赤ちゃんにごあいさつ [分娩]
先日お産をされた方は、妊娠38週に入ってから全身にむくみが出現したため、助産院からうちの病院に紹介されてきました。
妊娠初期から何度かうちの病院にもかかっておられるのでボクとは初対面でもなく、
「先生、結局帰ってきました。」
「うちでもいいお産できるから頑張りましょうね。」
「よろしくお願いします。」
ってカンジでした。
とりあえず、むくみの治療です。血圧は正常で、タンパク尿もでてません。
まずは安静にして、減塩食にもするか。
助産院などでお産をする方に多いのが「歩きすぎ」です。ボクは以前にもこのブログで書いたことがあります。
安静にしているだけで治ることもあるから、と説明しました。
「でも・・・、そんなに歩いてないんですけど。」
と本人。横で、ご主人もうなづいてます。
血圧上昇がない限り、まずはこれくらいで様子をみます。
そしたら、よくなるどころか、毎日毎日少しずつ体重は増えていきます。
途中から足どころか、顔までパンパンになってきました。
そろそろ、産んじゃったほうがいいかもしれませんね、と分娩誘発をほのめかしました。
「はい。 実は主人が今週末からアメリカに出張なんです。 なんとか今週中に産みたいんです。」
待ってましたとばかり。
予定日が過ぎてまもなく分娩誘発を開始しました。
しかしながら、まったく生まれる気配がありません。子宮収縮はあるのですが、子宮口も開いてこず、途中からまったく赤ちゃんが下がってこないのです。
「陣痛ってのはなかなか都合よく来ないもんですね~。」
なんていいながら、3日が過ぎました。
そして、誘発を始めて3日目の午後、ついに母体の血圧が上がり始めました。
もう十分なくらいの妊娠高血圧症です。
「もうムリはしないでおきましょうか?」
高年初産、体外受精後妊娠など帝王切開を行うのに十分な理由は他にもありました。
「よく頑張りましたけど、帝王切開がいいんじゃないですか?」
「私も、主人も、そう思ってます。」
「じゃ、準備しますね。」
と、ボクは、これから行われる手術の説明を始めました。
「先生、ひとつお願いがあるんですけど・・・。」
「なんですか?」
「陣痛じゃないのに、いきなり赤ちゃんが子宮から取り出されたら、びっくりすると思うんです。」
「はぁ?」
「それで、赤ちゃんが生まれる前に、今から生まれるんだよって、ちゃんと声をかけてあげて欲しいんです。」
「はぁ・・・。」
となりで聞いてたご主人は苦笑い、ってカンジ。
「そんなオプションは今までしたことないけど、わかりました。 やりましょう。」
手術室に入り、麻酔科の先生が麻酔をかけ、消毒をして、シーツをかけました。
さぁ、これから手術開始です。
ボクは、ゴム手袋をした両手で大きなお腹をしっかりと掴み、
「さぁ、今から先生が元気にうましたるからな! 頑張るぞ!」
そう大きな声で宣誓?し、メスを取りました。
あっけにとられたナースたちの視線を感じながら、おもむろに手術を開始しました。
そして、数分後、もちろん、赤ちゃんは無事生まれました。 元気でした。
妊娠高血圧とは直接関係がないと思いますが、臍帯がかなり短くて、それが足首に巻きついてました。
これがなかなか生まれなかった原因だったようです。
今までにも、患者さんからはいろんなリクエストがありましたが、このパターンは初めてでした。
たしかに、何の挨拶もなくて居心地のよい子宮からひっぱりだされたら、赤ちゃんの気分はよくないかもしれません。
でも、今から生まれるのをおなかの赤ちゃんに伝えるのは、医者の仕事ではないんじゃないの?なんてことも思いました。
ただ、お腹の赤ちゃんも、ひとりの人格として扱ってほしい、という気持ちの表れでしょう
聞いているのは母親でも、胎児に対するインフォームドコンセントを希望されたわけです。
ボクはそう納得することにしました。
まぁ、この人が機嫌よく、元気な赤ちゃんを産んでくれるのならこれくらいのことはお安い御用です。
それにしても、長く産婦人科医をしているといろんなことがあります。
ホント照れくさい、照れくさい。
元気な赤ちゃんが生まれて、ボクが照れくさかったくらいなら、それでもいいんです。
お母さんと赤ちゃんのためにできること、いつもそればかり考えてるんですが、
たまにはこんな変化球が飛んでくるんですね。
手術の後、照れくさがってたら、詰所で部下の先生が笑いながら、うれしそうにひとこと。
「また、ブログのネタができましたね!」
「うん、今日のことは、たぶん、さすがに、書くと思うわ・・・。」
いろんな思いを胸に、これからも、産婦人科医は頑張ります。
妊娠初期から何度かうちの病院にもかかっておられるのでボクとは初対面でもなく、
「先生、結局帰ってきました。」
「うちでもいいお産できるから頑張りましょうね。」
「よろしくお願いします。」
ってカンジでした。
