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母体が優先やろ? [産婦人科医]

入院中の患者さんの診察は、病棟の処置室で行います。
病室からひとりずつ順番に声をかけていくのですが、
これかけっこう時間がかかるのです。

手際よくしているつもりでも、患者さんがトイレから出てくるのに時間がかかったり、
移動に車椅子が必要だったり、
産後の方は授乳中だったり・・・。
3人診察するのに30分以上かかることもあります。

その合間合間に、詰所に戻って、カルテを書き、超音波の写真をカルテに貼り、処方を入力します。
ある意味、患者さんの移動や出入りにかかる時間があるからこそ、できる作業でもあります。

診察中は、詰所から出てしばらくいなかったかと思うと、帰ってくるなり、手に持った超音波の写真をチョキチョキとハサミで切り、糊でペタペタ貼り、カルテに診察所見をササッと書き込み、それが終わるか終わらないうちに、また詰所から飛び出して、診察室に走っていくのです。

ただし、それを知らない人が、ボクら産婦人科医を見ていたら、診察室でしているとはわからないので、トイレにでも行っているのかな?くらいにしか見えないかもしれません。

外来ではない、産婦人科医の病棟での診察風景でもあります。

先日もそうやって、朝のあわただしい診察があって、ちょうど終わって診察室から出てきたとき、
院長先生が腕組みをして、詰所に立っておられました。
なんか、待ち伏せされてた、ってカンジ・・・。

うちの院長は、背が高くて、声が大きくて、なかなか個性的なセンセイです。

 「あっ、おはようございます。」
本来は、毎朝行われる病院の朝礼に出席していると、おはようございますはこの詰所では言わなくてもいいのかもしれません。
でも、朝の病棟の診察時間がちょうどこの朝礼にぶつかるので、どうしても診察を優先するしかありません。

「母体が優先やろ?」

 (「なんですか、いきなり・・」) 「は、はい、もちろんです・・・。」

それ以上の応えに困っていると、
院長先生は話を続けてくれました。

肺炎を起こしている患者さんが外来に来て、薬を処方しようとすると、「授乳中だから薬は飲まない。」と治療を拒否されたそうです。

たしかに、授乳中の赤ちゃんに影響のない薬もあるので、ボクら産婦人科では、つねにそういう情報を集めて、お母さんたちに不安がないように考えています。

 「授乳中の患者さんにはよくある質問ですね。 妊娠中だともっと多いですね。」

「それはわかる。 そやけど、母体が元気にならんと、子育てどころとちゃうやろ?」
「なによりも、母体が優先である、ということを、全ての妊婦になるべく早い時期から教育する必要がある。 母親教室で教育しといてくれ。」

最近、院長の最愛の娘さんにお孫さんが生まれたことをボクは知っていました。
いろいろ心配されていたことは聞いていました。
これは、きっと院長の親心(じいちゃん心?)なのだと思いました。

とかく、産婦人科では赤ちゃん(胎児)を最優先し、それが当たり前のように、妊婦さんにしんどい治療を長期間頑張ってもらっているのも確かです。
産婦人科医の独特の診療パターン、診療内容、考え方が、本来の医師としての姿勢とは違ったものにしているのかもしれません。

赤ちゃんもお母さんも大切。
しかし、それ以上に、病を治し、患者を癒すのが医師の務めです。
母体が優先という言葉は、ある意味、産婦人科診療の原点なのかもしれません。

教育しておかないといけないのは、母親教室だけではなくて、産婦人科医もかもしれません。

院長先生のひとことが、妙に沁みました。

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ひまわりママ

母体優先。  ごもっともですね。
でも、母親としては母乳をあげたい気持ちや、今まで混合でなかったとしたら、人工乳を飲んでくれるかな?哺乳瓶になれてないからゴムの乳首を嫌がって飲まないんじゃないかな?母乳がとまってしまわないかな?など・・
いろいろ考えてしまう気持ちもわかります。

私の2人目の子が、ゴムの乳首を嫌がるタイプだったので・・・
あと、お薬が終わったら母乳が再開できるのか、とかも気になるところです。

母体を優先にすることへの理解は勿論大切です。
じゃあ、いざ治療を始めるときの母親の不安や、授乳についての思い、今後の授乳方法など、産婦人科医の先生や助産師さんに相談できるようなシステムがあれば安心ですよね(^-^)
でも、ただでさえ忙しい業務なのに、やっぱり難しいですよね。

暑さ!忙しさ!にお体こわされないで下さいね。

by ひまわりママ (2009-08-12 20:11) 

りょお

難しい問題ですよね~。
授乳中だから、薬を拒否するお母さんの気持ち、私もよくわかります。
特に、うちも哺乳瓶拒否で完全母乳なので・・・。
でも、お母さんが元気でなければ、子育てがままならないのもよくわかります。
どちらを優先させるかは、そのときの患者さんの症状(重症・軽症)や、
周りの環境(他に面倒を見てくれる人がいる、とか)によるのでしょうが、
その辺をしっかりお医者さんと話ができて、臨機応変に対応してくださると、
患者としては助かるかな、と思います。
ワガママなことは、わかってるんですけどね(苦笑)
by りょお (2009-08-13 23:20) 

haru

ひまわりママさん、コメントありがとうございます。
気のきいた内科の先生などは、夜中でも、ボクら産婦人科に連絡し、相談してくれます。
産婦人科としても、気楽に相談できるよう心がけていますね。
by haru (2009-08-20 10:59) 

haru

りょおさん、コメントありがとうございます。
要は、母体優先で行かなきゃいけないくらい母体が危ないのか、胎児や授乳を最優先でできる程度なのか、ということです。
医者のほうも患者さんのほうも、この辺の切り替えが大切だと思います。
状況に合わせて切り替えられるのが大切ですね。
by haru (2009-08-20 11:02) 

