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帝王切開で産んだことをもう一度考える時 [分娩]

前回は帝王切開で産んで、そのことをなかなか自分の中でうまく納得できないでいることが多い、ということを書きました。
帝王切開で産んだこと自体は、日々子供が大きくなって笑ったり、歩いたりしていくにしたがって徐々に受け入れられていくものです。
「この子が元気だったから、あれ(帝王切開)でよかったんだ。」、と。

うちの病院は救急搬送を数多く受け入れている関係で、やはり、やむを得ず帝王切開で分娩される方が多いと思います。そして、次の妊娠のとき、やはりまたうちの病院でお産をしたいと来院される患者さんもそれなりに多いのです。

「前回が帝王切開で産んだ人は、今回も帝王切開ですよね?」
2回目の妊娠でうちの病院にこられたとき、なかば、あきらめ半分でこう聞かれることがあります。
   「基本的には帝王切開になりますね、うちの病院では。」
「やっぱりそうですよね~。ちょっと聞いてみただけです。」

帝王切開で産んだ患者さんは最初に言ったように、少しずつでも赤ちゃんを育てていくなかで少しずつでも納得していく(していくしかない?)のです。
そして、次に妊娠したとき、もう一度必ず「もしかしたら下からお産(経膣分娩)できるかもしれない?」と考えるのです。
「今度、先生に聞いてみよう。」って。

前回帝王切開で、今回経膣分娩するのは、VBAC(Vaginal birth after Cesarean section)といいます。医学的には可能ですし、ボクも昔修行した大病院ではこのVBACを積極的にやっていました。その大病院では、ほとんどの患者さんでVBACは安全に行うことができました。しかし、年に1、2度の割合ですが、途中から緊急手術に切り替わることがあるのです。
分娩停止や子宮破裂などが医学的理由となりますが、緊急で帝王切開をするとなると、麻酔科や輸血部などが必要になることがあり大きな病院では24時間対応できることもうちの病院では安全に対応するには限界があります。
そういった理由で、基本的にうちの病院ではVBACは行っていません。そして、どうしてもという妊婦さんには大きな病院を紹介しています。
でも、このことは病院のシステム・規模上の問題であり、そのことで患者さまに十分な医療サービスを提供できていない、とは考えません。
安全に分娩を終了することこそが第一の目標であり、なによりもボクたちに求められるものであると考えています。

でも、どうしても、「なんで帝王切開になったのか?今回こそは自然分娩したい。」と思う気持ちは自然に出てくるものだと思います。
  「今回は帝王切開になっちゃったけど、次の妊娠のときとか、あとからジワッときますよ。でも、そんなときには、ボクのところに相談に来てくださいね。」と、ボクは退院のときにいいます。

自分がいかに怖い思いをして、がんばって、お産をしたかということをもう一度説明します。
そして、そのことこそが次のお産に向かってがんばっていけるエネルギーにつながると信じています。

帝王切開も、立派なお産です。
怖い思いをして産んだ分、褒めてもらえることはあっても、けっして悲しい気分になることはないのです。


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帝王切開、私は帝王切開で産まれました。小さいときは赤ちゃんはおなかを切って産まれてくるものだと思ってました。お風呂に入ればお母さんのおなかには傷もあるし、弟が生まれる時だって、やっぱりおなかを切って産まれてきたし・・・。
赤ちゃんは違う方法でも生まれてくる、ということを知ったのは思春期に入ってからだったか、もっと大きくなってからだったか。遅かったなあとわれながら思います。
子どもはどうやって産まれてきたか、ってことはおぼえてないってことですかね。
自分は多分帝王切開で生むんだ、なんて思っていましたが、自然分娩でした。遺伝もしないんですね。
なんか、変な感想ですみません。
by (2007-07-20 15:00) 

