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友達がそういったんです [分娩]

先日、お産をされた産婦さんのことです。
もともと不安の強い方で、外来診察の時からいろんなことを質問されていました。

「先生、妊娠40週になったので、誘発して産ませてください」
 「えっ?」
「予定日過ぎたんで、もう産みたいんです。」
 「まだ、1日しか過ぎてないのに。」
「今日、入院できるように荷物も全部準備してきました。」
 
たしかに、今回の妊娠は全く正常ですが、前回に比べて赤ちゃんがすこし大きめのようですから、
あんまり大きくならないうちに産んでしまいたい気持ちも理解できます。
また、上のお子さんを預けたりする都合もあるでしょう。
普通なら、そんなことは医学的にも必要ありませんよ、と断るところです。
でも、数日前に、一気に8人の患者さんが退院して、
病棟はがらんとしていました。
そんなこともあって、
 「まあ、いいでしょう。」
管理職的な判断も、少なからず影響していました。
そして、分娩誘発の説明を、手順や、リスクなどをひとつひとつ順番に説明しました。
誘発してからお産まで2、3日かかることもある、とも説明しました。

「え~っ、そんなに大変なことなんですか?」
分娩誘発はそれなりに事故発生の可能性もあり、慎重にするべき医療介入です。

「友達が、お産の時、誘発してもらったら15分で産まれた、って言ってました。」
 「お友達はそうだったかもしれませんが、〇〇さんの場合は違うと思います。」

赤ちゃんの推定体重が3600グラムだったので、かかる時間は長めにいっておいた方が良さそうです。
 「これくらい大きな赤ちゃんを15分でお産する方がかえって危険だと思います。あくまでも、安全第一で頑張りましょう。

「促進剤の陣痛は、普通の陣痛より痛くないって聞いたんですけど・・。」
 「そんなことはありませんよ。 痛いのは一緒です。」
「友達は誘発の方が全然痛くなかったって言ってたんですねど。」
 「お友達はそうだったかもしれませんが、〇〇さんの場合は違うと思います。」

その日のうちに入院して、陣痛誘発しましたが、その日は産まれませんでした。
次の日、また朝から誘発再開です。
昨日の夜中から少しづつお腹も張っていたようで、子宮口は少し柔らかくなっていました。
旦那さんも仕事をキャンセルし、準備万端整った、っていう様子です。

お昼前から陣痛がきつくなり、促進剤を使わなくてもどんどん陣痛が進んできました。

 「いまは、もう自然なお産だと思ってください。」
「え~っ、どうしよう?」
 「産むしかないでしょう。」
「は、はい、頑張ります。 でも、先生、この痛いのをどうにかしてください。」
 「いやいや、それはできません。」

子宮口9センチになった時、あんまりにも痛そうで、悲鳴が上がってきました。
見るに見かねて、傍頚管ブロックをしてみました。
もちろん、それに伴うリスクなどはご主人に説明しました。
神経ブロックで、陣痛の痛みがすこし落ち着いて、
まもなく子宮口が全開大になりました。

 「さあ、もう少しですよ。 落ち着いて頑張りましょう。」
「・・・・・」

すると、この方、突然、何も言わずに、
白目をむいてのけぞり始めました。
両手は、分娩台の手すりを握ったまま、
顔を引きつらせて、目をぱちぱちとしています。
けいれん発作です。

 「子癇や! 血圧チェックして!」
突然、分娩室に緊張感が走ります。

 「○○さーん、わかりますか?」
産婦さんに声をかけながら、その場にいた助産師さんに血圧測定の指示を出しました。

「はいっ!」
あれ? 返事は普通です。でも、顔は白目を剥いています。
 「○○さん、わかってますか?」
「はいっ!」
 「なんで、そんな顔してるんですか?」
あくまでも、白目を剥いてぱちぱち瞬きしています。

「友達が、産むときは目を開けた方が痛くないって教えてくれたんです。」
 「・・・・・」

よかった、子癇発作じゃないみたい。
助産師さんがボクの慌てようをみて笑っています。

 「目を開けたからって痛さはそんなに変わりませんよ。」
 (それに、目を開けてるんじゃなくて、瞬きやし、白目やし)
さすがに、ちょっと怒ってしまいました。
「えーっ!」
 「大丈夫。 あと少し、陣痛の強さをみながら、助産師が説明していきます。」

