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13枚の金メダル [分娩]

今週はとても忙しくて、うちの病院ではこの数年でもっとも分娩が多かった1週間でした。
今月は分娩予約数もこの数年で最多で、医師、助産師ともスタッフが十分に機能できるか、限られた病床がうまく回せるか、ちょっと不安はありましたが、いろんな状況をその都度シミュレーションしていたので、たくさんのお産でしたが無事にこなしていくことができました。
忙しいと言っても、それはこっちの事情で、産婦さんや赤ちゃんには関係ありませんから。

そして、今朝も5時頃、眠い目をこすりながら、一つのお産が無事終了し、出生証明書を書いてました。

 「お、今日は北京オリンピックの開会式や!」
と、08年08月08日と8並びの日付けに感動しながらナースステーションで独り言を言ってました。

今週の、ひとつひとつのお産を思い出しながら、どのお産も最高で、赤ちゃんも元気であったことに感謝しました。
緊急帝王切開もあったし、双子ちゃんの経膣分娩もありました。
長いお産も、あっという間のお産も・・・。

数えたら、今週は日曜から金曜の朝までで、出生証明書を13枚書きました。

 「オリンピックやったら金メダルやのにな。 13個もあったら感動しまくりや。 わはは・・・。」
オーバーワーク気味で、微妙にコワレそうな気分の中で思いました。
 「お産をした人には全員、金メダルをあげたいなぁ。 いいこと思いついた! わはは・・・。」

パタパタと忙しい病棟で、事故もなく、すべてのお産を順調に、安全に見守っていくことができてよかったです。
これも、スタッフのみんながチームとして有機的に機能した結果だと思います。
スタッフや小児科の先生にも金メダルをあげたいです。

・・・そういいながら、今も、分娩室の隣で14枚目の金メダル(出生証明書)を待ってるのですが。




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笑えるお産がしたい [分娩]

3週間後に帝王切開をする予定の妊婦さんに、健診のあとに、これからする術前検査と手術の説明をしていました。

 「今日は、採血の他に心電図と胸部レントゲンがあります。あと、今度する帝王切開の内容ですが・・・・。」
この患者さん、ボクの説明を聞いているのか、いないのか、ただニコニコしまくっているのです。

 「なんか楽しそうですね?(ちょっと笑いすぎじゃない?)」
「なんか、待ち遠しくて・・・。」
そう言っている間もこぼれんばかりの微笑みです。

実は、前回のお産はご実家の近くでのお産だったのですが、常位胎盤早期剥離で分娩途中から緊急帝王切開に切り替わったのです。
分娩室で急変し、突然の手術だったので、赤ちゃんは元気だったけど、お産の後もうれしいのかなんなのかわからなかったのだそうです。

「今度は、笑えるお産にしたいと思っています。 前は余裕がなかったから。」
 「わかりました。 いい話ですね。 安全第一でがんばりましょう。」
「はい!」

せっかく元気なお子さんを産んだとしても、お産の時の状況で怖い思いや辛さが赤ちゃんを産んだ喜びを上回ることがあれば、つらい思い出のお産になるのでしょう。
これは帝王切開に限ったことではありません。
「元気な赤ちゃんでよかったよね。」の言葉がかえってつらくなるのかもしれません。

今度生まれてくる赤ちゃんも責任重大です。
上の子さんのお産の時の恐怖感や悪い記憶を、元気な産声で拭い去らないといけません。
今は何にも知らないで、子宮のなかでゴニョゴニョ動きながら、その日を待っているのでしょう。
そして、元気で生まれたあとに、きっとお母さんは赤ちゃんに向かってにっこり笑うのです。
いろんな思いと一緒に赤ちゃんを抱っこするのです。
赤ちゃんにはその「にっこり」の深さを理解できないでしょうが・・。

「笑えるお産」

今度こそ、「笑えるお産」

深くて、しみるお産です。

産婦人科医として、その瞬間に立ち会えるのが楽しみです。
安心してお産が終了するまで、頑張ります。





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美味しいお産? [分娩]

