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なにやってるんだろう? [産婦人科医]

赤ちゃんが元気に生まれてきてくれて、その産声を聞いていると、
ホッとするし、いろんなことを心配しながら見守ってきたことが
すべて報われるような気がします。

 「よしっ、また頑張ろう!」
元気な産声を新たなエネルギーに変えて、次の仕事に向かうのです。

しかしながら、産婦人科医の仕事は、
いつも「おめでたい」ことばかりではありません。
ボクらが外来で行う「妊婦健診」は、
妊娠の経過や胎児の発育に異常がないかを
それぞれの週数でチェックしていく作業です。

言い換えてみると、
「なにか異常はないか、『あらさがし』している」
ようなものかもしれません。
見つけたくないものも、見つかってしまうこともあります。

先日の、ある妊婦さんのことです。

前回の妊娠からボクが主治医でした。
この方の実のお姉さんも妊娠中で、ボクが主治医を担当しています。
付き合いが長いので、十分に理解しあい、信頼関係もできていました。

妊娠12週の健診で、まだ小さな胎児を超音波でみたら、
大きな異常がありました。
すぐに大学病院に紹介して、胎児スクリーニング外来の先生に診てもらったら、
やはり、
ボクの診断通りで間違いないだろうと。
明らかに生きていくことが不可能な、その異常を、ボクは見つけてしまいました。

大学での診察を受けた、次の日の夕方、
うちの病院に御主人と一緒に来院されました。
お互いの目を見て、医学的な話を冷静にします。

この方の目から、ぽろぽろと涙がこぼれてくるのを
あくまでも冷静に眺めながら、
ゆっくりと話をつづけました。
ときどき、話すのをやめて、
また、この方がこちらを見て、また目が合うのを待ちます。

そして、一言一言、話すたびに、
ボクの目からも涙が染み出てきます。
決して生きてはいけない、異常を持った子供を
受け入れるしかありませんでした。

 「なにをやってるんだろう?」

この方のお腹にいる、小さな命を前に、
ボクは、ありのままを説明するばかりで、
どうして、この赤ちゃんを助けることを話さずにいるのだろう。

ボクの心の迷いのようなものも含めて、
患者さんのほうがしっかりと受け止めてくれたようにも思えました。

御主人と顔を見合わせて、お互い話し合ってきたことを
確認しあうかのように、
今回の妊娠について話をされました。

数日後、悲しいお産となり、
小さすぎる、その赤ちゃんはお母さんの胸の上でしっかりと抱っこされました。

 「なにをやってるんだろう?」

ボクは、もう一度、自分がしたこと、思ったこと、話したことを
自分の頭の中で繰り返しました。

小さな命を守ることが自分の仕事だと、
自分に言い聞かせて、どんなにしんどくても
いつもニコニコと頑張ってきました。
なのに、なんにもしてあげることができませんでした。

 「なにをやってるんだろう?」

言葉ではうまく表現できない、
苦しい気持ちです。


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FULL

こんにちわ、初めてコメントします。

そんなに悲しいことを言わないでください。
私達はharu先生がこんなに患者さんに感情を移入して向き合ってくれてとても嬉しく思っています。
私は早期に異常を見つけてもらったおかげで子供と向き合う心構えができ、出産して子育てをしています。

先生が患者さんにベストな説明をするのは皆知っています。
悲しくも生きられなかったその子もそのお母さんも、こんなに我々を想ってくださるharu先生に出会えて嬉しかったことでしょう。
by FULL (2011-02-08 13:19) 

HANA

2度・・・そうやって宣告された身です。涙が出てきてしまいました。
医師の方がそう思って接してくれている事を初めて知る事が出来ました。

僕の患者さんで4回流産した人がいてて、5回目出産したよ。なんて言われたり、手術中は横に分娩中の患者さんがいてその声を聞いて傷ついたり。
まだ・・・麻酔が効いていない私の横を笑いながらハシャグ看護士の声を聞いたり・・・思えば病院の辛い記憶が蘇ります。

大変なお仕事だと思いますが、1人でも多くの患者さんを診て上げて下さい。
by HANA (2011-02-09 11:44) 

