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めばえ [分娩]

よみうりテレビの「めばえ」というコーナーを御存じでしょうか?
http://www.ytv.co.jp/ten/mebae/index.html

平日の夕方に、生まれたてのホヤホヤの赤ちゃんがお母さんや家族と一緒に出演する番組です。
おそらく関西ローカル番組なので、関西以外の方にはなじみはないかもしれません。
ボクがこの時間帯にテレビを観ることはほとんどありませんが、このコーナーを観たことはあります。

いつもお産で生まれたての赤ちゃんを見ているくせに、
テレビで見ると、
 「おー、かわいいやんか。」
と、まるで自分が赤ちゃん評論家でもあるかのように、ちょっと
プロっぽく楽しんでいます。
純粋に生まれたての赤ちゃんのパワーがもらえるいいコーナーだと思います。

このコーナーへの出演は、あらかじめ妊婦さんが応募しておいて、
出産する産科施設に、テレビの撮影が来ても大丈夫か?という承諾を得ておく必要もあります。
そして、赤ちゃんが明け方から午前中に産まれると、
取材に来てくれて、それがその日の夕方に放送されるのです。
うちの病院は、こういった取材のようなものは原則NGなのですが、
この、「めばえ」に関しては、ボクの裁量の範囲内で許可しています。

先日の土曜の午後、ある妊婦さんが入院となりました。
この方も、いつもの例にもれず?、助産院でのお産を希望していた人でした。
破水して、陣痛が1日以上始まらないため、医療介入が必要と判断され、
当院での分娩を勧められて転院となりました。
この方は、妊娠中期に切迫早産もあったので外来でボクが管理していた、
顔なじみ?の妊婦さんでもありました。
入院時の診察では羊水混濁や感染徴候はありません。
超音波でも羊水はまだ十分に残っているようでした。

 「もう少し、様子をみましょうか? あと1日くらい・・。」

自然分娩を希望されている方であったので、感染予防の抗生物質は投与しますが、
赤ちゃんが安全である限り、できる限り希望に沿ってあげたいとも思います。
そして、次の日は日曜日でしたが、ちょうどボクが当直なので、
ゆっくりお産に付き合うこともできます。
日曜日になっても陣痛が来なければ陣痛誘発をするべきです。
その辺の見通しを本人さんとご主人さんに説明しました。

「あの…、日曜日に促進剤を使ったら、いつ生まれるんですか?」

 「子宮口も軟らかいし、赤ちゃんもよく下がってきてて、後は陣痛が弱いだけなので、そんなに時間はかかりませんよ、きっと。」

いつ生まれるかなんて、なかなかわかりません。
言葉の最後に「きっと」をつけてしまします。

「実は、『めばえ』に出ようと思ってるのですが、できたら、月曜日の深夜から明け方ごろに生まれてくれるとうれしいんですが…」

日曜日に生まれちゃうとテレビに出られないから、日曜日の夜に陣痛をつけて、日が変わったころに生まれるようにして欲しいとおっしゃるのです。

いくら陣痛がきたら、ポロッと生まれそうな状態とはいえ、陣痛誘発・促進はいくらかは危険を伴う医療行為です。わざわざ人手の少なくなる日曜の深夜に誘発するのは問題があります。

 「いやぁ、それだけはやめておきましょう。 夜中にわざわざ誘発するのは危険です。」
 「自然に陣痛がくることを待ちましょう。」
「はい、わかりました。」

意外とあっさり、ご理解を頂きました。
そして、やはり自然に経過を見守ることにしました。
日曜の朝になって、それでも血液検査でも感染徴候はなく、超音波で羊水はしっかり残っていました。
陣痛は弱いのがきていましたが、すぐに産まれそうな様子でもありません。
月曜の朝方にうまく生まれてくれることを祈りつつ、陣痛が来ることを待ちました。

結局、月曜の朝まで陣痛は強くなることはなく、
月曜の朝から陣痛促進を行うことにしました。
金曜からの前期破水で、高位破水とはいえ丸3日経っています。

陣痛促進剤を使い、お昼過ぎに無事産まれました。
元気な赤ちゃんでした。
赤ちゃんは感染症状もなく、ひと安心しましたが、
産後の子宮収縮が悪く、出血が多く、いくつかの処置を行うことにもなりました。
助産院で産まない方が安全だったと、あらためて思うお産でした。
もちろん、テレビ出演には間に合いませんでした。

もし、このかたの希望通りに、夜中に陣痛促進したとしたら、
産後の出血が、人手の少ない真夜中に起きたとしたら、
それはそれで、もっと危険な状況になっていたのかもしれません。

