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向き合うことと寄り添うこと [産婦人科医]

患者さんや産婦さんと接していると、その接し方には二通りあると思います。

ひとつは、向き合うこと。

もう一つは、寄り添うこと。

痛みや不安をもった患者さんには、医師として向き合い、その苦しみを受け止めなければなりません。
正面から受け止めることで、その苦しみがどんなものかを冷静に判断し、対処=治療へと進んでいきます。

受け止めてもらえることで、患者さんは安心し、治療に向かうことができるのです。

ただ、受け止めることで、医師が疲れてしまうこともあります。
本来はそれこそが医師の役目だとは思うのですが、昨今の医療を取り巻く厳しい環境が疲れさせてしまうのです。
若いドクターたちが、挫折することがあったとしたら、多くはこれが原因ではないと考えます。

「受け止めることにツカレタ・・・」と。

そして、寄り添うことも大切です。

患者さんの痛みや不安を、そばにいて、ともに共感することで患者さんは頑張って治療に向かうことができるのでしょう。
多くのナースは、患者さんと接するとき、「向き合う」というよりは、「寄り添う」ポジションを取ります。
痛みを訴える患者さんがおられたら、患者さんに寄り添って、ドクターに向かってこう言います。

「先生、痛がっておられます。」と。


産婦人科医は、患者さんや産婦さんと接するとき、向き合ったり、寄り添ったりしています。

たとえば、妊娠の経過の中で、さまざまな不安があるとします。
その場合、その原因は何か、そのためにはどうしたらよいのか、
薬を使うのか、あるいは、その人の日常生活を変えることが最良なのか・・・。
お腹の赤ちゃんだけでなく、家族のことまで、向き合って、その不安を受け止めます。

不安が解決に向かい始めると、今度は、寄り添うのです。
寄り添って、見守るのです。
見守ることが、いわゆる「治療」となる瞬間です。

その瞬間に患者さんとの位置関係が変わるようです。

実は、お産のときも、産婦人科医がくるくると位置関係を変えます。

陣痛が来て分娩が始まると、産婦さんと向き合うのは助産師です。
陣痛を判断し、内診しながら、分娩の進行を見守ります。
見守る、というと寄り添うように思えますが、助産師は、産婦さんの陣痛とお産の不安を受け止めています。
そして、分娩の進行が正常である限り、産婦人科医は、産婦さんに寄り添うことしかしません。
基本的に向き合う必要がないからです。

ただ、産婦人科医が分娩室にいるだけで、安心できる言ってくれる方は多いです。
そういう意味では、不安を取り除く効果はあるのでしょう。

そして、分娩の進行に「異常」を見出した時は、それに対して迅速に対応しなければなりません。
赤ちゃんが生まれた直後の診察や、胎盤が出たあとの診察・処置も手際よくしなければなりません。

安全でスムーズに進行したお産ほど、産婦人科医の出番はなくなっていきます。
出番がないほど、いいお産なのです。

その瞬間、瞬間に、向き合ったり寄り添ったりすることが、患者さんとの位置関係・距離感を保つことために必要です。

簡単に書きましたが、実はこれは本当に難しいことなのです。
最近、そう思うことが多いです。

診療の技術をあげるばかりでなく、これをうまくできるようになることも、
医師として、産婦人科医として、大切な修行だと思います。




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りょお

どんなお仕事でもそうだとは思いますが、
医師という職業は特に人格も求められる職業ですよね。
いくら技術があったとしても、患者さんとの人間関係がうまく築けないと、
治療も診察もうまくいかないのでしょうね。
いろんなタイプの人がいるし、時と場合もあるし、本当に難しいことと思います。
特に、今の世の中、自分の常識では考えられないような方も多いでしょうし・・・。
haru先生、毎日お疲れ様です。
by りょお (2009-05-08 19:19) 

まいけりゅう

はじめまして、haru先生。
以下長すぎるコメントで、ごめんなさい。


私は不妊治療から、1流産・1安産をへて、
つい先日「子宮外妊娠」を経験したものです。

二人目を希望して自然に授かったものの、
赤ちゃんの存在に気づいたや否や、
「切除しなければならない」とわかり
喜びも感謝の気持ちもわかないまま

新たな命と離ればなれになりました。

迅速な緊急手術のおかげで一命をとりとめ
経過は順調でしたが、事後から精神的に落ち込み

今は、執刀した先生のすすめてくださった
メンタルクリニックに通って
抗うつ剤を処方していただいています。

第一子の出産時からお世話になっている、
産婦人科の先生に、助けていただき
今もなお、心の支えとなっています。
まさに、「受け止めて、寄り添って」くれた先生でした。

