。大変なお仕事だと思いますが、これからも新しい命、おかあさんの為に続けて頂ければと思います。
また覗かせて頂きます。
by かいちゃん (2013-03-19 15:28)
かいちゃんさん、コメントありがとうございます。
妊娠して、初めて自分の体のことを考える方は多いかもしれません。
前にお産をしていても、切迫早産など、初めて「異常」を指摘されるまで、自分の子供が元気がどうかを心配しない方もいるかもしれません。
でも、いろんな心配もすべて、元気な産声を聞くまでの確認作業ではないでしょうか?
いろんなことを考えながら、新しい家族を迎える過程も大切だと思います。
by haru (2013-03-20 17:22)
島に嫁いで、もうすぐ6年…ずっと、お世話になっていた、主治医が、とうとう異動になりました。本土でお世話になっていた、主治医と、島の病院で、一緒に働いていたと聞いて、すっかり、安心したのでした。聞く前は、考えを押しつけられ、怒り狂いましたが…怒り狂わなければ、その話にならなかったので、不思議な出来事でした。
2人目を考えてはいるけど、なかなか来てくれない…卵管造影をやるなら、主治医が良い!と、決断して、火曜日に受けます…10日目に受けますが、早くも排卵痛がきてます…2回目も痛いだろうなぁと思いながらも、ゴールデン期間を楽しみにしています。排卵痛&生理痛が、きついので、早く妊娠したいです。
by まなみんまま (2013-03-24 02:21)
まなみんままさん、コメントありがとうございます。
今までの主治医とかわるときに、誰でも不安は大きいと思います。
しかし、それはあくまでも「不安が大きい」だけであって、
今までの自分の治療の経緯を十分にわかってもらえるか?というのが一番の不安ではないでしょうか?
担当が変わるときに少しでも不安がなくなるような引き継ぎの仕方をしなければいけないのだと思います。
もしかすると、次の担当医の方が、もっと自分にとっていいドクターになるのかも知れません。
by haru (2013-04-07 17:23)