先日お産をされた方は、妊娠初期はボクが外来の主治医で、分娩予定日も決まり、その後も特に異常ない経過でした。

「あのー、助産院でお産しようかと思うんですが・・・。助産院で、先生に聞いてきなさいっていわれたんです。」
 「あっ、そう?特に異常な経過もないことだし、いいんじゃないんですか?」
「いいんですか? よかったー。」
 「もちろんですよ。 絶対、いいお産してくださいね。」
ボクは助産院に紹介状を書いてあげました。

ところが、妊娠後期になって、骨盤位だという理由で、再び紹介した助産院からうちの病院へ紹介されてきたのです。
このときはボクが担当でない日に受診されたので、別のドクターが担当することになりました。
帝王切開の予定も決まっていたのですが、1,2回外来で管理しているうちに骨盤位は自然に頭位へ戻り、再び、助産院へ行くことになりました。
そしたら、今度は、貧血があるのと羊水が多めだということで、またまたうちの病院へ紹介されてきました。

「先生、やっぱりここでお世話になることになっちゃいました。 よろしくお願いします。」
外来の廊下で呼び止められて、挨拶してくれました。
 「もちろん。 よほどうちの病院に縁があるんでしょうね~。 わはは・・。」

そうこうするうちに、自然に陣痛が始まり、無事にお産がすみました。
貧血も羊水も特に異常なし。赤ちゃんも元気でした。

退院される前に病室でこの方と、そう長くはありませんでしたがゆっくり話すことができました。

 「どうでした? お産の直前に生む場所がコロコロ変わって大変でしたね?」
「いえいえ、安心してお産ができましたよ。 お産のときに担当してくれた助産師さんがよかったです。 あんないい助産師さんがいるなんて、って。 さっそく何人かの友人に情報流しましたよ。」
 「〇〇さんなら、きっとどこででもいいお産ができると信じてました。」
「私もそうは思っていたんですが、それでも、あの助産師さんでラッキーだったなって思います。」
キラキラと輝く目元が印象的な方です。

助産院でのお産のなによりもよいところは、必ず自分の知っている助産師さんが責任を持って担当してくれる、という安心感、あるいは信頼関係なんでしょう。
一方、病院でのお産は、何人かの助産師さんがいて、勤務の都合でいつ、だれにあたるかわからない、もちろん、陣痛で分娩室に入るまで顔を知らない、ということが多いと思います。
しかしながら、病院では、誰が担当するか決まっていないというだけで、それがすなわち助産師としての質が低いというわけではありません。 そのとき担当したのは、経験も豊富だし、いつも情熱いっぱいの、本当にやさしい助産師でした。この方と担当した助産師の波長がぴったり合ったのもあるのでしょう。

この方のキラキラとした瞳で語る明るい表情をみながら、きっと、お腹が空いたときに中身を知らないお弁当箱をあけてみたら、予想外に大好きなおかずがいっぱい入ってた、ってカンジなのかもしれないなと思いました。

   いつもボクは思うのですが、美味しいお弁当には二つあります。
   自分の大好物が入っていることを知ってて買ってきたお弁当と、
   何が入ってるか知らないけれど、自分のことを想ってくれてるひとが
   心を込めて作ってくれたお弁当です。
   前者はふたが透明で、中身が見えてます。
   後者は、ふたを開けるまで何が入ってるはわかりません。
   どっちのお弁当も「美味しい」かもしれないけれど、
   食べて、「うれしい」と感じるのは後者だと思います。

この方は、どこででもいいお産をする自信があったと思います。
しかしながら、お産を通して予想外のうれしい出会いがあり、予想していた以上に思い出に深く残るいいお産できたのだと思います。
この方だからこそ、ボクたちが提供するお弁当の味がわかってくれて、それを、「美味しかった!」と喜んでくれたのかもしれません。

産婦人科医として、今日もせっせと「安全で美味しいお弁当」づくりに励んでいきます。





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いいお産でした! [分娩]

