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まともな産婦人科医 [産婦人科医]

ボクが外来で担当していた双子の妊婦さんが、2週間ほど前に実家の大阪に里帰りされました。
妊娠30週に入ってまもなく、紹介状を渡しました。

 「これまでは順調でした。 頑張ってくださいね。」
「実際の里帰りはもう少しあとですが、それまで(京都にいる間)なにかあったらよろしくお願いします。」
 「わかりました。」

普通は、34週くらいに里帰りするのですが、双子ちゃんの場合には少し早めにするのが一般的です。
妊娠後半になって、切迫早産や破水などトラブルがあり入院してしまうと、結果的に里帰りできないこともあるからです。
ただ、この方の実家は車で1、2時間程度。
まずは、医療機関のみ?早めの里帰りでした。

この方から、先日、ボクが当直の夜に電話がかかってきました。
2時間前から動けないほどの腹痛があり、どうしたらいいですか?と。
ただの切迫早産とは違う印象です。

 「里帰りしたんじゃなかったですか?」
「まだ、今日は京都にいます。」
 「じゃ、すぐに診察します。 来て下さい。」

そして、その電話の後、5分ほどして、この方が今かかっている大阪の病院の産婦人科のドクターから電話がかかってきました。

「痛みの感じを電話で聞く限り、胎盤早期剥離かもしれないと思いました。 よろしくお願いします。」

落ち着いた感じの女医さんの声でした。

 「はい。 ボクもそう思いまして、すぐにこっちに向かってもらっています。」

「すいません。」

 「いえいえ、大丈夫ですよ。」

20分ほどして病院に到着されました。
診察をしたら、胎盤は何とか大丈夫な様子です。
でも、痛みの場所は胎盤と一致しています。完全に否定できません。
そして、赤ちゃんの頭がずいぶん下がっていて、すこし子宮口も開いてきています。

切迫早産はあるので、まずは入院して様子を見ることにしました。

さっき電話をくれた大阪のドクターに連絡をしました。
心配で眠れなかったら悪いなと思ったからです。

 「胎盤は大丈夫みたいですね。どんどん痛みが強くなっている様子もなさそうだし、一晩様子を見ます。」
「よかったです。ありがとうございました。」
 「ただ、(胎児の)頭がかなり下がっていて、ウテメリン(子宮収縮抑制剤)始めました。」
 「で、もし、お産になりそうだったら、何とかそちらでいけますか?」

この方はまだ妊娠32週で、赤ちゃんも小さいので、病院によってはお産になるとNICUのある病院を他に探さないといけないかもしれないのです。

「大丈夫です。」

 「うちはNICUがありますから、平気ですけど。」

もし、大阪で病院が変わるくらいなら、うちでギリギリまで治療して、その後、安全に里帰りするのもありです。
そのほうが患者さんにとっても安心ではないかと思うのです。

「いえ、うちにもNICUがありますから。」

 「そうですか。わかりました。じゃ、タイミングを見て、早めに里帰りしてもらいますね。」

十分な小児科のサポートがあるからこそできる産科の治療があります。
ボクも、尊敬する小児科の先生がいてくれるからこそ、頑張れるのです。

この大阪のドクターの落ち着きようは、そういった充実した医療のバックアップがあるからこそなのかもしれないと思いました。
そして、この双子の妊婦さん自身が、自宅と実家の近くにそれぞれ、いい医療機関を選んでいたのだということにも気づかされました。

ただ、夜中にお腹が痛いというだけで、きっちり電話をして、患者さんのために頭を下げてくれる。
そういうまともなドクターは、じつはなかなかいないものです。
当たり前なのですが、なかなかできません。

子宮の中で元気に動いている、この二人の赤ちゃんは、思慮深い母親と、「まともな」産婦人科医、そして、いつでも助けてくれる小児科医、たくさんの人々に守られているな、としみじみ感じました。




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みっくんママ

読んでいて、ドキドキしましたが、
連携が良くないと出来ない事なのかもしれませんね。

先日、娘が学校で頭部を怪我した時があり、
その時の養護教諭の対応にもの凄く不信感を抱いた事がありまして。
養護教諭がいないのと同じじゃないのかと思った程。

当初見た娘の様子にかなり心配しましたが、
(学校で嘔吐2回意識朦朧。寝ている時もありました)
幸いCTに異常なく気が抜けた思いをしました^^;
まだ完全に学校との話し合い終わっていませんが、
近々確認しに行ってきます。


by みっくんママ (2009-09-19 13:49) 

