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ボクはたいして頑張っていなかった。 [産婦人科医]

実は、数日前、朝、オートバイで通勤中、
自分の不注意から、
道路の中央分離帯に接触し、転倒し、右足を骨折しました。

単独の事故で、幸いにも、誰を傷つけることもなく、
オートバイも最小限の「擦り傷」程度のダメージでしたが、
自分の足は全治1ヶ月ほどの怪我となりました。

エアバッグジャケットも着用していましたし、革の手袋やブーツも履いていたので
幸いそれ以上の怪我はなかったのですが、
つま先を道路に打ち付けた衝撃は思いの外大きく、
ポッキリと折れてしまいました。
ほとんど無傷のバイクに再度またがって病院まで出勤し、
けんけんでロッカーまで歩き、白衣に着替えました。

痛かった足を見たら、倍くらいにふくれあがっています。

「先生、折れてるのと違いますか?」
詰所で助産師さんに言われました。

 「整形の先生には診てもらっといたほうがいいかな。 いてて・・。」

その日は外来診療でしたから、診察の合間に整形外科の先生に診てもらいました。
学生時代からよく知っている整形外科の先生は、わざわざ産婦人科外来まで診察に来てくれました。

「これ、折れてますね~。」
 「折れてますか、やっぱり。」
「写真撮って、確認しますね。」

産婦人科外来から、患者さんの心配そうな視線を浴びつつ、
レントゲン撮影に一回、ギプス固定に一回、
車いすに乗って診察室から運ばれていくのは恥ずかしかったです。

その日は痛み止めもしっかり効いてくれて、
何とか無事に外来を終えることができました。
もちろん、隣の診察室の先生に、初診の患者さんを何人か診てもらいましたが・・・。

上司の先生に報告しても、
皆さんにこんなに迷惑かけているのに、

「困ったときはお互い様ですよ。早くよくなってください。」
「手術しなくてよかったね。」

と、当直を変わってくれたり、手術の担当を外してくれたり、
申し訳ない気持ちでした。

その後、土日を含めて、外来のない日は休ませてもらい、
5日間自宅で静養することができました。

自分が執刀するはずだった帝王切開が2つあったのですが、
若い先生を主治医にして、婦人科医長が代わってくれました。
(患者さんにも直接謝ることもできました。)
昔、自分もバイクに乗っていて、やはり通勤中に転倒したことがある大先輩の先生は、
たまたま家が近いこともあって、家まで送ってくれました。

ドクターが10人以上もいると、
一人くらいが怪我しても、なんとかなるもんだなと変に感動する一方で、
今まで、「自分がいないと、自分がやらないと」って、
しゃかりきに頑張ってきたことが本当に正しかったのか、って不思議な気持ちになりました。

もちろん、ひとりひとりの患者さんに向かい合って、
自分が思う理想の医療に向かって、
少しずつ重ねてきたことは、
無駄でも何でもなかったはずです。
逆に、それを否定すると、
今の自分は存在すら危ういものと思います。

しかしながら、
自分が怪我をして気づかされたのは、
ほかのドクターと比べても、自分は特別頑張っているわけではない、
自分がやりたい、楽しい、と思うことだけをこだわっていただけだ、
そして、
そうやって自分が頑張っていると思い込んでいるのを、冷ややかに見ている人もいた、
ということです。

一緒に働くドクターや外来・病棟・手術室のスタッフは、
ボクの傷を心配してくれています。

「早くよくなって、焼き肉に連れてってくださいね。」
「無理だけはせんといてください。」

みんなの優しい言葉が、松葉杖以上の支えになっています。

そして、
怪我をしてみて、
周囲からかけてもらう言葉は少しずつ違い、
その少しずつの違いで、
その人が自分のことをどう思っているかも知ることができました。

言葉は、その人そのものです。

そんなたくさんの言葉から、

「君がいなくても、大丈夫なんだよ。」

と、直接誰かからいわれた訳ではなく、
自然と気づかされました。

自分がいなくても大丈夫、ということ自体が、
今まで自分の中にはほとんどなかっただけに、
このことに気づいたのは
重くて、少しきつかったです。

 「ボクはたいして頑張っていなかったな。」

足を怪我して、しみじみ思うのでした。

たくさんのご迷惑、、本当にごめんなさい。

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リディア

はじめまして!大阪在住のリディアです。
原因は、曲がるタイミングですかぁ?