そらまめ

一人目を帝王切開したあと、随分とVBACのことについて調べたり考えたりしました。
やはり下から産んでみたい、そんな思いもどこかにありました。
でも

>安全に分娩を終了することこそが第一の目標

これに尽きるとの結論に私は至りました。
今通っている病院ではVBACも対応可能で実際どうするかも聞かれましたが、自分の中で答えが出ていたので『今回も帝王切開で」と即答しました。
それは今いる家族と産まれてくる新しい家族の為。
私が健康でなければいけないと思ったからです。
お腹を切って産むことだって立派なお産!
いっぱい悩んで落ち込んで長い時間をかけて出した結論に悩みはありません。
ちょっと自分語りしすぎました(汗)
今でもお産で残念なことになることはあるけれど、少なくとも昔だったら大事に至ってた事例でも助かることが出来る世の中でよかった、そしてそんな産科医療を支えてくださっている先生方には本当に頭が下がります。
by そらまめ (2007-07-20 23:09) 

haru

ちばおハムさん、そらまめさん、コメントありがとうございます。
「帝王切開もりっぱなお産」であることはこれからも伝えていきたいと思います。
その一方で、せっかく無事自然分娩でお産できても、「しんどかった」、「痛かった」など、なんとなくネガティヴなイメージで受け止めてしまう人もあるのも事実です。
いかに不安なくお産と向き合えるか?
どんなお産でも大切なテーマだと思います。
by haru (2007-07-22 22:43) 

ぽてち

私も帝王切開で産まれました。母の大きな傷を見て育ったので、全然気にしてません。っていうか、小さい頃は、こんなところから産まれてすごい!って思ってました。
私自身は、病気で子宮を失ったので、子供は産めなかったけど、産まれて、この世に出て生きてるってことがすごいんだと思います。
by ぽてち (2007-07-23 22:08) 

haru

ぽてちさん、コメントありがとうございます。
赤ちゃんが元気で生まれ、健やかに育つことが第一とはいえ、やはり、手術は怖いものです。
頑張って自分を産んでくれたお母さんには心から感謝したいです。
ボクも昨年、ちょっとした手術を受けたのですが、メスが入る瞬間、「お母ちゃん、ごめん。」って思いました。
自分が元気に生きてることはお母さんに対する一番の孝行なんでしょうね。
by haru (2007-07-24 07:32) 

偶然見つけて、引き込まれてしまいました。
私も、2003年2月と2007年2月に、帝王切開で2人の子供を無事に出産しました。何よりも無事に、わが子を抱きたいという一心での選択でしたが、2人目の出産の時は、私もVBACについて調べ、悩み、現実を知って落ち込みました。でも、2人目の出産となると、わが子はもちろん、先に生まれている第一子のためにも、私も元気でいなくてはいけないという思いも強く、帝王切開の選択で間違いなかったと思っています。

> 「今回は帝王切開になっちゃったけど、次の妊娠のときとか、あとからジワッときますよ。でも、そんなときには、ボクのところに相談に来てくださいね。」と、ボクは退院のときにいいます。

このくだり、ほろっときました。
最初のときは、本当にわからないんですよね。でも、私もこう言ってもらえたら良かったのに…と思うと、haruさんの素敵な人柄が想像できます。どうか、これからも、頑張ってください!

たまに、子供の虐待の話題で、”無痛や帝王切開だと~”ということを口にしている人がいて、非常に腹立たしい思いをすることがありますが、少なくとも私は帝王切開で良かったと思っています。
友人が、”色々な手術があるけれど、こんなにおめでたい手術はないんだよ”と言ってくれましたが、本当にその通り。2人の子供達は大切な宝物です。
長々とすみません。
by (2007-07-26 00:10) 

haru

niiniiさん、コメントありがとうございます。
今日も昨日も、ボクの外来には、前回のお産が帝王切開のお産で、今回はどうしたらいいでしょうか?という妊婦さんが来られました。
あくまでも、いろんなリスクを説明しながらも、そういう疑問や思いがあくまでも自然な気持ちであることを説明しました。
その上で、今回のお産を不安なく迎えられるように一緒に頑張っていきたいと考えています。
自分の子供を健康で産むために、こわい手術を受けた人をどうして責めたりすることができるのでしょうか?
むしろ、自分が怖いという理由のためだけに帝王切開を拒んだ妊婦さんがが、産んだ子を虐待をしていたというケースのほうがボクには印象的でした。
by haru (2007-07-26 23:08) 