あきこ

わたしはいま子供を望んでいる身です。しかしうつ病の治療中でもあります。
昨年9月に、薬のことが不安になり産婦人科に行ったら、そこの医師にとても酷いことを言われました(薬のことについて)。身も心もズタズタにされた思いがしました。
あれから別の産婦人科にかかったり、思わぬ病気が見つかり卵巣の手術をしたりしましたが、出会った医師が優しく患者思いの方々でしたので、卵巣をひとつ無くすという手術も、受け入れることが出来ました。
haru先生のように、患者さんを思ってくれる先生と出会えれば、それがこのように悲しい結果だったとしても、少しずつ少しずつ現実を受け入れて前向きに考えられるようになっていくと思います。
わたしも未だ薬を飲んでいるので、妊娠に対して不安です。
でも、今回手術してくださった先生を信じて、その日を待ちたいと思います。
先生の優しさは、間違いなく患者さんに届いていると思います。
先生のブログを読んで、こんなに真摯に患者さんと向き合ってくれている医師がいるんだと、安心出来ました。
by あきこ (2011-02-09 14:20) 

ニケ

お仕事する中でいろいろな思いを抱くこともあるかと思いますが、haru先生が‘あらさがし’とおっしゃることのおかげで無事妊娠や出産が進むものもありますし、今回のお腹の中の赤ちゃんの事も「今分かる必要があった」からharu先生が見つけられてそこに至ったのだと思います。

先生の無力感は痛いほど伝わってきます。
ですが、先生が思っているほど何もできていないとは そのお父さんお母さんは思ってないと思います。
やっぱり先生は素敵なお医者様です。
by ニケ (2011-02-10 00:41) 

ちばおハム

haruさんのやるせない気持ち、伝わってきました。
人間の力の及ばない領域ですものね。
医者の仕事はつらいことも多いですね。


by ちばおハム (2011-02-11 05:38) 

ぽぽん

いつも先生のブログにはげまされている産科関係者です。

5年前、今回の先生の担当された妊婦さんと同じ立場でした。

職業柄もあり、以前から既知の産科医の先生に診断いただき、
その後、わが子をとりあげていただきました。

ドクターこそ、何もしてあげられない辛さもあるんだ。
ということを、そのときたくさん体験させていただきました。

でも、早期に告知いただいたこと。
産む覚悟をさせていただいたこと。
私は、今でも感謝しており、今の仕事をしています。

きっと、その妊婦さんも同じことを思われることでしょう。

先生、応援しています。空はつながっていますよね!

by ぽぽん (2011-02-11 11:12) 

hiro

そういうこともあるんだと思います。

どんな命も尊いもので、この世に長く生きられなくても、同じ尊いものです。その赤ちゃんがお父さんとお母さんを選んできてくれたこと、先生を選んできてくれた事が本当に大事な巡り合わせだったと思います。
by hiro (2011-02-11 14:51) 

haru

FULLさん、コメントありがとうございます。
励ましの言葉をありがとうございます。
主治医として、この手で責任を持って取り上げることができたのは、
ボクにとっての救いであったのかもしれません。

by haru (2011-02-12 18:06) 

haru

HANAさん、コメントありがとうございます。
つらい気持ちの患者さんを励まそうと思ったとき、
どんな顔をして、どんな言葉をかけたらいいのか、
じつはボクはよくわかりません。
ただ、患者さんの目を見て話すように心がけています。

by haru (2011-02-12 18:14) 

haru

あきこさん、コメントありがとうございます。
すべての患者さんには、それぞれいろんな事情があり、それぞれいろんな悩みをかかえて病院に来られます。
こころない一言がそのひとの医療に対する信頼を損なうことがあり、
そのために治るものも治せるチャンスを失ってしまうこともあります。
いつも、気をつけないといけない、と思っています。
ただ、たった一言の、ふさわしくない言葉で信頼関係がだめになるような医療は、きっと最初からたいしたことはないのかもしれません。
(うまくいえませんが)

by haru (2011-02-12 18:24) 

haru

ニケさん、コメントありがとうございます。
実はいつも、「妊婦健診はあらさがしのようなもの」、と言っていました。妊娠の異常を早期に発見して無事にお産をする、という目的です。
ただ、今回のような場合は、その目的と違ったので、悲しかったのです。
by haru (2011-02-12 18:41) 