先生方が、変わって下さって良かったですね!

私は、人に頼ることも時には必要だと思います。

身体は普段、何気なく使ってて分からないですが、怪我した時に、そこの部分の有り難みに気付きますよね。
身体に無駄な部分は、何一つないんだなぁ~と、いつもそうなった時に、考えさせられます。
by リディア (2012-09-17 19:19) 

milk

ひょっとしてあなたがいなくて大丈夫なことがある「かも」しれない。

でも、あなたがいないと大丈夫でなかった過去があったことは確か。

私もこの先必要とされる人間でいたいものです。

お大事になさってください。
by milk (2012-09-17 20:58) 

さうざんバー

いつもお疲れ様です(^^)v 足の怪我、ホントに大した事無くて良かったですね(^^)v 必要以上に頑張ってこられたので、怪我をした今は頑張らなくても良いと考えていただけたら・・・と思います(^^)v でも、周りの方々の言葉かけがあって、良かったですね(^^) 無いと、また心配ですし・・・(^^;)  お身体お大事になさってくださいね(^^)v応援しています!
by さうざんバー (2012-09-17 23:22) 

ちばおハム

驚きました!!その後の経過はいかがですか?
骨折の経験がないのですが、とても痛いと聞いたことがあります。治るまでは無理しないでくださいね。

君がいなくても、大丈夫。
は君が(治るまでは)いなくても(なんとか)大丈夫
ですね。

私も年を重ねてから自分が、というのをやめるよう努力してます。
自分の代わりは誰でもできる、という状態にしておこう、と若手育成に力を注いでいます(なんてね)

by ちばおハム (2012-09-18 05:44) 

ぱあぷる

はじめまして。いつも読ませていただいていました。お怪我、お痛いでしょうね。大丈夫ですか?一日も早く、痛くなく、不自由ないように回復なさいますように、お祈りしています。Haru先生がたいして頑張っておられないということでは決してなくて、先生方、スタッフの皆さん方、それぞれに頑張っておられるのですね。そしてHaru先生がすべてにおいて手足をお動かしにならなくても、先生の「存在」、先生が見守っておられることが周囲の方々にとっては決定的に大きいのではないかと思います。きっと、若い先生方も、いろんな角度からHaru先生を見て学んでおられることと思います。私もHaru先生のような先生のもとで働きたかったなあと思います。どうかお体大切に、これまで通りの優しいまなざしで赤ちゃん、お母さん、患者さんたちを見守ってくださいね。
by ぱあぷる (2012-09-18 17:30) 

nana

Haru先生、骨折大変ですね・・・お大事になさってください。

「Haru先生がいなくても大丈夫」かもしれませんが、「Haru先生だからこそ」の事だって山ほどあると思います。

私の婦人科の手術・その後の診察だって他の先生でも「大丈夫」ではあったかもしれませんんが担当の先生だったからこそ安心して受診する事ができました。

それにHaru先生が急に休む事によって診療に支障をきたすことになったとしたら、病院にとってそれこそ重大問題です!!!
by nana (2012-09-19 10:44) 

のこい

いつもがんばっている先生だからこそ、
病気や怪我をしたときに、皆さんがサポートしてくれるんじゃ
ないでしょうか?

私も以前、子どもの病気で仕事を休んで、職場に帰ったとき、
「ご迷惑をおかけしました」と言うと、
心配させまいと言われた言葉だとは思うのですが、
「ぜんぜん大丈夫でしたよ」と言われ、
私っていなくてもいい存在なんだ…とネガティブな考えに
なったことがありました。
お元気な先生だからこそ、怪我でちょっと落ち込んでらっしゃるのではないでしょうか。元気出してください。

先生はいつも頑張っています。
誰もがそう思っていると思います。

by のこい (2012-09-20 17:27) 

みう

haru先生、骨折との事、驚きました。
その後体調いかがですか?
私も子供の頃、友達と階段をケンケンで降りて踏み外し、右足を骨折したことがあります。
痛いですよね…

でも走行中にバイクで転倒とは怖いです。もっと大きな怪我にならなくて本当に良かったです。

すべてのことに何か理由があるとしたら、走行中のバイクの転倒も、命に別状がなかった事も、それによって先生が感じられたことも、先生にとってのこれからに必要な事だったのかもしれません。