先日のお昼過ぎ、ひとりの妊婦さんが急変して入院になりました。
この妊婦さんは3回目のお産で、前の2回はほかの病院でした。
前の2回のお産は自然分娩だったのですが、赤ちゃんが小さかったり分娩の進行がスムーズでなかったりして、いろいろ不安が大きく、知り合いに紹介してもらってうちの病院を選んだということでした。

この日最初の連絡は、自宅で突然の破水、しかも大量の出血というのです。
携帯電話で外来の助産師さんに自分の様子を実況中継しながら自分で車を運転して来られました。
来院されたという連絡があって(っていうか、ボクは病院の玄関で立ってたんですがどこかですれちがったみたいです)診察室に駆けつけると内診室はまさに血の海!!

「早剥やな。すぐに入院ですよ!」
常位胎盤早期剥離は胎盤から出血が始まり、胎児にも母体にもきわめて危険な妊娠合併症の一つです。
なによりも迅速な対応が必要です。

診察してみると子宮口は3センチほどでまだまだすぐにはお産になりません。
モニターではまだ胎児は大丈夫のようですが、超音波ではやはり胎盤から出血しているようです。

緊急帝王切開です。

しかし、血小板や貧血を調べてからでないともっと危険です。出血性ショックや出血が止まらない状態になっている可能性もあります。
検査をしている間に手術室と麻酔科ドクターに連絡します。
もちろん輸血の準備も。
ちょうど第一報が入ったのが小児科との合同カンファレンス中だったので小児科のドクターは連絡済みでした。
そして、携帯電話で大阪で仕事しているというご主人にも連絡し状況を説明しました。

すべてが流れるように進んでいきました。

入院して20分後に胎児モニターで徐脈が出現し始めました。まだ回復はします。
 「大至急!もう手術室に連れて行こう!」

 「〇〇さん、胎盤から出血して危険な状態です、母児ともにですよ。今から帝王切開しますね。」
「先生、お願いします。全部、お任せします。」
 「がんばろうね。」

十分な説明をしている時間はありません。
待ち構えていた手術室にはいって、15分ほどで赤ちゃんが生まれました。
元気でした。よかった~。
やはり、常位胎盤早期剥離でした。胎盤は3分の1ほど剥がれていました。

病院に到着して赤ちゃんが生まれるまで全部で40分ほどでした。
っていうより、大出血してから生まれるまでが50分そこそこでした。

急変したのが平日の昼間ということで対応は本当に迅速でした。
病院中の周産期に関わる全てのスタッフが集結できたといっても過言ではありません。
そのスタッフ一人ひとりがそれぞれの持ち場で的確に判断して自分の仕事をこなしていたのです。
入院して20分の間に、ボクが内診して超音波検査してる横で、点滴を入れて、術前検査の採血と心電図をとって、おまけに毛剃りして、血栓症予防の弾性ストッキング履かせて尿カテーテルまで入ってたんです。
もちろん胎児のモニターしながら。

次の日、手術室のスタッフが患者さんを訪問したとき、この産婦さんは、

「なにもかも早く対応していただいて感謝しています。 いいお産でした。」
と語ってくれたそうです。

よかった、よかった。
・・・?でも・・・?

しかし、もし、これが休日の真夜中だったら・・・?
そう考えると少しだけ寒気がします。
手術室に行く時間がもっとかかっていたら・・・?
胎児はダメになっていたかもしれない。
出血が多くて手術中にショックになり、手術しながら適切な対応ができなかったとしたら・・・。
お母さんも死にかけてたかもしれない。いや、死んでたかもしれない。

もしそうだとしたら、それでもこの人はボクたちに「いいお産でした。」といってくれただろうか?
この方ならいってくれたかもしれないけれど、多くはいってくれないと思います。

少しずつの幸運が重なって赤ちゃんは元気に生まれてきてくれるんだと痛感しました。

そして、今回の最大の幸運は、うちの病院のスタッフみんなの絶妙なチームワークが発揮されたことかもしれません。

本当にいいお産でしたよ。
みなさん、お疲れ様でした!





