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婦人科腫瘍の勉強をしてきました [産婦人科医]

先週、岡山県で開催された、
日本婦人科腫瘍学会に参加し、勉強してきました。

医者になって後半の10年間は、周産期を中心に頑張ってきたので、
婦人科腫瘍の診療については、
もっともっと勉強しないといけません。

こういうことを書いてしまうと、
実際に、ボクが毎日の診療で担当している患者さんたちがたくさんいますので、
「あの先生で大丈夫なの?」
なんて思われてしまいますから、発言は慎重にしないといけませんが。

講演やシンポジウムを聞いていると
最新の知見や手法、先進的な医療について勉強になります。

その中で、おもしろいテーマのワークショップがありました。

「婦人科悪性腫瘍と妊孕能(にんようのう)温存」

子宮頸がんや卵巣がんで手術や抗がん剤を使用するのに、
いかに妊娠できる能力(妊孕能)を保つか?
ということについての講演がありました。

子宮頸がんについて、ある程度進行したものに対しては、
初期のものに行われる円錐切除ではなくて、腹式子宮頸部切除術という術式があります。
子宮頸がんができる子宮の下半分を切除して、妊娠する上半分を残す術式です。
簡単に書きましたが、高度な技術や経験を必要とする手術です。
切除する子宮頸部には、外界から妊娠中の胎児を守るバリアーの役目があり、
その部分を切除するのですから妊娠した場合には当然、妊娠した場合に、感染や切迫早産など、
いくつものトラブルが発生する可能性があります。

腫瘍専門の先生と周産期専門の先生がそれぞれの立場で発表されていました。
腫瘍専門の先生からは、切迫早産を予防する工夫などが示されました。

 「なるほど、なるほど。」

周産期の先生(実は、もともと不妊症が専門だとおっしゃっていましたが)からは、
妊娠に至るまでの問題点や、実際に問題になったトラブルなどが示されました。
切迫早産や前期破水を来たし、残念ながら最終的に早産になった症例も示されました。

 「やっぱりな。 そうなるやろな。」

そのデータの陰には、産科医の苦労があるのでしょう。
ひとつひとつのデータに納得しながら、
少し気になったことがありました。
周産期のアウトカムが、出産時妊娠週数や児出生体重といった、
分娩時の状況が中心のデータで語られていたことです。

しかし、ボクが本当に知りたかったのは、
その赤ちゃんが元気で育っているかです。

同じ早産でも、その生まれるときの状況では、予後が違ってくることもあります。

 「早産で生まれた赤ちゃんは、みんな元気なんですか?」

ディスカッションの時、どうしても、この質問がしたくて、
今にも手を挙げそうになっていると、
学会長をされている先生が手を挙げてこんな質問をされました。

「示されたデータのなかに、いくつか早産の症例があったようですが、
 早産に至った原因はわかりますでしょうか?
 たとえば、破水して感染したものが多かったとか・・・。」

早産が妊娠週数だけでなく、どういう原因であったかを聞くことで、
赤ちゃんたちがどういう状況であったかを推察する質問でした。
岡山のイントネーションでやんわりとした口調でしたが、
実に当を得た質問です。

 「なるほど、そういう訊き方をすればいいのね。」

質問の仕方にも、まだまだ勉強が必要だと感じました。
質問を受けた先生も、よく訊いてくれました、とばかりに、
適切に答えておられました。

 「ふむふむ・・・。」

腫瘍を専門にする産婦人科医と
周産期を専門にする産婦人科医がいて、
話し合い、
最終的には一人一人の赤ちゃんの将来を思う。

これこそが「婦人科腫瘍学」の姿だと感じました。

たくさんの刺激を受けて、京都に戻り、
次の日は家の近所を散歩しました。
近所と言っても、多くの人が訪れる場所です。
秋の景色を眺めながら、
多くの人とすれ違いました。

不妊治療ですぐに妊娠したものの、
まもなくボクが今の病院に移り、
残念ですといってくれた方が、ベビーカーを押してご主人と散歩していました。

 「おお、無事に生まれたんやね。」

また、
小学校高学年くらいの男の子が向こうから走ってきて、
「お母さん!」って言いながら
ボクの横を通り過ぎて行きました。
振り返ってみると、そのお母さんは、
10年ほど前にボクがお産を担当した方でした。

 「おお、元気に育ってるんやね。」

命はつながっている。

これからも、
もっともっと勉強して、

命、ひとつひとつ
そして、
その命と命のつながりを
真摯に見つめていきたい。

・・・頑張りましょう。

ボク一人でできることはそんなに多くない。
しかしながら、
みんなでやれば守ることができる命は
たくさんあるはずだと思いました。


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さうざんバー

がん治療をしながら妊孕性を保ち、将来子どもを望む方が増えていますね。それはそれで良いことだと思いますが、現状に医療がついていけていない現状もあります(^^;)学会に行くと、刺激を受けますし、楽しいですよね(^^)vお疲れ様でした(^^)v
by さうざんバー (2012-11-29 23:05) 

セレナーゼ

はじめましてこんにちは。

婦人科腫瘍は腫瘍だけを取り除くことはできないのでしょうか?