とりあえず、むくみの治療です。血圧は正常で、タンパク尿もでてません。
まずは安静にして、減塩食にもするか。
助産院などでお産をする方に多いのが「歩きすぎ」です。ボクは以前にもこのブログで書いたことがあります。
安静にしているだけで治ることもあるから、と説明しました。
「でも・・・、そんなに歩いてないんですけど。」
と本人。横で、ご主人もうなづいてます。
血圧上昇がない限り、まずはこれくらいで様子をみます。
そしたら、よくなるどころか、毎日毎日少しずつ体重は増えていきます。
途中から足どころか、顔までパンパンになってきました。
そろそろ、産んじゃったほうがいいかもしれませんね、と分娩誘発をほのめかしました。
「はい。 実は主人が今週末からアメリカに出張なんです。 なんとか今週中に産みたいんです。」
待ってましたとばかり。
予定日が過ぎてまもなく分娩誘発を開始しました。
しかしながら、まったく生まれる気配がありません。子宮収縮はあるのですが、子宮口も開いてこず、途中からまったく赤ちゃんが下がってこないのです。
「陣痛ってのはなかなか都合よく来ないもんですね~。」
なんていいながら、3日が過ぎました。
そして、誘発を始めて3日目の午後、ついに母体の血圧が上がり始めました。
もう十分なくらいの妊娠高血圧症です。
「もうムリはしないでおきましょうか?」
高年初産、体外受精後妊娠など帝王切開を行うのに十分な理由は他にもありました。
「よく頑張りましたけど、帝王切開がいいんじゃないですか?」
「私も、主人も、そう思ってます。」
「じゃ、準備しますね。」
と、ボクは、これから行われる手術の説明を始めました。
「先生、ひとつお願いがあるんですけど・・・。」
「なんですか?」
「陣痛じゃないのに、いきなり赤ちゃんが子宮から取り出されたら、びっくりすると思うんです。」
「はぁ?」
「それで、赤ちゃんが生まれる前に、今から生まれるんだよって、ちゃんと声をかけてあげて欲しいんです。」
「はぁ・・・。」
となりで聞いてたご主人は苦笑い、ってカンジ。
「そんなオプションは今までしたことないけど、わかりました。 やりましょう。」
手術室に入り、麻酔科の先生が麻酔をかけ、消毒をして、シーツをかけました。
さぁ、これから手術開始です。
ボクは、ゴム手袋をした両手で大きなお腹をしっかりと掴み、
「さぁ、今から先生が元気にうましたるからな! 頑張るぞ!」
そう大きな声で宣誓?し、メスを取りました。
あっけにとられたナースたちの視線を感じながら、おもむろに手術を開始しました。
そして、数分後、もちろん、赤ちゃんは無事生まれました。 元気でした。
妊娠高血圧とは直接関係がないと思いますが、臍帯がかなり短くて、それが足首に巻きついてました。
これがなかなか生まれなかった原因だったようです。
今までにも、患者さんからはいろんなリクエストがありましたが、このパターンは初めてでした。
たしかに、何の挨拶もなくて居心地のよい子宮からひっぱりだされたら、赤ちゃんの気分はよくないかもしれません。
でも、今から生まれるのをおなかの赤ちゃんに伝えるのは、医者の仕事ではないんじゃないの?なんてことも思いました。
ただ、お腹の赤ちゃんも、ひとりの人格として扱ってほしい、という気持ちの表れでしょう
聞いているのは母親でも、胎児に対するインフォームドコンセントを希望されたわけです。
ボクはそう納得することにしました。
まぁ、この人が機嫌よく、元気な赤ちゃんを産んでくれるのならこれくらいのことはお安い御用です。
それにしても、長く産婦人科医をしているといろんなことがあります。
ホント照れくさい、照れくさい。
元気な赤ちゃんが生まれて、ボクが照れくさかったくらいなら、それでもいいんです。
お母さんと赤ちゃんのためにできること、いつもそればかり考えてるんですが、
たまにはこんな変化球が飛んでくるんですね。
手術の後、照れくさがってたら、詰所で部下の先生が笑いながら、うれしそうにひとこと。
「また、ブログのネタができましたね!」
「うん、今日のことは、たぶん、さすがに、書くと思うわ・・・。」
いろんな思いを胸に、これからも、産婦人科医は頑張ります。
私は破水して入院したものの、3日間陣痛促進剤を使っても陣痛が強くならず、
結局4日目に帝王切開で出産しました。
私の場合は、赤ちゃんもだいぶ下がってきていて、
子宮口も7cmまで開いたのですが、そこから先に進まず。
破水してしまっているので、これ以上先延ばしすると、
感染の危険もあるし、促進剤によるストレスもあるからということで、
帝王切開になりました。
正直、3日間の微弱陣痛で、私も付き添いの旦那様も疲れていたし(苦笑)
でも、陣痛は赤ちゃんから信号が出て、それで起こると聞いたことがあったので、
「まだ赤ちゃんは準備ができていないのかな?