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順番が違う!!!って。 [分娩]

胎児の発育がよくなくて、切迫早産の妊婦さんが管理目的で入院していました。
この方が入院した次の日の朝、病棟でつけていた胎児心拍モニターで、いわゆる「仮死兆候」(最近は「胎児機能不全」というのですが)のパターンを示し始めました。
ボクはちょうど外来診療中だったのですが、そのモニターを外来で診察しながら見ていました。

 「赤ちゃんの調子、よくないね。帝王切開かな?」
すぐに病棟担当のドクターに連絡して、術前検査など準備を始めてもらいました。
そして、患者さんが途切れたとき、病棟に走って行き、この妊婦さんに今の状況を説明しました。
もともと、赤ちゃんの発育も悪く、おそらく胎盤機能不全が原因だろうとは説明していました。
妊婦さんは、急変時に処置をしやすいように、すでに分娩室に移動しています。

 「モニターでは赤ちゃん、調子よくないですね。これから帝王切開した方がいいと思います。旦那さんにも状況を説明したいのですが、旦那さんは呼んだらどれくらいでこれますか?」
「仕事に行っているので今からだと2時間くらいかかります。」
 「ちょっと、時間がかかりますね。でも、早く来てもらってください。他のおうちのひとは?」
「実家の母ならすぐに来れます。」
 「急変があるかもしれませんし、念のためお母さんには来てもらっていていいですか?」

緊急手術とはいえ(いや、緊急手術だからこそ)、本人だけではなくて必ず旦那さんや、家族には手術の必要性など説明します。旦那さんがいないときは他の家族に説明するしかありません。

そして、またボクは待たせている外来患者さんの診察のために外来に行きました。
そして、しばらくして実家のご両親が来られたと連絡があり、また、すぐに病棟に走って行きました。
病棟に着いたら助産師さんたちが駆け寄ってきて、なぜかボクに謝り始めました。
「お父さんを怒らせたみたいなんです。スイマセン・・・。」
 「なんで?」
「原因はたいしたことではないんですが・・・。」と助産師さんも歯切れがよくありません。

とにかく、この妊婦さんのご両親に胎児の状況を説明するために分娩室に行きました。
そこには、腕組みして真っ赤な顔しておこってるお父さんがいました。

「だんな(妊婦さんのご主人)が来るまで、説明は聞きません!」
 「はぁ?」
「順番が違うでしょう!!」
 「はぁ・・。」

ボクが今朝から少しずつ状態が思わしくなくなってきている胎児の状態と、そのためにこれから必要であると帝王切開のことを説明しはじめたのですが、
「だんなが来るまで、一切、説明は聞きません!! 順番が違うっ!!」
の一点張り。

聞くところによると、助産師さんが「お産(帝王切開)のあとに病室を個室に代わってもらいますから、今のうちに荷物をまとめておいてください。」といったことが原因なのだそうです。(ちなみに、うちの病院では産後は全員個室に入ってもらうことになっています。)
お父さんが怒っているのは、帝王切開の話も聞いてないのに個室に移るのオカシイという理由だったのです。

それを聞いて、さすがのボクもキレました。
京都風のイケズ全開です。

お父さんの希望どおりに、ご主人が来られるまで待って、それから、これまでの妊娠経過、入院して科の検査結果の説明、これから行う手術の内容、合併症の可能性、赤ちゃんの予後・・・・『順番どおりに』くどくどと40分かけて説明しました。
目の前で、赤ちゃんがモニターで遅発性一過性徐脈(胎児ストレス兆候)を示した時、

 「ほら、赤ちゃんは今こうして低酸素状態で苦しんでします。 かわいそうに・・・。 すぐにでも分娩して処置をした方がいいですね。 でも、お父さんが納得されていなようですから、もしこれから行う帝王切開に疑問があるとおっしゃるなら、ボクは責任を持って受け入れてくれるほかの病院をこれから探します。 京都府内がなければ、大阪でも滋賀県でも探します。 納得していない状況でなにかあったとき、訴えられるのはボクたちなんです。 どうしますか? 付け加えておきますが、ボクは怒ってますからねっ!」

