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助産院で産む、ってどんなこと? [分娩]

ある一人の妊婦さんがボクの外来に回ってきました。
1週間前、すでにボクが外来当番でない日に一度受診されており、検査結果を聞きに来られました。

診断名は、「不整脈」でした。

4人目の妊娠で、これまでの3人は紹介元の助産院で自然分娩されています。
今回も当然、助産院で分娩予定だったのですが、頻発する不整脈がみつかり、うちの病院に紹介されてきたのです。

脈を触診すると、話している間にもかなりの回数で脈がとんでいます。
うちの病院の循環器内科のドクターがホルター心電図を装着し、心エコーなどもすべて検査をしてくれていました。

「心臓の機能は異常はありませんが、24時間で37000回の期外収縮があり、分娩時には循環器内科医のモニター下で慎重に分娩する必要があります。」という結果でした。
つまり、1分間で単純計算で25回の不整脈があるわけです。

残念ながら、うちの病院には24時間体制の循環器内科医やHCU(心臓の集中治療室)はありません。
大学病院などの大きな病院での分娩が望ましいと判断しました。

妊婦さんにそのことを説明すると、
「えー! 今までのお産、なんともなかったんですよ。 〇〇先生はなんておっしゃってるんですか?」
助産院の助産師さんに聞いてほしいと訴えます。
 「うちの病院でも、危険だと考えます。 助産院は残念ながら、無理だと思いますよ。」
「納得いきません。」
 「上のお子さん、3人のためにも、お腹の赤ちゃんのためにも、あなたが安全にお産をするということがどんなに大切か、考えましょうね。 ここは、今までと切り替えて、がんばりましょう。」
「大学病院なんて無理です。 分娩台が嫌なんです。」
 「今の大学病院の病棟医長の先生は、ボクもよく知ってる、いい先生です。 ボクから彼にお願いしてみます。 お産の時に、モニターを付けるだろうから、そこの分娩室で産むことになると思いますが、フリースタイルのお産ならできると思いますよ。」

助産院の先生は、当然無理ですねと、あとの紹介はボクに任せるとのことでした。
うちの紹介した時点で、無理だと判断されていたようです。
妊婦さんにもその旨を伝えました。

そして、すぐに、ボクは、病棟医長の彼にメールを書き、すぐに返事をもらいました。

「フリースタイル、できる限り、希望に添えるようにやってみます。 分娩台の上ですが、ベッドのままで(足を上げないで)何とかしてみます。 」

彼自身、昔、自分の子供を畳の上でお産して立ち会ったのを知っていたので、予想通りの答えでした。
実に、クールで情熱的な彼の態度に久しぶりにシビレました。
 「これで安心や。」

そして、数日後、助産院から電話がありました。
「先日の方ですが、やはり、大学病院の分娩室がどうしても嫌だと言って、他の病院に行くそうです。 その病院なら、分娩室ではなくて、LDRがあるんだそうです。 そこで産みたいって。 いいでしょうか?」

 「・・・・。」

たしかに、その病院は十分なHCUもあるし、大丈夫でしょう。
うちの病院より、ずっと安心です。
でも、手術室みたいな、味気ない「分娩室」と、ちょっと家庭的なイメージのあるかもしれない「LDR」と、
その人がする、自分らしいお産に、どれだけの影響があるというのでしょうか?

それより、助産院で産みたかったけど産めなかった妊婦さんの気持ちを一番に考えて、一緒にいいお産をしてみようという、産科医としても一流の、最高のドクターのもとで、「安全」で、「自分らしい」、「いいお産」はできないのでしょうか?

来院するたびに違うドクターの外来に受診する(つまり、違う曜日の、違う時間に来る)のも、ボクたちが十分なコミュニケーションをとれなかった理由なのかもしれません。
最初から、ボクの外来にちゃんと受診していれば、紹介するまでに、もう少しはましな信頼関係ができていたかもしれないと反省しました。

それにしても、やはり、「助産院」や「せめてLDR」というカタチにこだわってしまうものなのでしょうか?