ちばおハム

双子ちゃんってうらやましいんですよ。
この年で出産できる回数も限られていたので・・・
でもharuさんのブログでいろいろなリスクも紹介していただいて、ほんとに無事に生まれてくることの難しさを感じました。
この双子ちゃんもしっかりお母さんの中で大きく育ってほしいですね。
by ちばおハム (2009-09-19 15:08) 

りょお

病院選びも、無事にお産するためには必要なスキルなんですよね。
私の帝王切開は、緊急の帝王切開のママさんに割り込まれて、
午前の予定が午後になってしまったのですが、
そのママさんの話を聞いた時に、同じように思いました。
そのママさんは、赤ちゃんが予定よりちょっと小さめで、出産予定の助産院に、
「何かあったときに、ウチじゃ子供を助けられない」
と言われ、慌てて別の病院を探したんだけど断られ続け、
自宅で出血しちゃって緊急帝王切開になる1週間前に
やっと受け入れ先が見つかったそうです。
もし、その助産院で、はっきりと申告されてなかったら、
もし、ママさんが他の病院を探してなかったら、
もし、その病院も受け入れてくれてなかったら、
もし、私の帝王切開がすでに始まってしまっていたら、
母子ともに助からなかったかも知れません。
本当に、よかったなぁ、と思います。
by りょお (2009-09-19 23:41) 

大阪のオバチャン

忙しさの中でもきちんと時間を作り、丁寧な対応をされるとは見上げたお医者さまですね。
仕事中、忙しいとつい言葉に荒さが出てしまう私にはとても耳に痛いお話です。
我が身を振り返り大反省しております。

by 大阪のオバチャン (2009-09-21 22:56) 

haru

みっくんママさん、コメントありがとうございます。
養護教諭の先生は大変だと思います。
たくさんの子供たちが、多分、想像を超える様々なことでやってくるだろうから。自分だけでは手に負えないことが多いと思います。
それゆえに連携が大切なのでしょうね。
by haru (2009-09-25 07:00) 

haru

ちばおハムさん、コメントありがとうございます。
すでに何回も書いてますが、双子ちゃんはハイリスク妊娠です。
年齢に余裕がないから、まとめて産んじゃうなんていう考えは間違っています。
しかし、実際にはそういって「双子を産まないとダメなんです」と外来に相談に訪れる方はおられます。

by haru (2009-09-25 07:04) 

haru

りょおさん、コメントありがとうございます。
自分がハイリスク妊娠であるかどうか、自己判断するシステムがあります。
そのシステムを使用することで、自分が助産院で生んでもいいのか、病院に行ったほうがいいのか、まず自分で判断するのです。
自己判断することで、ドクターが説明するより、自意識が高まり、安全だということです。
りょおさんがいうスキルというのは大切ですね。
by haru (2009-09-25 07:16) 

haru

大阪のオバチャンさん、コメントありがとうございます。
ドクターである前に社会人として、最低限の常識なのかもしれません。
しかし、忙しいとかいろいろな言い訳をならべてサボっているだけなのでしょう。
人の命を預かるという仕事であればなおさらでしょうね。
もちろん、ほかにもまともな産婦人科医はたくさんいます。
ボクは知っています。
by haru (2009-09-25 07:22) 

emirin

はじめまして、いつも楽しく読ませていただいてます。
私は明日から28週に入るところなんですが、先生が以前書かれていた、生まれてくる赤ちゃんに対して誠実でいて欲しいという言葉を日々忘れないようにしたいと思っています。
2人の赤ちゃん、一日でも長くお母さんのお腹にいれますように・・。
by emirin (2009-10-02 15:43) 

haru

emirinさん、コメントありがとうございます。
お腹の赤ちゃんはお母さんしか頼る人がいないんですね。
赤ちゃんとお母さんの信頼関係は、赤ちゃんが子宮の中にやってきた瞬間に始まるのです。
あと少しの間くれぐれも無理されないようにしてくださいね。
ちなみに、この双子のお母さん、2週間たった今でも、ちょくちょく病院にお電話くださりいろいろ質問されます。カラダも病院も大阪に里帰りしているのに、心はまだ京都のようです。
by haru (2009-10-04 07:19) 

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