ままきの

ずいぶん遅い書き込みで失礼します。
でも、haru先生の帝王切開で産むことについての記事を拝見して、本当に心から感動しました。

>帝王切開も、立派なお産です。
怖い思いをして産んだ分、褒めてもらえることはあっても、けっして悲しい気
分になることはないのです。

この言葉に思わずうるっとしてしまいました。
自分自身、帝王切開になったことで色々と悩み苦しんだことがあり、それも乗り越えたつもりでいましたが、心のどこかでずっと引っかかっていたのに、無理矢理フタをしていたようです。
出産して半年たち、ようやく母親として自信が持てるようになってから、少しずつ気持ちの整理が出来てきたような気がします。
これからもまたふっと思い出して悩むことがあるでしょうが、自分のお産に自信を持ってやっていこうと思います。
武勇伝ですものね!すてきなお言葉ありがとうございました。

by ままきの (2008-04-26 10:47) 

haru

ままきのさん、コメントありがとうございます。
自然なお産と安全なお産は必ずしも一致するとは限りません。
ただ、子供が大きくなって、自分が生まれてくるときの様子を聞いてきたら、誇りを持って言えると思います。
「あなたを大切に産むために、お母さんは怖いけど頑張ったんだよ。」と。
ボクが伝えたいことを理解してもらえてうれしいです。
by haru (2008-04-26 16:44) 

ミハル

はじめまして。
私も遅い書き込みですみません。

5月23日が出産予定日の妊婦です。
一人目が単殿位で、医師から普通分娩にするか帝王切開にするかと聞かれ、私は普通分娩を希望していました。ただ実母のまわりに逆子を普通分娩で出産したため障害が残り3歳で亡くなったというケースと、緊急の帝王切開の後、普通分娩で2人出産したケースがあったため、なかば強引に帝王切開を選択させられました。
そのとき母は「次は普通に産めるかもしれないんだから」と言い、現在までVBACに対する反対は一切ありません。そして今回私自身はVBACを明確に希望しているつもりでしたが、リスクを知るほど混乱してきて「どっちで産むのも嫌」と泣いたりイライラしたりする日が続いているときにここに来ました。

>「今回は帝王切開になっちゃったけど、次の妊娠のときとか、あとからジワッときますよ。でも、そんなときには、ボクのところに相談に来てくださいね。」

…わかってくれる人がいる!!そう思ったら急に涙が出ました。
どう産むか早く決めなきゃいけないって焦っていたけれど、本当は複雑な気持ちがあるってことを誰かに察して欲しかっただけなんですね。
子宮破裂の頻度は1%程度と聞きました。それを多いと感じるか少ないと感じるかは微妙なところだと思っていましたが、気持ちが少し楽になってようやくその数字がゼロではないことに気が付きました。
そういえばクレチン症(長男の持病です)で産まれる確率ってどれくらいだっけ?と調べてみると一過性のものを含めたところで0.02%くらい。
ゼロに近いけどゼロじゃない。ここにいるもん!!
私を現実に戻してくれたのは意地でも逆子で居続けた本人だと思ったら笑ってしまいました。あまりに元気にプクプクと育つものだから、薬こそ忘れたことはないものの病気だってことを忘れていました。
良いのか、悪いのか…。

今度の健診は夫と一緒にVBACの説明を受けに行く予定でしたが、帝王切開を希望すると伝えてきます。
一度経験しているだけにはっきり言って前回より怖いですが、今の幸せを壊すことだけは絶対にあってはいけませんから。

気持ちが再び揺らいでしまう前に、決意も込めて書き込ませていただきました。
ありがとうございました。

by ミハル (2008-05-02 00:45) 

haru

ミハルさん、コメントありがとうございます。
逆子の赤ちゃんを産むことよりは、VBACをすることの方が安全かも知れません。実際、逆子の赤ちゃんを産むことの方が圧倒的にリスクは高いと思います。
ただ、可能性は低くても、子宮が破裂すると、赤ちゃんのみならずお母さんに対するリスクも高くなります。
「安全に」お産することの意味がかなり変わってきます。
お母さんも赤ちゃんも両方が健康でいることの大切さを改めて考える時間だと思います。
逆に、がんばって経膣分娩しても、自分は満足だけど、誰も褒めてくれない、そういう時代だと思います。
頑張ってくださいね。
by haru (2008-05-02 13:25) 