私が患者ならば、腫瘍だけを取り除いて臓器の機能を保つ方法を望みます。 男性にはない貴重な臓器ですもの。


by セレナーゼ (2012-12-04 01:22) 

nana

出産ってとても大変なのですね。

haru先生のお話を聞くと改めて母のお腹から産まれ、育まれた事を(いくつになっても育まれているような気もしますが・・・)感謝せずにはいられません。

普段は意識せず生活していますが、時々は立ち止まって生命を受けたことを考えることも大事だな・・・と。
by nana (2012-12-06 08:53) 

haru

さうざんバーさん、コメントありがとうございます。
出産年齢の高齢化の結果、癌を含め、合併症の頻度が高くなるのだと思います。
学会で刺激を受けた後に、実際の医療に戻り、現実とのギャップで少なからず落ち込むことはありますね。
by haru (2012-12-07 13:10) 

haru

セレナーゼさん、コメントありがとうございます。
癌などの悪性腫瘍は、その腫瘍のみを切り取るだけでは完治できないことが多いので、すこし余分に切除します。
そこだけ切除しても、再発したら何のための治療なのかわかりませんよね。

by haru (2012-12-07 13:13) 

haru

nanaさん、コメントありがとうございます。
おっしゃる通りだと思います。
授かった命を、感謝して大切にしたいものです。

by haru (2012-12-07 13:21) 

セレナーゼ

少し余分に悪性腫瘍を切り取るのは再発を防ぐためだと初めてしりました。

haru先生のブログを数ヶ月前からみています。

私は妊娠も結婚もそういう人もまだの女性です。

数年前に個人病院の事務をしていました。個人病院ではベビーのチアノーゼ発作が会ったり、妊婦に何か異変が起こるとすぐに大規模病院に搬送されているのをみかけました。

個人病院や助産院はアットホームなのと食欲旺盛な妊婦には向いていると思います。

でも、私が子供を産むのならば大規模病院で産みたいですね。
私は血液検査や注射を見てぶっ倒れたり気分が悪くなります。
そういう私にとっては管理された施設の病院で産婦人科医や麻酔科、新生児専門医、脳外科などの医師と専門看護師が沢山いる病院の方が安心安全なのだと思っています。

もちろん常勤で経験豊富な産婦人科医でないとまかせられません。

臨時医師だとそのときにいなかったり、イキナリ辞められるのがいやです。


by セレナーゼ (2012-12-16 23:48) 

えったん

6月にコメントさせて頂いた者です。
21週で前期破水で入院、当時24週で、恐怖心と戦うにはどうしたらいいのか?とコメントを入れさせて頂きました。
haru先生は「赤ちゃんと一緒にいて、話す時間を大切に」とお返事を下さいました。
あれから毎日不安に怯えたまま、結局恐怖心に打ち勝つことは出来ませんでした。
人間は弱いですね。支えになる夫、家族に恵まれていても涙の毎日でした。入院した方はわかると思いますが、本当に参ってしまうのです。
ですが先生に聞いたとおり、一生懸命赤ちゃんと話をしていました。
少し怖いですが、総室でブツブツ言ってました。

その後帝王切開による出産となり、赤ちゃんは3ヶ月入院。
今は元気な赤ちゃんと一緒に暮らしています!
NICUにいるときから、よく笑い、大きな声で泣く子だと言われました。
きっと毎日のお話が良かったのかな?と思っています。

