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コウノドリ効果 [妊娠]

少し前の話になりますが、
ドラマ「コウノドリ」を観た方も多いと思います。
たしかに、リアルでした。
ボクたち産婦人科医が、お産の最前線で経験する、いろんなことを
実にわかりやすく、スマートに伝えています。
ボクら、いわばプロが観ても、
「うん、うん、あるある。」
と、納得してしまうことばかりでした。
実際に経験したことがあるだけに、
思い出して、怖くなって、
ついウルウルしてしまうシーンもありました。

その中で、常位胎盤早期剥離の妊婦さんのシーンがありました。
タバコをふかしている最中に、突然発症するくだりです。

ボクは、昔働いていた病院では、
月に1回のペースでしたが、土曜日の母親教室に参加して、
レクチャーをしていました。
その病院の母親教室は、妊娠中期と妊娠後期に1回ずつ、
計2回受けることになっていました。

ボクは、たいてい後期の教室だったので、おもに、妊娠32週以降の妊婦さんが対象になっていました。
ボクの話す内容は、いつも内容が決まっていて、
例えば、3人お産した人なら、3回とも母親教室に参加したとしたら、3回同じ内容の話を聞くことになります。
どんな内容かというと、
一つは、陣痛とは?という内容、続いて、常位胎盤早期剥離(早剥)についてでした。

まず、正常の陣痛の特徴について説明します。
内容は、陣痛の「陣」の漢字の意味からはじまるものでした。
(そのあたりは、長いので省略します)
そして、
早剥について話します。
早剥は、病院で起こる場合よりも、
自宅などの病院外で起こるものの方が深刻です。
早剥はほとんどが痛みを伴うものなので、
陣痛と混同されることも少なくありません。
早剥を自分でイメージするためには、
陣痛そのもののイメージが大切です。
そういった内容を順番に話していきました。
だいたい持ち時間が20分程度だったんですが、
いつもその倍以上の時間をかけてしまい、
夏の暑い時期には、気分が悪くなって途中退出される方も
いらっしゃいました。
皆さんにご迷惑をおかけして、
申し訳ありませんでした。

それでも、こういった「生々しい」話は、役に立つこともあったと確信しています。

もう15年以上も前のことですが、
ある朝、8時45分くらいに、ある妊婦さんが救急車で運ばれてくるという連絡が入りました。
突然のことなのでびっくりしましたが、
外来で診察したら、妊娠34週の妊婦さんが、お腹を抑えながら苦しんでいます。
ばしゃばしゃと羊水が混じったような出血が服を通して流れています。
 「早剥や。すぐに、カイザー(帝王切開)!」
15分後に生まれた赤ちゃんは、少し小さめでしたが、
元気に産声を上げ、幸いにも無事でした。

手術の後で、話していると、
言葉少ないその方は、ひとこと、
「母親教室で、先生がお話しししていたのを聞いていたので、
すぐに判りました。自分で救急車を呼んだんです。」
と話してくれました。

また、ヘビースモーカーの別の患者さんは、
同じ症状で、緊急帝王切開になったのですが、
あとで、同じママ友さんに、
「母親教室で、先生の話、聞いてへんかったんちゃう?」
と叱られたそうです。
そのママ友さんは、子供が2人で、2回とも同じ話をボクの母親教室で聞いていたそうです。

こういうことがあると、
毎月、貴重な休み時間の土曜の午後を使って
母親教室で話していたことは、
決して無駄ではなかったと思います。

そこで、
先月、前の病院でのアルバイトで、
人生最後?になるかもしれない、
当直に入った時のことです。

夕方、8時ごろでした。
一本の電話がかかってきました。
妊娠34週くらいの、若い初産婦さんからでした。

電子カルテを見ながらの、電話応対です。
カルテの記載によると、
もともとヘビースモーカーだったようですが、
妊娠してからは、どんどん減っているようでした。
そして、
「テレビを見たら怖くなった。」と、見事、
完全禁煙に成功したようです。

妊娠34週の、お腹の張りはたいてい「前駆陣痛」です。
出血していなくて、痛みの間隔がはっきり自覚できるようであれば、
たいてい大丈夫です。

 「たぶん、大丈夫だと思いますが・・。」
「いえ、どうしても不安なんで、診察お願いします。」

しばらくして、診察しましたが、
やはり、胎児も胎盤も異常なさそうです。
そして、病院に到着した時には、すでに痛みも弱まっていました。

 「よかったですね。大丈夫そうですよ。」

ほっとした様子の子の妊婦さんは、「コウノドリ」を観て、
自分がタバコを吸っていたことで、
毎日、早剥にならないかすごく心配になっていたのだそうです。

「あと少し、頑張りましょう。無事に赤ちゃんの元気な産声を聞くまでは。」

怖がらせることが、正しいとは言えませんが、
ビジュアルで伝えることのほうが、強烈で、より効果的なのかもしれません。

「コウノドリ」は、母親教室の教材としても、
これからも使用されるべきものではないかと思いました。

そしたら、ボクが10年間、ずっと話していたスピーチも不要になるでしょう。
今思うと、自分でも、よく頑張ってきたなと思います。

元気な赤ちゃんを想う気持ちを、
母親教室だけではなく、
いつまでも伝えることができたら、と願うばかりです。

まだまだ、やることはたくさんあります。

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