もちろん先生はプラスに変えて行かれる事と思います。

今までやってこられた事も絶対に無駄でも何でもないですよ!
現に私はとっても感謝しています。
リスクがあるので考えていませんが、もし第3子を妊娠することがあれば、遠いけど、信頼できる先生の病院に通いたいと思いますもん。
それは私だけではないはずですし、そんな先生がいらっしゃることは患者にとって、すごく大きな事です。

これからも患者さんと赤ちゃんに寄り添ったまっすぐな先生でいてくださいね!
by みう (2012-09-22 22:42) 

あこ

久々に訪問しましたら、私のコメントにお返事下さっていたので感激しました。

娘はまだまだ本気モードではなく
始める前から諦めてないかな?
って感じもしますが、ここは黙って見守らないと!とジリジリしながら過ごしています。

先生が居なくても大丈夫と周りの方々は
気を使って下さっているのですね。
いつも一生懸命な先生だから少しでも不安そうな素振りを見せると、きっと休めないはずって思ったのでしょうね。
素敵なお仲間が周りにいらして良かったですね!
私も仕事もしかり、PTAもしかり、仲間は大事です。
先生、話しはかわりますが同僚の御子息が27才という若さで自殺してしまいました。
心の弱い子供だったと同僚は言っていましたが、自分が産まれてきた時の事を知っていたら飛び出さなかったでしょうか?
この事を聞かされてから毎日考えない日はありません。

先生のお怪我が早くよくなりますように沖縄の空の下よりお祈り申し上げます。
by あこ (2012-09-22 23:09) 

haru

リディアさん、コメントありがとうございます。
車線変更したときに、目の前に中央分離帯が飛び出てきたんです。
それで、よけきれず・・・。
今は、ギプスも外れて、ぴょこぴょこ歩けるようになりました。
大切な大切な宝物のバイクも、右足の大切さに比べたら・・・。
そして、今回のことで、右足以上に大切なことにもたくさん気づかされました。
by haru (2012-09-23 12:45) 

haru

milkさん、コメントありがとうございます。
ボクがいなくても大丈夫、と、
ボクがいなくてもよかった、というのは
たしかに少し意味が違いますね。
ボクがいなくてもよかった、って言っちゃったら、
さすがに泣けてきます。
ご心配おかけしてすいません。
by haru (2012-09-23 12:55) 

haru

さうざんバーさん、コメントありがとうございます。
怪我をして、日頃会釈くらいしかしなかったいろんな人に声をかけてもらうことがありました。
「この先生、こんな声だったんや。」とか妙に感心したりもしました。

by haru (2012-09-23 14:06) 

haru

ちばおハムさん、コメントありがとうございます。
研修医の頃に体調をくずし、入院したことがあります。
そのとき、先輩である外科医の兄から、「自分の代わりはいくらでもいる。だから、けっして無理をしてはいけない。」とたしなめられました。
研修医から、責任ある立場になった今でも、なんら変わりはないのでしょう。
あと、骨折は想像以上に痛かったですが、「あんまり痛そうじゃないね。」と不思議がられます。
痛み止めを欠かさず飲んでいるからなんですけど。
by haru (2012-09-23 14:13) 

haru

ぱあぷるさん、コメントありがとうございます。
若いときに指導していただいた先輩や上司のありがたさは、その先生たちがいなくなって、自分で解決しなくてはいけなくなったときにしみじみと感じるものだと思っています。
たぶん、今、一緒に働いている若い先生方も同じだと思います。。
そもそも、骨折したくらいでは、軽く迷惑がることはあっても、そうありがたみは感じないでしょうね。
by haru (2012-09-23 14:20) 

haru

nanaさん、コメントありがとうございます。
たしかに、患者さん、ひとりひとりが安心して医療を受けることができるという、気持ちの部分を大切にしたいと思います。
たとえ技術的な部分で「自分しかできない」のだとしても、患者さんに安心して医療を受けてもらうのは基本的なことだと思うからです。
by haru (2012-09-23 14:28) 

haru

のこいさん、コメントありがとうございます。
軽く落ち込む感じ、わかってもらえます?
しかし、不思議なもので、どんどん怪我が回復して、少しずつ働き始めると、今度はこき使われてるような気分になってしまいます。
「すこしはいたわって-。」と。
我ながら、自分勝手なものだと思います。
by haru (2012-09-23 14:34) 