無礼にもコメント欄で質問をしたのに、お答え頂きありがとうございました。
お顔も存じ上げないのに、先生に報告をしたかったのです。
これからもharu先生のような素敵な先生が増えていくといいな、と思っております。
これからもブログを楽しみにしています!
私のような、顔も知らない一妊婦の気持ちを救い上げて頂きありがとうございました。
by えったん (2012-12-25 19:40) 

haru

セレナーゼさん、コメントありがとうございます。
大病院で働く人の中には個人医院でお産をする人も多いように思います。それぞれ自分が働く病院のよくない部分が目立ってしまうからでしょうか?
自分の働く病院で、安心して生んでもらうということは、その施設が職員にとっても産婦にとってもいい施設だということでしょうか?
大切なのは、助産師さんや事務の方も含めての信頼関係かもしれません。
by haru (2012-12-30 07:32) 

haru

えったんさん、コメントありがとうございます。
長い間、頑張りましたね。
お疲れさまです。
でも、きっと、今の子育ての時間の方が大変だと感じているのではないでしょうか?切迫早産で入院治療した日々の苦労や心配は、残念ながら忘れてしまうそうです。
お腹の赤ちゃんに話しかけてこと、赤ちゃんが覚えていてくれていたらいいですね。
by haru (2012-12-30 07:37) 

まなみんまま

すみません、間違えて、一つ前の、記事に、この記事の、コメントを、送ってしまったようです。

スマホに、悪戦苦闘で、うまく投稿できなくて、前に、コメントを書いたものをみてたら、間違えてしまいました。すみません。
by まなみんまま (2012-12-31 00:35) 

あきちゃん

今晩は、久しぶりに訪問しました。
お元気そうで何よりです!

実は私過日、人間ドックに行って婦人科健診を受けたんです。
そこには何年も通っていて、最初の健診の時にも内診台でエコーをしている最中に
断りも無くいきなりカーテンを開けられて
びっくり、そして恥ずかしいやら腹立たしいやらで帰って来たのですが
翌年はまた同じでしたのでアンケートに
カーテンを開けられるのは不愉快だと書いたのです。
また、ある年は受付で申し出たところ
付箋紙にカーテンを開けないで下さいと書かれました。
そんな中、翌年に結婚を控えている同僚が
婦人科に一人で行くのは勇気が居るが
人間ドックならみんなと一緒に行けるので
結婚前にきちんと受けておきたい、
と言って一緒に行きましたら、同じようにいきなりカーテンを開けられたとのこと。
彼女は初めての婦人科健診でもう二度と行かないと言っていました。
今年は、私が申し出を忘れた事もあり
また、同じ事をされた上
先生のぶっきらぼうさがたまらず
受付に怒りをぶちまけました。
すると先生と直接お話ししてくださいと言われ、まず始めに伺いました。
何故、カーテンが付いているのですか?と
すると、あれは日本だけの習慣ですと
では、何故日本ではカーテンがあるのですか?
プライバシーの問題だと
では何故先生は何の断りもなくカーテンを開けられるのですか?
それは若いこれこら妊娠の可能性がある人と病気のある人に説明をするため僕のサービスだ、人と話すときはfface To faceでするものでしょう?あなたはしないの?
などと言われ、私が若い同僚の話をして
健診の意志を無くすきっかけになっています
そのために早期発見する事が出来ないのは
先生の存在価値がないということになりませんか?救える命が救えない事につながります
と申し上げると、同席していた看護部長が
開けないようにしましょう、と言うと 
いや、看護部長出来ない約束はするもんしゃない、こういう人は来なくていい
と、まるで逆切れです。
私は諦めて退室しました。
体罰で子供を追い詰めた教師が意識を変えないといけない時代になって来ているように
婦人科の先生も意識を変えて欲しかったのですが私が間違ってますか?
された側はレイプされている気持ちにと言っても過言ではない気持ちになります。
先生はどうおもわれますか?
by あきちゃん (2013-01-15 01:24) 

haru

あきちゃんさん、コメントありがとうございます。
産婦人科の内診のときのトラブルは珍しくないと思います。
性交経験がなければ内診をしないのは当然といえば当然ですが、かといって、性交経験がなくても、どうしても内診しないといけない状況も存在します。
また、性交経験のみならず、出産経験があったとしても、やはり、内診がどうしても怖くて無理だとおっしゃる方もおられます。
カーテンを開ける、開けない、かはその都度確認してするしかないと思っていますが、その前に、内診や超音波検査が必要であることもちゃんと説明すべきかと思います。
ボクの場合、初めての診察の人にはカーテンが必要かどうか尋ねます。
カーテンが閉まっていて、ボクが何をしているかわからない方が怖いという人もいるからです。(ちなみに、アメリカ人は必ずといってもよいほど、カーテンを閉めるほうが怖いといいます。)
また、診察の途中、超音波検査の画像を一緒に見たいですか?と尋ねて、見たいですと答えた方に、「カーテン開けますよ。」と尋ねます。「はい。」と答えてもらってからカーテンを開けています。
なぜこうしているかというと、以前、突然カーテンを開けてしまい、びっくりしていた人がいたからです。
そのびっくりしている顔を見て、「ごめんなさい。びっくりしたね。」と謝りましたが。
忙しい外来診療のさなかに、ここまでできないという産婦人科医もいると思いますが、実際にこうやって、あきちゃんさんのように怒りをぶつけておられる人がいる限り、けっして飛ばしてはいけない手続きであると思います。
患者さんの顔を、ちゃんと見ていれば(診ていれば)、自ずとわかるのではないかとも思います。
あきちゃんさんの気持ちも十分に理解できますが、ただ、「レイプされている気持ち。」と、そこまでいわれると、一人の産婦人科医として悲しい気持ちになります。
命を助けよう、病気を見つけようと、毎日、まじめに診察しているからです。