「テレビにでて、家族のいい思い出にしたい。」

気持ちは解らないでもないのですが、
なによりも安全なお産を考える時、
やはり、後回しにされなければならないことだと思いました。

できることなら、「めばえ」という番組(コーナー)においては、
産まれた時間の制約などなく、
湯気が立ってる赤ちゃんじゃなくても出演できるようにしてもらえないでしょうか?
少なくとも、テレビに出たいという理由で、診療方針に影響が出ないような
工夫をしてほしいものです。
かわいい赤ちゃんの姿で力をもらえる、すばらしい企画の番組なのですから。

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ちばおハム

もちろん、関西に済んだことのない私はこのテレビは知りません。
沖縄には写真館のCMで百日写真がでるのがありますけどね。
病院にきて赤ちゃんをうつしてくれるなんてすごいですね。
一度見てみたいです。
無事に産まれてよかったですね。
by ちばおハム (2010-11-24 13:17) 

きらきら

『めばえ』は私も大好きで出演するのが夢でした。が…初めてが双胎で里帰りをしたため出演できませんでした。
双子育児の中『次こそ!』と思っていた矢先…産褥性心筋症になり次は難しくなってしまいました。関西に戻り、最初はこの番組を見るのが辛くて…けれど先日久しぶりに見たら、やっぱり温かい気持ちになりました。涙がでました。
haru先生のブログを読ませて頂くと『辛いのは私だけじゃない』と元気が出ます。私の産科の先生も頼りになる素敵な先生でした。

これからもブログを楽しみにしています。
by きらきら (2010-11-24 19:08) 

haru

ちばおハムさん、コメントありがとうございます。
以前にもこの番組に出たいという、双子の産婦さんがおられたのですが、運悪く、赤ちゃんが二人ともNICUに入ってしまい、取材ができなかったことがありました。
「誰でもいいから、ほかに撮らせてくれる赤ちゃんはいませんか?」と、女性ディレクターがイラついていました。
番組を維持するためには、それなりの苦労があるようです。
by haru (2010-11-27 22:01) 

haru

きらきらさん、コメントありがとうございます。
お産も、子育ても、そして、自分自身の健康維持も、大変ですよね。
それでも、なんとか頑張れるのは、赤ちゃんがくれる強いパワーのおかげだと思っています。
産婦人科医が頑張れるのも、赤ちゃんの元気な産声を聞くことで、いろんなしんどさがリセットされるからです。
それだからこそ、感謝の気持ちを持って、ひとつひとつの命に、正面から向かい合っていきたいと考えています。
by haru (2010-11-27 22:08) 

ともたま

関東に同じような番組があったら、僕も出演したいとお願いしたかも知れません(^^;)お母さんの気持ち凄く分かります。
先生の一言で「はい、わかりました。」と言ったお母さん。当たり前かもしれないけど、ちゃんと当たり前の答えを述べたことが立派ではないのかなーと思います。
それにしても、赤ちゃんパワーって凄いですよね。
新生児室の赤ちゃん見るだけで、すっごく力をもらってました。
いまは二人の息子にもらってます。(目じりが下がりっぱなしです)
看護師さんや助産師さんたちも、「内緒ですけど、関係ないときでも赤ちゃんを抱っこしちゃうんです。」と言ってました。(ばらしてしまいました~)

めばえという番組で、産科にたずさわる人達や仕事についての特集は放送されたことはあるのでしょうか?無ければ、是非やってほしいと企画を投稿したいです!
by ともたま (2010-11-30 22:57) 

haru

ともたまさん、コメントありがとうございます。
この番組は、お産した病院名はいっさい公表されません。
赤ちゃん以外に映るのは病室のベッドとソファーくらいです。
ほんの2、3分の番組(コーナー?)です。
ボクがこのブログを書いたことで、わかったのですが、
職場のみんなも、この番組が大好きだそうです。

by haru (2010-12-03 06:22) 

あかね

こんんちわ。
私は、あかねと申します。
産婦人科医をしています。
早いもので、もう2年にもなります。
この前うちに来ていただいた患者さんが、中絶なさいました。
珍しいことでは、ないのですが、でも少しショックでした。
産婦人科は、赤ちゃんを産む所であり、新しい命は、産まれる所でもあります。
なのに産まれてもない赤ちゃんを人口的に殺すなんて・・・・。
ここが、産婦人科医の辛い所だと思います。

長々と失礼しました。
いつも拝見しています。
これからも投稿してくださいね
by あかね (2010-12-04 09:19) 

haru

あかねさん、コメントありがとうございます。
医療者の立場から、中絶について「赤ちゃんを殺す」という表現をすることが正しいとは思えません。その一言は数えきれないほど多くの人を傷つけると思います。
ボクは、世の中に喜んで妊娠中絶をする女性はいないと信じています。医療者であれば、そのつらくて悲しい部分に寄り添ってあげてほしいと願っています。


by haru (2010-12-04 17:57) 

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