それで陣痛がこないのかな?
それなのに、無理やりオナカから出していいのかな?」
って思いました。
助産師さんはなぐさめるつもりで、
「よっぽどお母さんのオナカの中が気持ちいいのね」
って言うし。
だから、「これから生まれるんだよ!」っていうのをしっかり伝えて欲しい、
っていう、このお母さんの気持ち、よくわかります。
私も、手術の前に
「これから生まれるんだよ~。いよいよご対面だよ~」
って、心の中でずっと話しかけていました。
このお母さんも、きっとそうだと思います。
そして、取り上げてもらうharu先生にも一緒になって伝えてもらえて、
すごく嬉しかったと思います。
赤ちゃん、元気に生まれてよかったですね。
haru先生、お疲れ様でした☆
by りょお (2008-11-28 10:31)
りょおさん、コメントありがとうございます。
3歳か4歳まで子供には胎内記憶があるといいます。
いつかお子さんに、どうしてなかなか出てこなかったのか聞いてみてください。
4年前に早産で生まれた子供がうちの小児科に来て、胎内の思い出を語ってくれたそうです。
ちなみに、うちの下の子に聞いてみたら、「知らん。忘れた。」と答えてくれました。
by haru (2008-11-30 08:29)
私も前のお産の時それを思いました。突然外に出されたらびっくりするんじゃないだろうかと。予定日を一週間過ぎて帝王切開のため入院する前夜、自分の腹に向かって
「明日は今いるところの天井を切って出されてしまうからびっくりするかもしれないよ」
と話しかけました。それを聞いておののいたのかどうか翌朝破水してからどんどんお産が進み少しも下りていなかった子があっという間に下りてきて夕方には自然分娩していました。
余程自主的に出たかったのかなあと。
by 通りすがりなのですが (2008-12-01 23:57)
はじめまして。
いつも読み逃げさせて頂いています。
私も妊娠中毒で約4週間早い帝王切開での出産となりました。
赤ちゃんがちゃんと泣いて出てきてくれるかすごく心配だったのを
覚えています。
ブログの中に
「体外受精後妊娠など帝王切開を行うのに十分な理由」
とありますが、体外受精だと帝王切開になりやすいのですか?
私はギリギリ高齢出産では無かったのですが、体外受精で授かった子
なので少し気になりました。不妊治療ではそんな説明も無かったですし。
因みに、帝王切開後の縫合の時、医師の方(2人いました)は忘年会の
話をしていました。ボーっとはしていますが、結構話は耳に入るので
注意しないとダメですね。
by riko (2008-12-03 13:13)
通りすがりなのですが、さんコメントありがとうございます。
お腹の赤ちゃんにしっかり言って聞かせれば、ちゃんと自分でくるりってまわりながら生まれてきちゃう、ってことは多々あります。
そんな時はみんなに「賢い子だ」といわれるのです。
自然に見守ることと、医療が介入することの境目の判断はなかなか簡単ではありません。
すくなくとも、「さぁ、そろそろ生まれてくるんだよ」と話しかけるのは、お母さんやお父さんの仕事で、産婦人科医のおっちゃんの仕事でなくてもいいのかなと思いました。照れくさいですよ。
by haru (2008-12-04 06:13)
rikoさん、コメントありがとうございます。
たしかに、不妊治療後妊娠だと、なかなかお産が進まないときなどには、「やっとできた子なんだから、無理しないで安全にお産しましょう。」と帝王切開になるときの理由のひとつになります。
不妊治療の方は高齢のことが多いのもそのひとつでしょう。
もちろん、自然分娩される方はたくさんおられます。
もともと、治療方針にはある程度の選択の幅があるので、安全、とくに赤ちゃんに対する安全に重きを置く場合、そういう考え方になるのです。
by haru (2008-12-04 06:20)