haru

みうさん、コメントありがとうございます。
一つ一つのお産を大切にして患者さんに向かい合ってきたことは、ボク自身のスタイルでもあり、それは間違っていたなどとは考えていません。
しかしながら、それはあくまでもボクのスタイルであり、医療の本質ではなかったかも知れないと考えました。
ボクのスタイルを、ボク自身大切にしたいと思うのですが、
ボクがしてきたことも、医療の本質のみで比べてみると、その部分でほかの先生と大きな差はなかっただろうと気づいたのです。
by haru (2012-09-23 14:55) 

haru

あこさん、コメントありがとうございます。
若い人たちが自殺したという知らせやニュースを聞くたびに、胸が張り裂けそうな気持ちになります。
たしかに、自殺すること自体、精神的な病気(病的状態)でもあると思うので、周囲が早くそれに気づいて、なにかしらの対処(治療)があれば防ぐことができたかも知れません。
本当につらいとき、少なくとも、死ぬ気で自分を産んでくれたお母さんのことを想ってほしいと思います。
お産という、命の現場をいつもみているだけに、自殺や虐待のニュースは本当に悲しい気持ちになります。
by haru (2012-09-23 15:06) 

haru

西村先生、Facebookからのコメントありがとうございます。
残念ながらFacebookをしていませんが、よく存じ上げている先生なので、こちらの方にコメントさせていただきます。
「いなくても大丈夫」ということ、と、「私でなければ」のこと。
みなさんからのコメントから、結局のところ、「医療の本質は何か」という部分に関わる気がしてきました。
患者の病気だけを診る、ということにおいては誰であっても大きな差はないかも知れません。患者を、人として観て、癒やす、という部分で自分がこだわっていくスタイルというものも医療の本質に入れるとしたら、やはり、「私でなければ」という、Spirit が必要不可欠かも知れません。
ただ、それはけっこうしんどいことでもありますね。

by haru (2012-09-23 16:26) 

ともたま

先生お久しぶりです。
先日ブログを見てびっくりしました。でも足の骨折で手術の必要も無いとのことで安心しました。
バイク事故は結構悲惨な状態になっていることが多いので、大怪我も無く先生の命が助かって本当に良かったです。
最大限の自己防衛の装備のおかげでもあると思いますが、やっぱり先生はこの世でまだまだ沢山やることがあるし必要とされてるから、神様や色々な力が守ってくださったんでしょうね。丁度良いタイミングで人生の間にもなったんでしょうか。
これからもバイクには乗ると思いますが、絶対に事故らないようにしてくださいね。本当にお願いします!

余談ですが先生の皆さんへのコメントのお返事の中に「ちょっとはいたわってー」ってあって、いじられキャラな一面もあるんだな~♪って、勝手に想像してパソコンの前で一人ニヤニヤしてしまいました(*^^*)
by ともたま (2012-09-24 19:09) 

haru

ともたまさん、コメントありがとうございます。
たしかに今回のことで、忘れかけていたことを思い出したり、新しいことに気づいたりしました。
いい勉強になりました。
残念ながら、バイクはやめることにしました。
というか、「今度、こけたら、バイクは卒業しよう。」と決めていたんです。
還暦になったら、オープンカーを買おうとも決めていて、それが前倒しになっただけです(限りなく、『妄想』に近いですが・・・)。
ま、右足なので、車の運転もしばらくできませんが。
あと、いじられキャラではないと思っています。
どちらかというと、「ボケ」と「ツッコミ」の、「ボケ」です。
職場にいると、しばしば「めんどくさい」おじさんですね。
by haru (2012-09-25 21:38) 

まなみんまま

お大事にしてくださいね!久々にお邪魔したら、こんなことになっていて、びっくりしました…

先生は、頑張りすぎです!きっと、神様がくれたプレゼント!休めるときは、休ませていただいて、早く、治して下さいね。
by まなみんまま (2012-10-16 21:30) 

haru

まなみんままさん、コメントありがとうございます。
怪我をして、すでに2ヶ月近くがたちます。
やっと杖を使わずに歩けるようになりました。
あと、普通に歩けるようになるのにしばらくかかりますが、時間の問題でしょう。
先日、緊急手術の時に、手術室に向かって走ってみましたが、やはり無理でした・・・。
by haru (2012-10-17 17:58) 

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