みっくんママ

分かります!
本当にまさにそうなんです!
1度帝王切開された事がある方は、
複雑な気持ちなんです。
複雑と言うか悩むんです。私もそうでしたし。
私は実母に
「早く切っちゃえばいいのに」
と言われとても悲しかった事覚えています。
(実母は帝王切開の経験ありません)

なのでどれだけ言葉と言うのは
相手にとって大事な事か。
haru先生のように、考えてくださる方がいらしていると
思うと、又心があたたまりました^^

1人目は障がいがあります。
なので
「元気な赤ちゃんを生む・無事赤ちゃんを生む」
と言う事がどれだけ簡単・当たり前じゃないと言う事か。
キセキなんだと感じます。


by みっくんママ (2008-10-09 23:18) 

haru

みっくんままさん、順番は違いますが、少しずつでもお返事させて頂きます。(先日は、とりあえず、返事させて頂きました。)
一人目のお子さんに障がいがあるとのこと、女性として、親として、周囲の人の気持ちもいろんな「言葉」をかけられたと思います。
産婦人科医は、小さな命を見守る大切な責任をいつも感じながら生きています。ボクの「言葉」は、不十分かもしれませんが伝えたいことがたくさんあります。
ボクの言葉で、ホッとしたとか、安心した、という妊婦さんや、ママさんがいる限り、ボクなりい伝えていきたいです。
by haru (2008-10-14 09:57) 

なつみ

初めまして。
古い記事にコメントをしても良いのか迷いました。
先日出産を終えた者です。
帝王切開は数あるオペの中で、母親が唯一、我が子のために自分の命を捧げることができるオペ‥というのを思い出しました。
オペは何でも命懸けです。


by なつみ (2017-01-15 23:29) 

haru

なつみさん、コメントありがとうございます。
そして、出産おめでとうございます。
オペは命がけなんですが、自分以外の人のために受けるオペは、帝王切開と、もう一つ、生体臓器移植のドナーというものがあります。
肝臓の一部や腎臓です。卵子提供というものあります。
健康な人の体にメスを入れるのはやはり大変なことなのだと、あらためて考えました。
by haru (2017-02-26 10:17) 

みかん

はじめまして。
帝王切開について検索してこちらに辿り着きました。
記事を読んで、先生の方からこのような言葉をかけて頂けると救われる患者さんは沢山いらっしゃるだろうなと思いました。
私の場合、頑張れば下から産めていたかもしれないところ、陣痛の痛みに耐えられず帝王切開にしてもらいました…今回のお産について、主治医に聞いてみたいところはあったけど、それは自分と向き合うことでもあり、怖くて言い出せず終わってしまいました。

大変なお仕事だと思いますが、先生方のおかげで母子ともに元気に暮らすことができており、感謝しています。
これからもお身体に気をつけて、ブログの更新を楽しみにしております。
by みかん (2017-03-23 14:32) 

haru

みかんさん、コメントありがとうございます。
帝王切開で産んだことを、あとになって悩んでしまうのは、やはり周囲の人の一言が原因だったりするのではないでしょうか?
「もうちょっと頑張ったら、下から(経腟分娩で)うめたんじゃないか?」などと、自分でも少し思っていたことを、他人から言われたとしたら、結構こたえるのではないでしょうか?
でも、逆も考えてみましょう。
帝王切開じゃなくて、経腟分娩で頑張ったら、もしかしたら、赤ちゃんが元気に産まれてこなかったかも知れない。
自分が、この帝王切開の怖さを乗り越えてなかったら、赤ちゃんを産むことはできなかったんだ、と。
言いたくても言えないだろうから、ボクはいつも帝王切開のあと、家族が本人に会う前に、手術の経過を説明し、そして、こう付け加えていました。
「母子ともに元気です。頑張って、怖いのに、よく我慢されました。お母さんを、どうぞ褒めてあげて下さい。」
by haru (2017-04-12 09:03) 

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