大阪のオバチャン

こんにちは。

haru さんも院長先生も素敵なお医者様だなと思いました。^^
こんな先生方なら不安な事でも気軽に聞きやすいなとも。

居丈高で患者に対して感じの悪い医師もちらほら見える中、
こんな考え方のお医者様が居るんだなあと温かい気持ちになれました。



by 大阪のオバチャン (2009-08-20 18:27) 

haru

大阪のオバチャンさん、コメントありがとうございます。
感じの悪い医者の多くは、自分に自信がないことがほとんどだと思います。
ちなみに、声の大きい人に絶対悪い人はいません。
ボクの経験からですが、うちの院長もその中の一人だと思います。
by haru (2009-08-21 08:53) 

ゆうき

 風邪じゃなくて「肺炎」の患者さんですよね。肺炎はこじれると生命に関わるので、医療の必要性>>授乳です。院長先生は、母体あっての授乳・子育てだと説明なさったと思いますが、受け容れられないのですね。「母体優先か、乳児優先か」とは、少し違うように思います。
 「胎児最優先」といわれますが、先日「41週過ぎても本人の意志で助産院」の話題もありましたね。胎児・母体のリスクよりも「妊産婦の気持ち最優先」、医療の本質よりも顧客満足が要求される風潮はあぶないと思います。患者の意思の尊重は重要ですが、無知や偏った情報による思い込みも少なくないので。

 連日新型インフルエンザの報道をみますが、妊婦は重症化リスクが高く、米国では妊婦が亡くなっています。感染した妊産婦には薬剤投与が必要になりますが、インフルエンザの治療は、内科、感染症外来などで受けることになります。母親学級などで、「インフルエンザにかかった場合の対処法」について、具体的な情報を提供されることが重要と思います。

by ゆうき (2009-08-23 07:15) 

のん

はじめましてこんにちゎ。

私は丁度今、生後1ヶ月の息子に母乳をあげてぃます。

自分が口にしたものが、赤ちゃんに影響すると思うと、何かと神経質になっちゃいます。

実ゎ今、利き手の右手首が腱鞘炎になってぃて、赤ちゃんを抱っこするのが大変です。

病院から湿布をもらぃましたが、嗅覚が敏感な赤ちゃんがにゎ、臭いがキツイかもしれないと思うと、湿布が貼れません…

やっぱり、自分は多少無理をしても赤ちゃんを一番に考えてしまうものなんでしょうね。

でも、肺炎になったらさすがに私なら薬を飲みますが☆

先生のブログ、深くて面白いデス(^o^)

私も臨月に入ってから、プレママデビューのブログを始めました。

出産を機に、自分が変わっていくのが、記録できて楽しいです♪

人生で一番の幸福を味わってぃます!もう次の子が欲しいです☆
by のん (2009-08-24 01:05) 

muracchi

こんばんは、haru先生。
切迫早産で入院2日目、39℃の熱が出たことを思い出しました。
薬を処方されると主治医の先生に言われた時、
「赤ちゃん達には大丈夫なんですか?」と聞きました。
ちゃんと説明をうけて、点滴もしてもらって1日で熱が引きました。
今から考えると、入院予定日より1ヶ月も早かった為、
知恵熱が出たのではないかと・・・
先生に色々と説明してもらえるのが、患者としては大変ありがたいです。
情報収集されている先生には、頭が下がります。
お体、大事にしてくださいね。
by muracchi (2009-08-24 21:17) 

haru

ゆうきさん、コメントありがとうございます。
ボクがこのブログで伝えたいことを総括していただいたようで、感謝します。
うちの院長が伝えたかったのも、

母体の生命 ≧あるいは≒ 児の生命 ≫ 授乳

という優先順位だったのでしょう。
by haru (2009-08-28 05:24) 

haru

のんさん、コメントありがとうございます。
今はまだまだ小さい赤ちゃんですが、毎日少しずつ大きくなっていきますよね。
今は腱鞘炎で痛む腕も、少しずつ慣れて、いずれもっともっと重たくなった我が子でもらくらく抱けるようになります。
子供が生まれてすぐ歩けないように、親もいきなり大きな子供をうまく抱っこできません。
子供を一緒に、「親」として成長するんですね。
頑張ってください。
by haru (2009-08-28 05:31) 

haru

muracchiさん、コメントありがとうございます。
よほどの難病でない限り、ボクたち産婦人科医は胎児に悪影響を及ぼす薬は使いません。
使わざるを得ない場合は説明と同意が必要です。
患者さんの命は何よりも大切ですが、何かあったときに責任を問われるのは医師です。
そういった責任感の中で医療は行われています。

by haru (2009-08-28 05:39) 

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