助産院で産みたいひとの全員がそうとはいわないです。
そんなことは、ボクが一番よく知っています。

このことで、クリスマスのなんだか楽しそうな雰囲気の時期に、やるせない気分になりました。

助産院で産むということの大切さをカタチではなくて、キモチで感じてください。
産婦人科医から伝えたいのはそのことです。

世界中の、すべての子供たちに、素敵なサンタがきますように!
メリー クリスマス!!








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りょお

う~ん。
私も、問題にはなりませんでしたが、不整脈がありました。
多いときで、1分間に1回くらいの割合でしたが。
私は、自分と赤ちゃんの安全を第一に考えて、
初産で大学病院を選択した人間なので、
このお母さんの気持ちは正直わかりかねます・・・。
自分が出産を経験し、お産がいかに命がけなことかを実感したので、
私は2人目を産むときも、少しでも安心してお産に臨めるよう、
大学病院を選択するつもりです。
このお母さん、今までが安産すぎたんでしょうかね~?
母子ともに無事にご出産されるよう、祈っています。
by りょお (2008-12-25 14:02) 

haru

りょおさん、コメントありがとうございます。
ボクが助産院の嘱託医をしている関係で、うちの病院には、この手の妊婦さんがぼちぼちいらっしゃいます。
説明すると、たいていは、「いやだ!」と拒絶されます。
病院でNOといわれても、助産院ではOKといってもらえるとでも思っておられるようです。本当は、助産院と相談して、助産院の代わりにボクがNOと言っているのですが。

by haru (2008-12-25 18:59) 

ぶたいく

うーん。
バースプランも結局提出しなかったけど、
やっぱり、母子とも元気な出産こそ、
一番の選択だと思います。
by ぶたいく (2008-12-26 16:29) 

ちばおハム

クリスマスまでお仕事、おつかれさまです。
お産は待ったなしですからね。
うちの親戚には1月1日産まれの子(といってももう大学生ですが)もいるので先生のお仕事、ご苦労をお察しします。

最近は助産院の出産や自宅出産がブームなのか、件数も増えているんでしょうね。情報もとても多くなりました。
とっても心配な数の不整脈なのですが、その危険なことがわからなかったのかもしれませんね。無事なお産になることを祈ります。

haruさんには年末、お正月ってないのかもしれませんが、よいお年をお迎えくださいね。
by ちばおハム (2008-12-26 21:29) 

kei☆

ずっと助産院でちゃんと産めたからという自信からでしょうか?
出産のスタイルとか自分のエゴ(?)が優先されて、
赤ちゃんのことが二の次になっているように思ってしまいました。

それにしても、haru先生が紹介された病棟医長の先生、
やさしいですね。。。

お騒がせ妊婦さんも、無事に何事もなくお産になりますように。

haru先生、今年は世間では、休みが長いお正月ですが、静かなお正月になりますように♪
by kei☆ (2008-12-27 16:40) 

haru

ぶたいくさん、コメントありがとうございます。
母子ともに、の母が健康なのは、大前提なのですが、この方は、その大前提がすこしズレているのです。
いきなり紹介状をもって外来にこられたら、向こうの先生もびっくりすると思いますが・・・。
そんな「びっくり」なんか、気にしない方なんでしょうね。
by haru (2008-12-29 18:07) 

haru

ちばおハムさん、コメントありがとうございます。
クリスマスの朝、今年も無事、息子たちにはサンタさんが来たようです。
下の息子のニヤけた顔を見て、幸せを噛みしめました。
1年間、家族が無事過ごせたなと思う瞬間です。
この妊婦さんも、こんな当たり前の幸せのために自分がすこしだけガマンできたらいいのにと思いました。
となみにボクには、パバロッティのオペラのCDが届きました。
この場合、サンタさんは佐川急便のお兄ちゃんでした。

by haru (2008-12-29 18:15) 

haru

Kei☆さん、コメントありがとうございます。
この大学病院の病棟医長は、かなりのナイスガイです。
いつも冗談ばかり言ってて、ふざけているのか、本気なのか、わからない瞬間はあり、ボクとその辺のキャラが微妙にかぶるのですが、ボク以上に優秀であることは間違いありません。それゆえに、今回の件は、残念でなりません。
忙しい外来診療の時間内でそれを伝えきることも、やはり困難です。
by haru (2008-12-29 18:21) 