by haru (2013-01-23 07:34) 

もりたん(^^)

はじめまして。はじめてコメントさせて頂きます。石川県在住の もりたん と申します(^^)

こちらのブログ、時々拝見させて頂いてました。

今回の記事は、学会での様子など、患者にとってあまり知ることのない内容でしたので、特に興味深く読ませて頂きました。

学会では子宮温存後の妊娠において、切迫早産を予防する工夫や、妊娠に至るまでの問題点などについても発表があったようですが、具体的にどんなものだったのか、とても気になりました。

実は私、四年前に子宮頸癌になり子宮を温存しています。
そして、昨年11月に30週3日で1450gの女の子を出産したばかりです。

私の場合は、感染→破水→早産を予防するためにも、毎日ミラクリッドやフラジールなどのお薬を入れていましたが、後半は出血も頻繁にあり、出産当日は大出血して羊水も減っていたために出産となりました。

私もブログをしていて、私と同じようなブログをしている患者同士の情報交換はあるものの、その他の方たちのことは分からないので…。

だいぶ増えてきたとはいえ、まだまだ珍しい妊娠&出産。

患者としては不安も多く、学会ではどんなことが話されてるんだろう…と正直 興味津々です(笑)



私は2008.5に子宮頸癌発覚。その後、岡山県の倉敷でトラケレクトミーにて子宮を温存。不妊治療を経て妊娠。16週から地元の県立病院に入院していました。

17週で切迫流産となり、オシッコの管や濃い~点滴(ルテオニン4A29、マグセント9)につながれ、排便以外はベッド上…という、かなり厳戒レベルの高い、過酷な床上生活を丸3ヶ月続けて、緊急帝王切開にて出産しました。

現在娘は生後2ヶ月半で4000gを超え、今のところ明らかな後遺症など見られず元気に成長していますので、結果オーライ、といったところでしょうか。。。

でも、かなり危ない橋を渡ったな…と思います(--;)



haru先生が記事の中でも話されているように、早産で産まれた赤ちゃんが元気にしているか?という疑問、私も妊娠前は一番気になるところでした。

すでにトラケ後の妊娠&出産をされた知り合いが何人かいますが、その中にはやはり早産になった方が割合として高いと思います。
後遺症が残ってしまった子や亡くなってしまった子、そして それ以前に残念ながら、かなりの週数で流産してしまった方もいて…。

やはりリスクの高い妊娠ですね。

私が妊娠前に知り得る情報は少なくて、多くの葛藤もあり、不安を抱えながら妊娠に臨んでいました。

場合によっては、患者自身やその家族、そして赤ちゃんの「人生」に関わってくることですから…



私は結果、元気な赤ちゃんを抱くことができました。癌と分かった時は標準治療で全摘と言われていたのに…。
今の現実はホントに奇跡だと思います。

こんな奇跡がおこったのも、こんな風に学会で多くの先生方が勉強され、日々努力されているからなのですね。

そういう積み重ねのおかげで、長年の夢が叶ったと、心から感謝です。

haru先生も日々 激務だと思われますが、自分のお体もお大事になさって下さいね!

またブログ、時々のぞかさて頂きますね♪

長文失礼しました

ではでは(^o^)/~~

by もりたん(^^) (2013-01-30 18:41) 

haru

もりたん(^^)さん、コメントありがとうございます。
大変な治療に、大変な妊娠・出産。
お疲れ様でした。
どんな妊娠・出産でも、ある程度はなんらかのリスクがあるのでしょうが、あえて超ハイリスクを承知で妊娠するのは大変な決意であったのではないでしょうか?
大きくなって、お子さんは、「お母さんの子供でよかった。」と言ってくれ、ますよね。
by haru (2013-02-01 13:02) 

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