産科医の方、大変なんですね。
緊急手術に伴って、検査や手術室・ベッドの手配など
患者からは見えないところで
スタッフの方々が尽力してくださったことに
本当に敬意を感じます。

私の人生のなかに、
あの先生と、助産師さん、他スタッフの方々が
とても大きな存在として残っています。

今、私にできる「お礼」は何なんだろう、と
考え込むことがあります。
次回の診療は、6月。
まだ、生理はきません。
心にポッカリと穴が開いたようで
ボーッとしてしまうこともしばしば。

それでも、長女の成長が
本当に嬉しく生き甲斐を感じます。
徒然なく書きましたが、産科婦人科の方々を
心より応援しております。

by まいけりゅう (2009-05-09 15:38) 

うそっきー

はじめまして、haruセンセイの記事、最初から全部、こっそり読んでいました。
私は 不妊治療をしながら妊娠を待つ主婦です~。
センセイのブログを拝見させていただくと、このままセンセイには
がんばっていただきたいな~と、思います。元気をもらえます。

患者の私自身の経験としては、医療者には 寄り添っていただくことは
求めていません、それは 自分自身で解決する問題だと思いますし
家族もいてくれますし。
しかし、ふとした拍子にセンセイから 心情に対する理解の言葉をもえらうと 泣けてしまうほど嬉しく感じることも事実です。
そして、私が医療者の端くれとして(歯科衛生士なのですが)常々感じることはやはり、寄り添う大切さ、です。
多くの患者さんは それを求めていると やはり感じるからです。
看護士や 衛生士の寄り添い、では埋めきれない寄り添い、をドクターがうめてくれる・・・そんなゆとりのある診療ができるといいのにと、感じます。

センセイ、ファイト♪

by うそっきー (2009-05-12 11:14) 

haru

りょおさん、コメントありがとうございます。
お返事が遅くなりました。
産婦人科医として働くということは、病気でないこと(正常なお産の進行)を見守ることと、病気を瞬時に見つけ出して対処するということを同時にしなければならないということです。
医師として分娩室に立ち会う限り、産婦さんは安心してもらえると思います。でも、それ以外、することがないのです。
人格的に問題ないなら、ホント苦労しないのですが・・・。

by haru (2009-05-19 13:20) 

haru

まいけりゅうさん、はじめまして。
お返事がさらに遅くなりました。
つらいお産、流産や死産は、まさにボクらが向き合ったり、寄り添ったりしながら、患者さんが乗り越えていくのを見守る、微妙な状況でしょう。
「お礼」してもらえるのなら、それは、一日でも早く、元気になって、前に進んでくれることでしょうね。
無理しないで、少しずつでいいですから。
by haru (2009-05-22 01:46) 

haru

うそっきーさん、はじめまして。
お返事がさらに遅くなりました。
たしかに、治療したり、見守ったりするとき、様々な状況の中で、医療者と患者さんの距離感に苦労する瞬間があります。
「ここから先は、ご家族の仕事かな?」とか。
向き合いや寄り添いは、その距離感だけでなくて、位置関係、つまり座標軸的な考えなのですね。
うまく表現できませんが・・。
by haru (2009-05-22 01:55) 

うそっきー

センセイ・・・位置関係、座標軸、そうですね・・・
座標軸的に整理して考えると スッキリ見えてくるかも知れませんね!


by うそっきー (2009-05-23 21:38) 

haru

うそっきーさん、コメントありがとうございます。
座標軸的に(そういう言葉があるとしたら)考えてみると、いろんな患者さんとの関係に、距離感だけでなくて、どっちに向かっているかという「ベクトル」が見えてくるのかもしれません。
そのベクトルは、患者さんに向かっているだけではなくて、患者さんと同じ向きなのかもしれません。
by haru (2009-05-23 21:58) 

いのうえ

最新の投稿からここまで読ませていただきました。
本当に読みやすい文書で、自分がその場にいるように感じます。
これからも頑張ってください。

良かったら、これから質問に答えていただけると幸いです。
by いのうえ (2013-04-29 02:14) 

haru

いのうえさん、コメントありがとうございます。
産婦人科の苦労や想いを、日々の患者さんとの出来事の中で伝えていくことが目的のブログです。
その中で言葉が足りないことや自分自身の未熟さから、たくさんのコメントいただきます。そのコメントに答えることで、自分の足りない部分を補おうとしています。
単なるQ&A的なご質問にはお答えしません。ご理解お願いします。

by haru (2013-05-06 17:08) 

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