のん

haruさん、こんばんわ。
身につまされる話でついつい長いコメントになってしまいました・・・

この妊婦さんは以前のわたしのようです。
前にもコメントを入れさせていただいたことがあるのですが、
昨年息子を出産後に亡くしました。
当初助産院での出産予定だったところ、
7ヶ月の頃様子がおかしいので個人病院へ行き、
そのまま大学病院へ救急車で搬送されました。

ここでの日々はカルチャーショックと言ってもいいほどでした。
今まで自分が信じていたものとは正反対の世界だったからです。
それまで読んでいた本(病院以外の<自然>なお産を書いた本)では
ウテメリン点滴に意味はない、安静が難産を産む、と書いてありました。
大学病院ではウテメリンの副作用にも苦しんでいたので
「なんてひどいことをされるのだろう」と当初は怒りしかありませんでした。
そのうち入院生活にも慣れてきて、息子に病気があることもわかり
<なんとか無事に子どもを産みたい>という願いが強くなりました。

息子が生まれてすぐNICUで治療していただいたこと、
そのおかげでわずかな時間でしたが息子と過ごせたこと、
とても感謝しています。
息子が亡くなったことについて心のケアは一切なく、傷ついたこともたくさんあるので、いろんな想いはたしかにありますが・・・

いま新しい命を授かり、だいぶ迷いましたが大学病院でのお産を考えています。少しでも命が助かる可能性のあるところを選びたいからです。
命の無事誕生は奇跡の積み重ねだと思っているので、100%がないこともわかっています。
そのうえで、いまのわたしは助産院でのお産は考えられません。
お産のひとつの方法としていい形だとは思いますが、
独特の考え方がある所には抵抗があることと、万が一のことを考えるとこわいのです。
でも<自然流>に価値観をおいているとなかなかそうは思えないのです。
わたしは息子が凝り固まった偏った価値観を突き崩してくれましたが、
もしも無事に助産院でお産をしていたら、ますます<自然流>な思想を
助長させていたでしょう。

いまのわたしにしてみたら、haruさんのようなお医者さんに出会えて、
紹介先の大学病院の医長さんのような方にひきあわせてくれるなんて、
うらやましくてたまりません!
息子を亡くした病院にまたお世話になることを考えただけで、
辛さを思い出してどうしようもなくなるのに・・・
でも母としてがんばらなくては!と思います。
もう子どもを亡くすなんて苦しい思いはしたくない。
元気に生まれて、走り回ってほしい。
それだけがわたしの願いです。


haruさんのやさしさの伝わるブログを読んでいると、
患者さんへのうらやましさと同時に、少しずつわたしの病院への気持ちも
癒されていくようです。






by のん (2008-12-29 21:15) 

haru

のんさん、コメントありがとうございます。
ボクが伝えたかったのは、のんさんのおっしゃるとおりだと思います。
のんさんが考えておられた<自然流>のお産と、われわれ産婦人科医らの誰もが認める「自然で安全なお産」との間にギャップがあったことに気づかれたのだと思います。
助産院の中でも、この考え方にはばらつきがあるようです。
「とにかく病院でやってることは全て間違いです。」と病院の全否定から助産院を選択することと、「ここまでは助産院でできます。それ以上は病院が安全です。」と、自分たちの限界を示しながらお産をプロデュースすることとの差を認識するべきなのでしょう。
「元気に生まれて、走り回ってほしい。」
のんさんと同じ願いを産婦人科医も持っています。
by haru (2008-12-30 18:28) 

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