妊婦さんもだんなさんもあっけにとられています。
「私は順番が違うと言っただけで、医療方針にはとくに不満はないんですよ。」
とことん憎たらしいおっさんです。

「お、お願いします。」
やっとご主人が重い口を開きました。
ボクは時計を見て、ご主人に言いました。もちろん、お父さんのいる前で。

 「お父さんがこの場にいなかったら、今はとっくに赤ちゃんも生まれて、手術も終わっている時間なんですよ。 赤ちゃんの命そして人生を前に、しょうもない意地を張ることがどれだけくだらないことか、分かりますか? 残念だけど、この赤ちゃんを育てていくのはボクじゃないんです、あなたたちなんですよ。」

言いたいことはまだまだありましたが、早く赤ちゃんを助けないと・・。
手術が決定されると、滞っていた水が一気に流れ出したように、すべて順調に運び、赤ちゃんも小さめでしたが元気に生まれました。
やはり胎盤梗塞と臍帯過捻転があり、胎児機能不全の原因は臍帯と胎盤の血流異常でした。

この一件の後、ボクは1週間くらい気分が悪くて、立ち直れませんでした。

社会の仕組みとして、人間のいろんな欲望やエゴが、まわりまわって一番弱いところにしわ寄せとなって影響するのです。
巷の子供や老人の虐待などもそうです。

お産の場合は赤ちゃんなのです。
赤ちゃんという小さな、しかし、限りない可能性と希望をもった、かけがえのない生命のまえで、大人たちが下らない意地や見栄を振り回すことは、本当に馬鹿げています。

「順番が違う」??
本気でいってたのか、ボクは今でも理解に苦しんでします。



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計画分娩って(やっぱり)難しい [分娩]

お産の時期って、これは自然なものなので、そんなに周りに都合がいいようにはいきません。

「先生、いつ頃、生まれますか?」
 「わはは・・・、それが判ればボクたち、苦労しないんですけど。」
なんて、よくあるこの質問にはなんとなくお茶を濁すように答えます。

先日、事情があって、どうしてもうちの病院でのお産を希望する初産婦さんがいました。
東京からの里帰り出産で、実家が病院から2時間近くかかるのです。
最初は実家の近くの病院での出産を考えていたのですが、やっぱりうちの病院でしたいということになりました。
妊娠38週に入り、赤ちゃんの頭もよく下がってきてて骨盤に入り込んできています。
ただ、初産婦さんなので子宮口はまだ硬く、陣痛が来たらそれなりに進行が速いかも知れません。
ちょうど5月の連休の時期だったのですが、うちの病院の周辺は行楽シーズンになると慢性的な交通渋滞です。
陣痛が来たのに、なかなか病院に到着できない、なんてこともあり得ます。

結局、予定日10日前に計画分娩をすることにしました。
もともと計画分娩はいうほどうまくいかないものです。
そういうことは承知の上で、少しずつ、陣痛を起こしていきました。
休日は基本的に誘発はしないので、ホントにゆっくりゆっくりの誘発です。
何日かすぎても、ほとんどまともに陣痛がきません。 やっぱり・・・。
本人も最初はニコニコしていたけど、あんまり陣痛が来ないので、
もしかしたら、一生陣痛が来ないかもしれないって不安を感じるようになったようです。
すごく不安げな表情になり始めました。
でも、モニターでは赤ちゃんは常に元気でした。

「本当に産めるんですか?」
 「わはは・・。 産めますよ。 大丈夫、大丈夫。」
「いつ?」
 (「そ、それだけは訊かないで」)
 「でも、赤ちゃんが元気だってことと、陣痛の感じがよくわかったと思うんです。自信を持って退院しましょう。」

たいていは、1、2日で生まれるんですが、さすがに1週間以上かかるとこっちも自信がなくなります。
結局、予定日を1週間過ぎる頃まで外来で2回ほど診察して、妊娠41週0日にもう一度、入院し、朝から誘発して夜中に、ポロリと元気な女の子が生まれました。