そうこういううちに、元気な赤ちゃんが産まれました。
なにはともあれ、母子ともに健康です。
 「よかった。よかった。」

心配性なあまり、いろんなひとから少しでも痛くないお産の秘訣を聞いたのでしょう。
予定日過ぎてすぐに誘発したのも、白目も、全部、友達から勧められたのでしょう。

お友達も、そういうつもりではなかったのかも知れませんが、
「こうしたら楽にお産ができる。」なんて軽率に言わないでほしいです。

お産は、ひとつひとつ違うものです。


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ニケ

スミマセン、読みながら笑いをこらえるのが大変でした(笑)。
自分も不安症で痛みに弱いので、この産婦さんの行動や気持ちはすごく理解できるのですが、ちょっと極端だったかな、と(^m^
出産自体はなんとか無事に済んで何より!でしたね。
by ニケ (2011-04-11 13:52) 

haru

ニケさん、コメントありがとうございます。
この方、やはりお友達が多くて、出産後にたくさんの方が面会に来られました。(もともと、うちの病院は家族以外の面会はお断りしているのですが、まったくお構いなしで、少々困惑しました)
結局、面会者が多すぎて、本人がくたびれてしまい、ちょっとしたマタニティーブルーみたいになってしまいました。
自分で、「面会謝絶」宣言をされました。
by haru (2011-04-13 18:37) 

みどり

haru先生、はじめまして。
ブログは以前から読ませていただいていたのですが、ずっと読み逃げしてました…すみません(^^;)

先生のブログを見つけた当時、私はまだ不妊治療の真っ最中でした。
新しい命を授かったお母さんと先生の心温まる(時にちょっと笑える)エピソードに、私にもいつかこんな日がくればいいな、と憧れと少しだけ嫉妬を持ちつつ読ませていただいていました。

そんな私も、今日、臨月を迎えることができました!
初めての陽性反応をもらった時の喜びと不安は忘れることができません。
マタニティライフは夢を見ているような毎日でしたが(時につわりで悪夢に変わる時もありましたが)、身の回りに赤ちゃん用品が増えていく最近になって、ようやく実感がわいてきました。

ようやくの臨月ですが、自衛官の夫が東北の震災で災害派遣に行ってしまい、この調子だと一人で出産を迎えることになりそうです。
不安がないといえばウソになりますが、先生のブログを読んで「妊婦さんの数だけお産のカタチはあるんだ、一人でも大丈夫!」と自分を元気づけています。

妊娠前、そして妊娠中にも私に力をくれた先生に、無事臨月を迎えたらお礼が言いたいとずっと思っていました。
本当にありがとうございます!!

私事を長々とスミマセン…。
お仕事、大変だと思いますが、これからもお身体に気をつけてくださいね。
ブログの更新も楽しみにしています。
by みどり (2011-04-14 21:57) 

haru

みどりさん、コメントありがとうございます。
なにかと不安の多い妊娠・出産だとは思いますが、
出産そのものは、長い妊娠期間とこれから始まる子育てとの間の
ほんの「一瞬」といってもいいのではないかと思います。
かといって、やはり大事な通過点です。
赤ちゃんの元気な産声を聞ける日まで、もう少し頑張りましょう。
御主人のことも心配でしょうが、無理せずマイペースでいきましょう。

by haru (2011-04-18 22:04) 

やまあらし

haru先生、はじめまして。
先生の温かいお人柄に惹かれ、このブログのファンです。

人それぞれ、いろんなお産がありますね~。
無事に出産できて何よりですね。

この産婦さんの気持ちは、よ~くわかります。(笑)

痛みに弱い私も、息子(1才7ヶ月)の出産時は、
友人、出産本、ネットで集めた”痛みへの対処法”を頭に詰め込み、
出産に挑みましたよ。
(目をつぶらないようにも、してました・笑)
効果があったとは、とても思えませが。痛いものは痛い。

要らぬ情報まで、ネットで目にし、私の場合は、恐怖心でいっぱいでした。

ところで・・・
分娩時の子癇は、どういった理由で母体&赤ちゃんに危険なのですか?
教えて頂けると助かります。



by やまあらし (2011-04-18 23:06) 

haru

やまあらしさん、コメントありがとうございます。
子癇の多くは妊娠高血圧症に続いておこります。
子癇発作が数回続くと、脳死状態になるそうです。
そこまできついのは診たことはないですが。
分娩途中で子癇で意識消失してすぐに帝王切開で分娩をした産婦さんが、数日後に意識が戻り、状況を説明したら、
「勝手に帝王切開しないでよ」と叱られたことがあります。
そういう意味でも、「怖い」です。
by haru (2011-04-19 12:02) 

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