ともたま

全身全霊で接してくれる先生。
この世で生きることのできなかった赤ちゃん、そしてママとパパは先生に出会えて本当に良かった。

御夫婦は先生の気持ちが力になっていると思います。

僕は、あのときの先生の御対応があったから頑張れています。
妻の身体の心配をしてくれたこと。僕達夫婦へのいたわりの言葉、そして芽生をすっごく褒めてくれたこと。
本当に力になっています。

haru先生、先生に出会えたみんなが感謝しています。

今のままの先生でいてください。
勝手なこと言って申し訳ありません。
by ともたま (2011-02-12 20:03) 

haru

ちばおハムさん、コメントありがとうございます。
どうしても力が及ばないとき、医療者としての自分が一番大切にしているものはいったい何だろう?と考えます。
悲しい心を言葉で癒すことしかないとしたら、それは医療者ではなくてもできることであって、ただのごまかしではないか、とも考えました。
by haru (2011-02-13 16:04) 

haru

ともたまさん、コメントありがとうございます。
医療者として力が及ばない領域があるのはわかっています。
ボクの言葉のひとつひとつで、すこしでも力になることができるとしたら、その言葉も、医療者にとっては大切な癒しの手段となるのでしょう。
ただ、この小さな命が、人間の力が及ばない異常があるがゆえに、「諦めなければならない」存在となったことが辛かったのです。
「命をけっして諦めない」ことをなによりも支えに頑張ってきたからです。
by haru (2011-02-13 16:14) 

haru

ぽぽんさん、コメントありがとうございます。
自分が関係している領域だけに、辛さを表にだせなかったのではないでしょうか?
患者さんが辛い気持ちを我慢せずに、正面から受け止めてあげられる存在でいたいと思います。
空はつながっている・・・いい言葉ですね。
ありがとうございます。
by haru (2011-02-13 16:22) 

haru

hiroさん、コメントありがとうございます。
赤ちゃんはちゃんと自分のお母さんやお父さんを選んで生まれてくる、と、ボクはいつも感じています。
そして、すべての命には必ず大きくて深い意味がある、と。
この赤ちゃんが、ボクを主治医に選んで産まれてきてくれたかどうかは、ボクには解りません。
しかし、ボクは、この小さな命について、その意味を考え、ボクに教えてくれたものを忘れてはいけないのでしょう。
by haru (2011-02-13 16:30) 

みーのー

初めまして。妊娠中に先生のブログを検索で見つけてから、
携帯やパソコンで時々読ませていただいてます。
私は予定日を過ぎた妊婦です。過ぎたと言っても数日なので
想定内ですが。
35歳で初めての妊娠、いろいろと不安なことも
たくさんありました。体重管理にも失敗、ものすごく増えてしまい
切迫の安静が解除された後、歩いて運動しても手足がむくみ
お腹が張るばかりでお産の兆候は見られず…。
もうすぐ会える、そう信じて体調を整えています。

先生の記事は、時にとても考えさせられ、励みにもなります。
お忙しい激務だと思いますが、お体に気をつけて、これからも
更新し続けてください。応援しています。

by みーのー (2011-02-14 17:42) 

Mari

記事を読んで涙が出そうになりました(T_T)
妊娠して1日1日一緒に過ごして今か今かと待っている時に悲しすぎますね
毎日時間が過ぎているけど生きるということは大変なことなんだと改めて感じました…

と同時にharuさんのようなお医者様がいることに心強さを感じました
by Mari (2011-02-16 12:36) 

haru

みーのーさん、コメントありがとうございました。
無事にお産は終わりましたでしょうか?
新しい命の誕生には、語りつくせない心配や苦労があるのでしょう。
それでも、それ以上に「よかった。」と思えるものでもあると思います。
まだ生まれてなければ、「頑張って!」
もう生まれていれば、「お疲れ様です。おめでとう。」
by haru (2011-02-19 21:53) 

haru

Mariさん、コメントありがとうございます。
すべての命は、つねに等しく、尊いものであると信じています。
その命に、正面から向かい合うことは、時として、
厳しくてつらいこともあります。
ただ、どんなにしんどい気持ちになっても、
自分より、このご本人のほうがしんどくてつらいのです。
それを思うと、頑張るしかないのでしょう。
by haru (2011-02-19 22:03) 

ちばおハム

ほんとですね。
一番大切にしていること、ってなんでしょうか・・・
仕事をプロとしてやっていく、って責任が重いですね。
わたしも仕事していくとき、折りあるごとに考えさせられます。
haruさんはやっぱりすごい人です。
by ちばおハム (2011-02-26 15:05) 

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