お産は自然なもので、とくに陣痛が始まる時期の判断にはなかなか難しいこともあります。
人為的な医療介入をすることでかえって自然なお産の流れを悪い方へ変えてしまうこともあるかもしれません。

赤ちゃんは生まれたくなったら、自分で子宮の出口をとんとんと合図してくれるようにも思います。
それを感じないうちは生まれないのでしょう。
生命の誕生の触れてはいけない神聖な部分、それが陣痛の始まる時期なんだと思います。

治療としての分娩誘発と、計画分娩としての分娩誘発には大きな違いがある、とあらためて強く感じました。

  『自然なお産が一番安全なお産。』

あらためて、強く肝に銘じたいと思います。










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帝王切開のカンガルーケアについて [分娩]

生まれた直後の赤ちゃんをお母さんが(あるいはお父さんが)、肌と肌を触れ合うように抱っこすることをカンガルーケアといいます。
皆さん、すでにご存知とは思いますが、すでに一般的になってきており、たいていどこの産科でも行われています。

助産院から、医学的な理由でうちの病院に紹介されてきた妊婦さんなどは、うちでお産をすることになって最初にボクたちに投げかけてくる質問で、「カンガルーケアはさせてもらえるのでしょうか??」というものが必ず含まれています。「自分が産んだんだから、最初に抱っこするのは私が当然です。医者なんかに触らせないわ。」といわんばかりです。「産んだ後は、しばらく家族だけで過ごしたいので、ナースやドクターは分娩室に入らないでください。」ともおっしゃいます。

 「どうぞ、どうぞ。」

自宅分娩を希望していたのに、やはり医学的理由でうちの病院に紹介されてお産になった方は、赤ちゃんが生まれた直後に旦那さんが服を脱ぎはじめ、上半身裸になりました。「今度は僕の番だよ。」とカンガルーケアを始めました。
若い看護婦さんはそれを見て、顔を真っ赤にして困っていました。

いうまでもなく、カンガルーケアはいいことです。

しかし、生まれたての赤ちゃんの誕生を喜ぶ「儀式」なんかではないのです。
お母さんがして、今度はお父さんがして、順番にまだ生まれたての湯気が立ってるような赤ちゃんをみんなで抱っこしてまわすような「儀式」は本当に必要なのでしょうか?

うちの小児科の先生は、すこし呼吸の様子が落ち着かない生後間もない赤ちゃんを診て、
「少しカンガルーケアしてみて。 それからもう一度診察するから。 きっとそれで十分だよ。」
といってくれます。

ボクは常々、「帝王切開も、普通分娩も、どちらも立派なお産です。」と言ってます。
うちの手術室のナースも、麻酔科の先生と相談して、帝王切開中でもカンガルーケアができないか?と特にリスクのない患者さんから少しずつ始めました。
その目的の一番は、お母さんが満足することでした。帝王切開でお産することの、ある意味、後ろめたさ?のようなものに対して、自然分娩と同じくカンガルーケアをすることで、お産に対する満足度をあげることができないかという発想でした。

先日、うちの小児科の先生から、帝王切開時のカンガルーケアを積極的に取り入れてる病院の話を聞きました。
顔をサッと拭うだけで十分だから、羊水の吸引は最小限でいいし、しなくてもいい。
小児科医が赤ちゃんの呼吸状態を正確に判断しながらしっかり抱っこして、赤ちゃんを帝王切開中のお母さんの胸元から首にかけての場所でカンガルーケアを行う。ちょうど、お母さんが赤ちゃんにチューをするような位置関係になる。

今日、帝王切開で生まれた赤ちゃんにも、小児科の先生が、「おめでとうございます。元気な赤ちゃんですよ。」とそっと、やさしく、カンガルーケアをしてくれました。
赤ちゃんにもお母さんにも至福の瞬間です。もちろん、お父さんもその風景をカメラで撮っています。
緊張した手術室がひときわやさしい空気に満たされていきます。

カンガルーケアは、ケアと名のつく限り、ある意味、医療行為だと思います。
赤ちゃんが子宮の中から出てきて、外の世界に順応していく過程を「適応過程」といいますが、カンガルーケアはそれを促進し、軽い一過性多呼吸ならそれだけで治るくらい、ちゃんとしたケアなのです。
もちろん、母子関係を早期にしっかりと結びつける(母児結合、といいます)大切な目的もあります。
ただ、母児結合を強調するあまり、生まれたての赤ちゃんを次から次に抱っこして回るようなことをすると、かえって赤ちゃんがしんどくなることもあると思うのです。

もう一度言いますが、いうまでもなく、カンガルーケアはいいことです。

助産師と産科医だけでなく、最高の小児科医と最高の麻酔科医が見守る、帝王切開でのカンガルーケア。

生まれたての赤ちゃんを見守ることをもう一度考えさせられる瞬間です。

ボクは、そのとき、手術に集中しているので忙しいので何もできませんが・・・。



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イスラム教徒のお産 [分娩]

うちの病院には外国の方が多くて、お産で入院する人の、だいたい10人に一人が外国の方です。
病院の近くに大学があって、留学生がたくさん住んでいることや、外国語に堪能なドクターがおられて口コミで集まってくることが理由です。
中国、台湾や韓国からの人が一番多いのですが、モンゴル、バングラデシュ、カンボジア、ネパール、ベトナムなどのアジアの国以外に、ブラジル、ジャマイカ、ドイツ、イタリア、ケニア、マリ、オマーン・・・・いったいどこにあるのかわからない国々まで様々です。

うちの病棟のスタッフたちも、患者さんに渡すパンフレットを英語やポルトガル語でつくって、外国の患者さんのために準備に余念がありません。
ボクもこの病院に来てから英語で診療する機会が多くなったので、すこしは英会話には自信がついてきました。

そんな中で、やはり一番個性的(?)なのが、イスラム教徒の人々です。
食事は同じようでも、それぞれみんな食べられないものが違います。
みなさん、豚肉は食べないのですが、それ以外に、完全に菜食主義の方、お魚はOKの方、全部家から持ってくるからといって病棟の電子レンジでおいしそうなエスニックな香りを漂わせる方・・・。
管理栄養士さんも食事は十分に気を使ってくれるので助かっています。

しかし、そんな中で、なによりもボクが気を使うのが、「女医さんでないと診察できない」ということです。

実は、昨日、ひとりのイスラム教徒の妊婦さんがお産になりました。
陣痛がなかなか進まなくて、ようやく有効な陣痛が始まって1時間ほどしたころ、

「イタイ、イタイ! イタスギル! スグニ帝王切開シテクダサ~イッ!」と叫び始めました。

旦那さんも困った様子。
・・でも、これって、どちらかというと、普通のお産です。
患者さんの横で、ご主人に分娩の状況を説明していたのですが、本人は叫びまくって大騒ぎです。
「赤ちゃんは元気だし、すぐに手術をする必要はないと思います。(こうして話してるうちに)進んできてそうですよ。診察しましょう。」

といったものの、ボクは診察できないので、ボクは分娩室から出て行き、女医の主治医と助産師さんが診察。
しばらくして、またボクが入っていって、診察所見を聞いて、また説明。
で、またしばらくして、また診察するので、分娩室から出て行って、そのあと、また、説明。

こんなのを2,3回繰り返してるうちに、どんどん進行してきてポロリ、生まれちゃいました。
わはは。

なんのこっちゃわかりませんが、何はともあれ、無事でよかった。
ボクがいなくてもよかったんじゃない?なんて思いますが、「お産を見守る」という意味で頑張りました。





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ある立会い出産でのこと [分娩]

先日お産された方は、初めてのお産で、ご主人が立ち合いました。

このご主人は脳外科医で、ボクの後輩の産婦人科のドクターの同級生でもあり、しんどそうな妊婦さんの横で申しわけなかったですが、世間話などをしながら、どちらかというと和やかなお産(のハズ?)でした。

真夜中に入り、分娩は少しずつ進んできたのですが、子宮口が全開になる少し前に突然血圧が上昇したのです。
すかさず血圧降下剤を使用して、お産の準備を始めました。
吸引分娩ならなんとかいけそうかな?

それでも血圧はどんどん上昇してきて、本人の意識ははっきりしているのですが、全身に震えが出現してきました。

「子癇発作です!」

真夜中の分娩室は一瞬にして修羅場になることもあります。
小児科の先生をコール。
子宮口が完全に全開していないので、傍頚管ブロックを行い、怒責がかかったところでなんとか全開大になりました。
ちょっと児頭が高かったのですが、一気に吸引分娩で娩出。

赤ちゃんは元気でした。

ただちにお母さんに抗けいれん剤を注射し、お産直後から血圧はほとんど正常化しました。
血圧が急激に上がってから分娩まで、約20分間の出来事でした。
産道の裂傷が大きくなって、縫合するのに時間がかかり、出血も多くなりましたが、母児共に無事でした。

分娩室では、突然状態が急変してしまうことがあります。
立ち会い出産はこういった急変のときでも、ご主人や家族に説明しながら迅速に処置ができるので、そういった意味でも立ち会い出産は大切だと思います。
今回も痛感しました。
さらに、今回のお産では、ご主人が脳外科医であるっていうのも、なんとなく安心感がありました。

無事退院されるとき、またまたご主人と世間話している時、こうおっしゃいました。

「産婦人科医って、ホント大変ですね~。」
  「いやいや、脳外科医のご主人がいてくれたから、ボクもなんとか頑張れました。」
「でも、僕が、『民間人』だったら、あの状況では腰抜かしてましたよ。」

わはは・・・。  『民間人』って。
ふつうは、軍人じゃない人っていう意味で使うんだと思うんですが。

でも、ふと思いました。
ドクターって、ある意味、医療現場っていう戦場で戦っている兵士なのかもしれません。
そして、妊婦さんも、命をかけて赤ちゃんを産むためにいろんなもの-痛みや不安など-と闘っているのかもしれないですね。



  



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分娩予約の意味 [分娩]

新聞でこんな記事を見ました。
『「飛び込み出産」急増 たらい回しの一因、背景に経済苦』
http://www.asahi.com/health/news/TKY200711170277.html

妊婦健診のお金が高くて病院に行けない人が増えており、病院は病院で、「分娩予約をしていない妊婦さんはリスクが高いので診療をいやがる」、「リスクが高い妊婦さんだからそういう妊婦さんを診療できる医療機関も高次病院に限定される」、「こういう患者さんは診療費の支払えないことが多いから負担が大きくなる」、という内容です。

この記事を読んで、むなしく感じたのはボクだけではないはずですがどうでしょうか?
この文章の中には、生命の誕生の尊さや喜び、妊婦と産科医、助産師との信頼関係、まったく感じることができません。
少なくとも、ボクが毎日がんばっている、この病院ではありえない言葉の行列です。

妊婦さんの不安を少しでも軽くできるような言葉、笑顔、ボクたちはいつも心がけているつもりです。
そりゃ、しんどくて、当直明けの朝には笑顔が笑顔にならなくて、引きつってしまうこともあります。
でも、少なくとも心は通じていると信じています。

出産には「予約救急」という考え方があって、時期ははっきりわかっていないけれど、確実にやってくる、しかも救急疾患として、というものです。
分娩予約は、「いつくるかわからない出産に対して、ボクたちは責任を持って対応しますよ。」という、病院と妊婦さんの契約であって、妊婦さんもその契約に対して、誠実に妊娠生活を送ってもらわないといけないと思います。
そして、なによりも生まれてくる赤ちゃんに対して、誠実でいてほしいです。

子供をおなかに宿した瞬間から、時期ははっきり決まっていないけれど、
分娩は確実にやってくるのです。

産婦人科医は、一つ一つの「元気な産声」を楽しみに、今日もがんばっているんですよ。


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